エルフ村から出てもフローラからは逃げられない
「それでは皆の衆、これより大人の上映会を開催する」
「ぉぉぉぉぉぉー!」
小声での歓声が上がる。
俺は直ぐに動画の再生を始めた。みんなを待たせる気はない。
男達はワクワクしながら、目を輝かせている。あんたも好きねぇー。
女達には内緒で後ろめたさはあるのだが、逆にそれが興奮をもたらしてくれる。
なので上映会を持ちかけて、食いつかなかった男はいない。
秘密裏に連絡しあうのも、楽しいスリルであった。
そしてシーンがいよいよとなる瞬間、
「おおおっ! ――なんだっ!?」
「そこまでよ!」
「ご用だ! ご用だ!」
映画館の扉が開け放たれ、御用提灯が中を照らしてまぶしい。
エイルさんを筆頭に、鉢巻きをしめたエルフ女性が乱入してきた。
まるで大捕物だ。
「なにー! バレたー!? なぜだー!?」
「どこから情報が漏れた? 裏切り者がいたのか?」
フローラは言い放つ。
「裏切り者なんていないわよ。アンタらの行動が怪しかったから、みんなで見張ってたのよ。女の観察力をなめないでね!」
「うわあああああ!」
アダルト上映は中止、もはやこれまで。
観念した俺は大昔のコントで使われた「落ち」のBGMをスピーカーから流す。
男達は女達に追い回されて捕まる。
一番大目玉を食らっていたのは、ロビンさんであった。
俺が黒幕なら、ロビンさんは首謀者だった。
男達は家にひったてられて、朝までお説教をくらうことになる。
それでも俺はこりずに、アダルト上映会を開くことを決意し燃え上がる。
「次こそは必ず成功させて見せる!」
朝になり俺はバックパックを背負って、エルフ村を逃げるように後にする。
雪道を足早に進んでいると、後から足音が聞こえてきた。
誰も追ってこないと思っていたが、旅支度をしたフローラが近づいてきて、文句をタラタラ言ってくる。
「ほんと目を離すと、アンタは何をしでかすかわかんないわね。私が海彦を見張ることにするわ! これからずっとね!」
「え――――!」
……ずっと一緒かよ。どこぞのヤンデレか?
結局フローラは俺の監視役兼、手伝いとなって冬の間中ついてくることになる。
うざくて敵わんが、かといって追い払うことはできなかった。
勝手についてくるのはフローラの自由、俺は息苦しい日々を過ごす羽目になる。
それでも女の防波堤になってくれた点だけは、助かっている。
何せ言い寄ってくる亜人の女達が増えてしまい、俺は逃げ回るのが大変だった。
裸で迫ってくるんですよー! 愛に言葉はいらない……じゃねーよ!
フローラが側にいれば、流石に近寄っては来ない。
裁縫とミシンのプロなので、教わる女達からすれば怒らせる訳にはいかなかった。
また風力発電でも重宝されている。働くのは精霊さんですが……。
ホビット村を経て、オーク村で過ごすうちに湖は完全に凍った。
俺は喜び勇んで外に出るが、
「よっしゃー、初の氷上釣りじゃー! ……さぶい、さぶい」
「ほら毛皮を着な、海彦」
「サンキュー、リンダ」
震えていた俺は、毛皮を受け取って着た。これは暖かい。
リンダには、他にも道具を作ってもらっていた。
手回しの螺旋ドリルに、幌の皮テント。
これで寒さ対策も万全である。やはり腕の良い鍛冶師だ。
ただし竿だけは自分で作り、使い勝手にこだわって見た。
物作りはやはり楽しい。
湖にやってきた俺は釣り道具一式をソリに乗せて、凍り付いた湖面を歩く。
氷が割れないか少し恐かったが、オグマさんが前日に安全確認をしてくれたので問題ない。
あとで御礼に、釣った魚をごちそうしよう。
さあ、やるぞ!




