一人になって休みたい
「もうすぐ一番近いオークの村まで線路は届く。皆やる気があるからのう。あと仕事を終えた後のビールが美味い。これはやめられんわ!」
「ははははは、なるほど」
秋から冬にかけて、ビールは各村で作られるようになっていた。
果実酒は材料が少ないので大量には作れなかったが、大麦は自生している物もありたくさんとれた。
これを使わない手はなく、男達は真剣にビール作りに励む。
テレビもない世界では、酒は一番の娯楽である。
味にもこだわり始めて、麦を焙煎した黒ビールも作られた。
瓶詰めされたビールは毎日配られても、次の日には空きビンになる。
虎だ! お前は虎だ! 大虎になるのだー!
亜人達は男女問わず飲んべえと化した。子供は飲んではいけません。
ガラスに関しては人間の王国で作られていると、チャールズさんから聞いた。
現在の王様が地球の技術を持ち込んだらしい。モルタルもそうだ。
異界人であれば、なんら不思議はない。いずれ会うこともあるだろう。
話が変わり近況を聞くと、
「えー! チャールズさんしばらく家に帰ってないんですか? 大丈夫なんですかー?」
「うむ、線路工事で遠くまできてるからのう。いちいち帰るのが面倒だから、車両を住まいにしとる。職人達も一緒じゃよ。ドリスに会えんのは寂しいが、カカアの我が儘は聞き飽きた。仕事をしとる方が楽しいわ」
「なるほど……」
俺はシミジミと考えさせられる。結婚生活は楽しいことばかりではないな。
何百年もの年月を連れ添うかと思えば気が遠くなる。
夫婦関係が続いているだけでも凄いと思う。たまに離れたくなる気持ちも分かる。
「親方、電話です」
「おう!」
一人のドワーフが電話を運んできた。戦争時の通信兵のようにケーブルを背負っている。
電話も野戦電話のようでかなり大きい。バッテリーを積んでいるからだろう。
携帯電話には劣るが、何もないところから電子機器を作り上げたのだから、ドワーフは物作りの天才である。
何よりちゃんと動いてるので、遠くにいる人と連絡するのに、電話以上のものはない。
伝書鳩や伝令による伝達では時間がかかりすぎるし、失敗することもある。
……ただし、楽しい会話ができるとは限らない。
「あー、儂じゃ……!」
『アナタ! いつまで工事してるんですか!? 冷蔵庫はどうなったの!? さっさと作りなさい!』
奥さんの怒鳴り声がこっちにまで聞こえてきた。
チャールズさんは、顔をしかめて受話器を遠ざける。
まさか電話をかけてくるとは、思ってもみなかったようだ。
もう面倒くさいので口喧嘩せず、最初から白旗を上げている。
「わかった、わかった! 明日には帰る」
『あんまり遅いと、機関車でそっちにいきますからね!』
ガチャン、と電話が切れてチャールズさんはため息をついた。
「うーむ……遠くに逃げても機械があると、奥さんからは逃げられんなー。便利なのも考えものだなー」
「あんたが機械を広めたからよ。世の中狭くなったわ」
「そうねん。私も電動バギーでどこにでもいけるわん」
「うっ……」
二人に言われて、俺は何も反論できなかった。
やっぱり俺のせいか? 今更どうしようもない。
取りあえず、荷台に積んである枕木を降ろすことにする。
鉄道を敷くのに各村からも資材が送られ、駅の工事も進められていた。
降ろす作業もクレーン車のお陰ですぐに終わる。
これが人力だけなら、重い木材を動かすだけでも大変だ。腰を悪くする。
やはり機械に頼るしかなく、もう生活にはかかせない。
作業を終えて、俺達はチャールズさんに別れの挨拶をし、この場を去った。
街道に戻るとヘカテーの湖が見えた。水面に光が反射して輝いている。
やはり美しい湖だ。これに勝る景観はない。
しばらく進んでから、俺は荷台から降りることにする。
「ここらでいい。送ってくれてありがとな、ハイドラ」
「うー海彦、名残おしいわん。また来てよん」
「…………」
フローラは何か言いたそうな顔をしていたが、俺は手を振ってクルーザーに向かった。
いつものように二人を船に入れる気はなく、俺は一人になりたかった。
結局、冬の間中ドタバタしたので流石に疲れました。
遊びまわったせいもあるが、休んだ記憶が全くない。寝不足だ。
しばらく寝て過ごします……と思っていたのだが、新たなる厄介事がクルーザーの中で、俺を待ち受けていた……。
変化のない日常物語ではありませんので、主人公を休ませる気はありません。
楽人「冬は終わりだ。さあ冒険をするんだ、海彦!」
海彦「ふざんけんなー作者! とっとと俺を日本に帰せー!」
楽人「そうはいかん、話はまだまだ続くんだ。お前が帰ってしまったらこの物語は終わる」
海彦「だったら、終わらせろー!」
……以上、話し合いは平行線のままのようです。脳内ニュース。