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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第三章 湖めぐり旅

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氷上釣りとスケートで遊びたい

「ここらでいいだろ」


 釣る場所を決めて、ドリルを氷にあてて回すと、あっさりと穴があいた。

 素早く仕掛けを準備して、釣り糸を穴に垂らすと、竿がしなって当たりはすぐにくる。


「やった! ひー、ふー、みー……たくさん」


 ゴホン、五匹です。


 いきなり釣れて嬉しかったので、三つまでしか数えられない、どっかの先住民になってしまった。


 釣った魚は、ワカサギのようだがやや大きい。


 山蟻やまありとおなじく、ヘスペリスでは生物は大きくなるのだろう。

 俺はクーラーに魚を放り込む。氷を入れているので鮮度は落ちない。


「釣れた、釣れた!」


 近くでオークが騒いでいる。こちらはマスを釣ったようだ。


 俺だけが釣りにきたわけではない。他にも興味を持った亜人達が湖にやってきている。

 まさか冬に魚が釣れるとは、誰も思っていなかったようだ。


 半信半疑のまま湖に来て、魚を見て目を丸くしている。

 これで目の色が変わり、みんな釣りに真剣になった。


 結構、エサの食いつきはいいようで、次々と歓声が上がっていた。


 俺も負けんぞー!



「きゃははは! すべる、すべる!」


 子供らも来て遊んでいる。少し離れた場所で、あるスポーツをしていた。


 スケートだ。


 いつものように百科事典の動画を見せて、スケート靴はオークの鍛冶師に作ってもらった。

 ブレードは金型鋳造で、革靴はミシンでたくさん作り、出来映えも良い。


 リンダは鍛造で自分用の靴を作り、手間をかけている。

 

 こうして、みんながスケートを楽しんでいた。


 最初のうちはフラフラして転んでいたが、やはり亜人の運動神経はよく、時間が経つと見事に滑り出す。


 やがてグルグル回りだして、氷上で競争が始まってしまう。


 ……なんか、かなり速いんですけどー。

 まるでスピードスケートを見てるようだった。



「せい!」


「決まったわね!」


「リンダお姉ちゃん、凄い! 格好いい!」


 子供達の拍手が鳴る中、俺は絶句していた。


 いやー、いきなりトリプルアクセル(三回転半)を見せられたら、驚く他はないです。


 世界の女子選手でも成功させるのが難しい技なのに、初めて滑ってやられたら、たまったもんじゃない。


 フローラにしても、トリプルトウループをあっさり決めている。おいおい。


「スケートも、なかなか面白いわね!」


「だわさ!」


 こいつらがオリンピックに出たら、メダルを全部持っていきそうだった。


 何せ他の亜人や子供達も、かなりスケートが上手いのだ。ホントに初めてか!?


 しくしく、努力が無意味に思えてくる。



 魚がクーラー一杯になったところで、俺はいったん釣りを止めて湖岸に向かう。

 釣り道具はそのままにしておき、クーラーだけを持って行く。


 岸辺にはオグマさんが腕を組んで立っており、みんなを見守ってくれていた。

 感謝をこめて、俺は誘うことにする。


「大丈夫ですか? 寒くないですか?」


「うむ」


 手足には毛皮をつけているものの、上半身と下半身は裸に近かった。

 そばに焚き火があるから平気なのだろう……たぶん。


「いまから、宿泊所でワカサギを調理します。一緒に来て食べてください」


「うむ」


 オグマさんは少し笑ったように見えた。ただ顔は痛々しい。なぜなら……


 先日、アダルト上映会がまたもや失敗して、奥さんから殴られた跡が顔に残っていたのだ。


 俺は責められなかったが、オグマさんが代わりに罰を受けた形だ。

 本当にごめんなさい。お詫びします。


 フローラとリンダも引き上げてきて、料理を手伝ってくれることになる。


「スケートをやって、お腹が空いたわ」


「だろうな、たくさん釣ったからみんなで食べよう」


「ええ」

 腹を空かせた子供達も一緒に、俺達は宿泊所に向かった。


「さあ、天ぷらを作るぞ!」


「わーい!」


 宿泊所には鍋や材料を用意しておいたので、あとは調理するだけである。


 小麦粉・パン粉・卵は簡単に手に入ったが、菜種油だけはヘスペリスになかったので、何とか作ってもらった。


 種を焙煎ばいせんして圧搾あっさくする作業は、人手では大変だ。

 蒸気機関がなければ、とても作れなかっただろう。


 濾過ろかされた菜種油はかなり美しく、見た俺は感動した。

 あとは瓶詰めされて、各家庭に配られている。料理の幅が増えてみんな喜んでいた。


 大鍋に菜種油を入れて炭火で温める。その間にワカサギの下ごしらえを進めておく。


 子供達も喜んで手伝ってくれて助かった。


 ワカサギを鍋に放りこむと泡が立ち、油で揚げる音がする。


「わあー!」


 きつね色に変わった所で、すくい網でワカサギを鍋から取り出す。

 あとは木皿にもって、子供達の前に置いた。


「まだ熱いから気をつけてな」


「うん。ふー、ふー」


「うまい!」


 初めて食べた天ぷらは美味かったようだ。子供は素直である。


 俺も塩をつけて食ってみたが、かなりいける。

 やはり自然環境が良いヘスペリスでは、食い物はなんでも美味い。


「ほら親父」


「うむ」


 鍋は他にもあり、リンダはオグマさんに天ぷらを振る舞っていた。野菜も揚げている。


 魚はオーク達が次々と持ってくるので、いくら食ってもなくならなかった。


 あとは持ち込んだビールを飲んで、宴会になってしまう。まあ元々その予定だったが。

 大人達にとっては酒がメインで、天ぷらはつまみに近い。


 俺は途中で抜け出して釣りを続け、夕方にはオーク村に戻った。

 釣ったワカサギをリンダの母親に渡すと、喜んでくれて機嫌を直してくれる。


 これで俺はホッとする。上映会の件で罪悪感があったから。


 ……でも、もう天ぷらは食い飽きたー!

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