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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第三章 湖めぐり旅

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エルフ村から出てもフローラからは逃げられない

「それでは皆の衆、これより大人の上映会を開催する」


「ぉぉぉぉぉぉー!」


 小声での歓声が上がる。

 俺は直ぐに動画の再生を始めた。みんなを待たせる気はない。


 男達はワクワクしながら、目を輝かせている。あんたも好きねぇー。


 女達には内緒で後ろめたさはあるのだが、逆にそれが興奮をもたらしてくれる。


 なので上映会を持ちかけて、食いつかなかった男はいない。

 秘密裏に連絡しあうのも、楽しいスリルであった。


 そしてシーンがいよいよとなる瞬間、


「おおおっ! ――なんだっ!?」


「そこまでよ!」


「ご用だ! ご用だ!」


 映画館の扉が開け放たれ、御用提灯が中を照らしてまぶしい。

 エイルさんを筆頭に、鉢巻きをしめたエルフ女性が乱入してきた。


 まるで大捕物だ。


「なにー! バレたー!? なぜだー!?」


「どこから情報が漏れた? 裏切り者がいたのか?」


 フローラは言い放つ。


「裏切り者なんていないわよ。アンタらの行動が怪しかったから、みんなで見張ってたのよ。女の観察力をなめないでね!」


「うわあああああ!」


 アダルト上映は中止、もはやこれまで。


 観念した俺は大昔のコントで使われた「落ち」のBGMをスピーカーから流す。


 男達は女達に追い回されて捕まる。

 一番大目玉を食らっていたのは、ロビンさんであった。


 俺が黒幕なら、ロビンさんは首謀者だった。


 男達は家にひったてられて、朝までお説教をくらうことになる。

 それでも俺はこりずに、アダルト上映会を開くことを決意し燃え上がる。


「次こそは必ず成功させて見せる!」


 

 朝になり俺はバックパックを背負って、エルフ村を逃げるように後にする。

 雪道を足早に進んでいると、後から足音が聞こえてきた。


 誰も追ってこないと思っていたが、旅支度をしたフローラが近づいてきて、文句をタラタラ言ってくる。


「ほんと目を離すと、アンタは何をしでかすかわかんないわね。私が海彦を見張ることにするわ! これからずっとね!」


「え――――!」


 ……ずっと一緒かよ。どこぞのヤンデレか?


 結局フローラは俺の監視役兼、手伝い(アシスタント)となって冬の間中ついてくることになる。


 うざくて敵わんが、かといって追い払うことはできなかった。


 勝手についてくるのはフローラの自由、俺は息苦しい日々を過ごす羽目になる。

 それでも女の防波堤になってくれた点だけは、助かっている。


 何せ言い寄ってくる亜人の女達が増えてしまい、俺は逃げ回るのが大変だった。


 裸で迫ってくるんですよー! 愛に言葉はいらない……じゃねーよ!


 フローラが側にいれば、流石に近寄っては来ない。

 裁縫とミシンのプロなので、教わる女達からすれば怒らせる訳にはいかなかった。


 また風力発電でも重宝されている。働くのは精霊さんですが……。



 ホビット村を経て、オーク村で過ごすうちに湖は完全に凍った。

 俺は喜び勇んで外に出るが、


「よっしゃー、初の氷上釣りじゃー! ……さぶい、さぶい」


「ほら毛皮を着な、海彦」


「サンキュー、リンダ」


 震えていた俺は、毛皮を受け取って着た。これは暖かい。

 リンダには、他にも道具を作ってもらっていた。


 手回しの螺旋らせんドリルに、ほろの皮テント。


 これで寒さ対策も万全である。やはり腕の良い鍛冶師だ。

 ただし竿だけは自分で作り、使い勝手にこだわって見た。

 物作りはやはり楽しい。

 

 湖にやってきた俺は釣り道具一式をソリに乗せて、凍り付いた湖面を歩く。


 氷が割れないか少し恐かったが、オグマさんが前日に安全確認をしてくれたので問題ない。


 あとで御礼に、釣った魚をごちそうしよう。


 さあ、やるぞ!

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