異界人を探すしかない
俺はクルーザーの甲板に上がり、前に進んだ。
鍵を取り出して扉を開ける。施錠はちゃんとされており、誰かが入った形跡はない。
俺としては鳥やネズミに侵入されなければ良かった。
あいつらは狭い所に入り込むので、追い出すのに苦労する。食い荒らすしね。
しかし、精霊さんに中から開けられたらどうしよもうないな。
物を盗む奴はいないと思うが、俺を襲いにくるハイドラはいる……貞操帯でも作るか。
俺は船内に入って荷物を置き、ベットに倒れ込む。
「いやー、マジ疲れた……」
何だかんだで、ドワーフ村に行ってから俺は動きっぱなしだった。
肉体労働は少なかったが、亜人達との交流やら移動で、かなり体力を使っていた。
それと、ちゃんと俺が休まなかったせいでもある。
ヘスペリスでの休日は自分で決めるものなので、何もしない時間をつくるべきだった。
まあ、女達に振り回されたせいでもあるが……。
そんなことを考えているうちに、まぶたは落ちて眠くなる。
ようやく一人になって安心したからだろう。俺は寝まーす。
俺が目を覚ましたのは、次の日の昼すぎだった。
昼飯にレトルトカレーを食ったあと、俺はクルーザーを検査することにした。
まずは外から見て回る。
太陽光発電装置に問題はなく、暖房も正常に動いていた。
まだ気温は寒いので、俺は柔軟体操をやって体を温める。
船の凹んでいる部分をながめ、壊れたスクリューも変わりない。
「直す必要はないな、どうせクルーザーはここに置いて行く。あくまで仮初めの住まい……穂織に聞かれたら誤魔化そう」
船内に戻り、各計器類を見て回る。
最後に運転席に俺は向かった。
船は動かないのであまり意味はないのだが、一応見ておく。
これで終了。異常な……あった!
「な、ん、だ、と! 無線が入ってる!?」
最初、俺は目を疑い無線機の故障かと思った。何度も見て驚く。
異世界で電波が入るなどありえないことで、無線機はドワーフもまだ作ってはいない。
入電された日時を確認して見ると、クルーザーを留守にしてる冬の間に、間違いなく電波が届いていた。
無線機はチャンネル16に設定し、スリープモードにしておいてある。
通信が入れば自動で電源が入るので、電力は予備バッテリーだけで十分動く。
留守録の機能もあるので、録音された音声を再生してみると、
『…………こ……ち…………し……』
ノイズがひどすぎて、わずかな声しか聞き取れなかった。
ヘスペリスでは音声は翻訳されて聞こえるので、人種も性別もこれだけではわからない。
はっきりしたのは、俺以外にも異界人がいるということだ。
国際救難チャンネルで呼びかけてきたので、現代人に間違いはない。
電波の状況から察すると、かなり遠くから発信された可能性がある。
となると、女神の結界の外からか!?
「これは参ったな、帰ってきたばかりなのに、またもやイベントかよ……休む暇がない」
こうなると、俺一人だけで日本に帰るのがためらわれる。
誰かは知らないが、俺のように転移に巻き込まれたのなら、一緒に帰るべきだ。
聞いてしまったからには、知らんぷりはできない。
もし、ヘスペリスで困っていたなら、助けてあげたい。情けは人のためならず。
どうせ「オドの力」が回復するまで、まだ時間はある。その間に探してみるか。
となると移動手段がいる。ただ長旅になるので、バギーや自動車では駄目だ。
俺は考えた末にリンダの所へ頼みにいった。
それから一か月半、季節はもう温かい。
「オーライ、オーライ」
「はーい、ストップ!」
「よーし、引っ張れー!」
ヘカテーの湖に、たくさんの亜人達が集まっていた。
クルーザーは丸太と蒸気ウインチによって、陸揚げされてる最中だ。
俺はリンダや族長達に理由を話して、ある仕事をお願いした。
みんな快く引き受けてくれたので、俺は感謝するしかない。
何事も自分一人ではできないのだ。
異界人を探すのに、クルーザーを使うことにしたが、壊れたままでは旅はできない。
そこで船の凹んだ箇所の修理と、魔改造をすることにしたのだ。




