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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第三章 湖めぐり旅

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異界人を探すしかない

 俺はクルーザーの甲板デッキに上がり、前に進んだ。


 鍵を取り出して扉を開ける。施錠はちゃんとされており、誰かが入った形跡はない。


 俺としては鳥やネズミに侵入されなければ良かった。


 あいつらは狭い所に入り込むので、追い出すのに苦労する。食い荒らすしね。


 しかし、精霊さんに中から開けられたらどうしよもうないな。


 物を盗む奴はいないと思うが、俺を襲いにくるハイドラはいる……貞操帯でも作るか。


 俺は船内に入って荷物を置き、ベットに倒れ込む。


「いやー、マジ疲れた……」


 何だかんだで、ドワーフ村に行ってから俺は動きっぱなしだった。

 肉体労働は少なかったが、亜人達との交流やら移動で、かなり体力を使っていた。


 それと、ちゃんと俺が休まなかったせいでもある。


 ヘスペリスでの休日は自分で決めるものなので、何もしない時間をつくるべきだった。


 まあ、女達に振り回されたせいでもあるが……。


 そんなことを考えているうちに、まぶたは落ちて眠くなる。

 ようやく一人になって安心したからだろう。俺は寝まーす。


 俺が目を覚ましたのは、次の日の昼すぎだった。


 昼飯にレトルトカレーを食ったあと、俺はクルーザーを検査(チェック)することにした。

 まずは外から見て回る。


 太陽光発電装置に問題はなく、暖房も正常に動いていた。

 まだ気温は寒いので、俺は柔軟体操(ストレッチ)をやって体を温める。


 船の凹んでいる部分をながめ、壊れたスクリューも変わりない。


「直す必要はないな、どうせクルーザーはここに置いて行く。あくまで仮初めの住まい……穂織に聞かれたら誤魔化そう」


 船内に戻り、各計器類を見て回る。

 最後に運転席コックピットに俺は向かった。

 船は動かないのであまり意味はないのだが、一応見ておく。


 これで終了。異常な……あった!


「な、ん、だ、と! 無線が入ってる!?」


 最初、俺は目を疑い無線機の故障かと思った。何度も見て驚く。


 異世界ヘスペリスで電波が入るなどありえないことで、無線機はドワーフもまだ作ってはいない。


 入電された日時を確認して見ると、クルーザーを留守にしてる冬の間に、間違いなく電波が届いていた。


 無線機はチャンネル16に設定し、スリープモードにしておいてある。


 通信が入れば自動で電源が入るので、電力は予備バッテリーだけで十分動く。


 留守録の機能もあるので、録音された音声を再生してみると、


『…………こ……ち…………し……』


 ノイズがひどすぎて、わずかな声しか聞き取れなかった。


 ヘスペリスでは音声は翻訳されて聞こえるので、人種も性別もこれだけではわからない。


 はっきりしたのは、俺以外にも異界人がいるということだ。

 国際救難チャンネルで呼びかけてきたので、現代人に間違いはない。


 電波の状況から察すると、かなり遠くから発信された可能性がある。


 となると、女神の結界の外からか!?


「これは参ったな、帰ってきたばかりなのに、またもやイベントかよ……休む暇がない」


 こうなると、俺一人だけで日本に帰るのがためらわれる。

 誰かは知らないが、俺のように転移に巻き込まれたのなら、一緒に帰るべきだ。


 聞いてしまったからには、知らんぷりはできない。


 もし、ヘスペリスで困っていたなら、助けてあげたい。情けは人のためならず。


 どうせ「オドの力」が回復するまで、まだ時間はある。その間に探してみるか。


 となると移動手段がいる。ただ長旅になるので、バギーや自動車では駄目だ。


 俺は考えた末にリンダの所へ頼みにいった。



 それから一か月半、季節はもう温かい。


「オーライ、オーライ」

「はーい、ストップ!」

「よーし、引っ張れー!」


 ヘカテーの湖に、たくさんの亜人達が集まっていた。

 クルーザーは丸太と蒸気ウインチによって、陸揚げされてる最中だ。

 俺はリンダや族長達に理由わけを話して、ある仕事をお願いした。


 みんな(こころよ)く引き受けてくれたので、俺は感謝するしかない。

 何事も自分一人ではできないのだ。


 異界人エトランゼを探すのに、クルーザーを使うことにしたが、壊れたままでは旅はできない。


 そこで船の凹んだ箇所の修理と、魔改造をすることにしたのだ。

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