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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第三章 湖めぐり旅

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秋釣りを楽しみ冬は村にいくしかない

 久々にクルーザーに戻ってみれば、周辺の山々は紅葉に彩られていた。


 晩秋である。湖には枯れ葉が舞い落ちて、モザイク画のように絵になっている。


 大きな裸婦画に見えるのは気のせいだろうか……。


 俺は一人、小舟を出して秋釣りをする。静かなのはいい、聞こえてくるのは風の音だけ。

 ゆったりと時間は流れていく。


 時間に追われて、気忙きぜわしい日本の生活と比べたら、ヘスペリスではまったりと過ごすことができる。


 確かに現代に物は一杯あるが、金だけを求めるストレス社会では、心が死んでいる気がする。


 もし俺が天涯孤独の身であったら日本には戻らず、ここに骨を埋める気になっただろう。


 だが肉親がいる以上、俺は日本に帰らなければならない。

 兄として家長として、家族の無事を見届ける必要がある。やはり山彦には会いたい。


「日本に帰るには<オドの力>がたまるのを待つしかないが、湖は十分綺麗になった気はするけどなあー……来年までかかるのか。フローラが言ってる以上しゃーない」


 クルーザーの整理は終わり、数日したらエルフの村に行く予定だ。

 冬場は族長宅で厄介になることに俺は決めた。湖が凍るのでは生活はできない。


 ただ他の村々からも知識を教えてくれと頼まれており、天候を見ながら転々と訪問することになりそうだ。


 それと、


「春になったら、うち……いや人間の国に来てくれ。歓迎するぞい海彦殿」


 ドワーフ村でエリックさんから言われていた。


 お互いに助け合った仲なので、断るわけにもいかず俺は行く約束をした。

 正式に使者もくるらしい。人間の国を見て見たいという気持ちもある。


 亜人の村々の機械化は着々と進んでいた。優先されたのはやはり家電品である。

 嫁と泣く子には勝てず、チャールズさんはしぶしぶ掃除機と洗濯機を作ったようだ。


 電動機モーターさえあれば、大体の物は作れる。


 出来た機械はカバーもなく大きくて重いが、最初の家電としては十分使えた。

 もうすぐ電子部品ができるそうなので、性能は徐々にあがるだろう。


 これで奥様方の、肉体的負担はかなり軽減されて楽になった。

 手で大量の服を洗うとなると、かなり大変だ。


 たらいに水をくむだけでも大変で、川で洗濯をするにしてもしんどい。水も冷たいのだ。


 その代わり精霊さん達は大変で、毎日発電機を回しています。


 ちなみにクルーザーには洗濯機があります。乾燥機つきなので、楽してすみません。


 

 出向している職人達が作った家電品が、ドワーフ村から蒸気自動車で次々と運ばれてきていた。

 自動車は物を運ぶには便利だった。遠い村までの移動も楽である。


 村々をつなぐ鉄道も敷かれるようで、人の行き来も増えるだろう。



「海彦さん、おはようございます。今日もコーチお願いします」


「はい……」


 家事から解放された奥様方は時間が空いて、砂浜でバレーボールをするようになった。


 やってきたエイルさんはニコニコ顔だ。


 ママさんチームができて、常に対抗戦が行われている。はっきり言って恐ろしいの一言。


「うりゃあああああー!」


 女性達は今までの鬱憤ストレスをボールにぶつけるので、威力が半端ではない。


 ブロックごと相手を吹っ飛ばすのだから、新たな格闘技にしか見えなかった。


 世界の強豪が相手でも、エイルさんは負けないだろう。まず勝負にならない。


 奥様KOEEEE――!


 だから俺が教えることなんてないんだよねー。

 


 それから数日が過ぎる。


「これでよし……うー寒、ブルブル」


 クルーザーの扉に鍵をかけて、俺はエルフの村へと向かう。

 空からはチラチラと雪が舞い落ちていた。


 まだ積もってはいないが、もうすぐ辺りは銀世界に変わるだろう。

 湖も凍るらしいので、氷上釣りをやってみるつもりだ。

 ワカサギがいればいいが。


 やはり俺は釣りキチである。


 金のかからない遊びは、釣りだけだったので、今も止められない。

 釣った魚を食えば家計の助けになり、高級魚は売ったりもしたものだ。

 

 俺は傘をさして、エルフの村へと歩いていく。


 かさばる荷物はすでに運んであり、残りはバックパックに詰めこんで背負っている。


 必要な物は服や下着と日用品、それとノートパソコン類。


 そして娯楽品――これが長い冬場を過ごすキモだ。


 夜が長く外に出られないとなれば、暇になるのは目に見えている。


 退屈しないように、ある物を俺は村に持ち込んでいた。

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