秋釣りを楽しみ冬は村にいくしかない
久々にクルーザーに戻ってみれば、周辺の山々は紅葉に彩られていた。
晩秋である。湖には枯れ葉が舞い落ちて、モザイク画のように絵になっている。
大きな裸婦画に見えるのは気のせいだろうか……。
俺は一人、小舟を出して秋釣りをする。静かなのはいい、聞こえてくるのは風の音だけ。
ゆったりと時間は流れていく。
時間に追われて、気忙しい日本の生活と比べたら、ヘスペリスではまったりと過ごすことができる。
確かに現代に物は一杯あるが、金だけを求めるストレス社会では、心が死んでいる気がする。
もし俺が天涯孤独の身であったら日本には戻らず、ここに骨を埋める気になっただろう。
だが肉親がいる以上、俺は日本に帰らなければならない。
兄として家長として、家族の無事を見届ける必要がある。やはり山彦には会いたい。
「日本に帰るには<オドの力>がたまるのを待つしかないが、湖は十分綺麗になった気はするけどなあー……来年までかかるのか。フローラが言ってる以上しゃーない」
クルーザーの整理は終わり、数日したらエルフの村に行く予定だ。
冬場は族長宅で厄介になることに俺は決めた。湖が凍るのでは生活はできない。
ただ他の村々からも知識を教えてくれと頼まれており、天候を見ながら転々と訪問することになりそうだ。
それと、
「春になったら、うち……いや人間の国に来てくれ。歓迎するぞい海彦殿」
ドワーフ村でエリックさんから言われていた。
お互いに助け合った仲なので、断るわけにもいかず俺は行く約束をした。
正式に使者もくるらしい。人間の国を見て見たいという気持ちもある。
亜人の村々の機械化は着々と進んでいた。優先されたのはやはり家電品である。
嫁と泣く子には勝てず、チャールズさんはしぶしぶ掃除機と洗濯機を作ったようだ。
電動機さえあれば、大体の物は作れる。
出来た機械はカバーもなく大きくて重いが、最初の家電としては十分使えた。
もうすぐ電子部品ができるそうなので、性能は徐々にあがるだろう。
これで奥様方の、肉体的負担はかなり軽減されて楽になった。
手で大量の服を洗うとなると、かなり大変だ。
たらいに水をくむだけでも大変で、川で洗濯をするにしてもしんどい。水も冷たいのだ。
その代わり精霊さん達は大変で、毎日発電機を回しています。
ちなみにクルーザーには洗濯機があります。乾燥機つきなので、楽してすみません。
出向している職人達が作った家電品が、ドワーフ村から蒸気自動車で次々と運ばれてきていた。
自動車は物を運ぶには便利だった。遠い村までの移動も楽である。
村々をつなぐ鉄道も敷かれるようで、人の行き来も増えるだろう。
「海彦さん、おはようございます。今日もコーチお願いします」
「はい……」
家事から解放された奥様方は時間が空いて、砂浜でバレーボールをするようになった。
やってきたエイルさんはニコニコ顔だ。
ママさんチームができて、常に対抗戦が行われている。はっきり言って恐ろしいの一言。
「うりゃあああああー!」
女性達は今までの鬱憤をボールにぶつけるので、威力が半端ではない。
ブロックごと相手を吹っ飛ばすのだから、新たな格闘技にしか見えなかった。
世界の強豪が相手でも、エイルさんは負けないだろう。まず勝負にならない。
奥様KOEEEE――!
だから俺が教えることなんてないんだよねー。
それから数日が過ぎる。
「これでよし……うー寒、ブルブル」
クルーザーの扉に鍵をかけて、俺はエルフの村へと向かう。
空からはチラチラと雪が舞い落ちていた。
まだ積もってはいないが、もうすぐ辺りは銀世界に変わるだろう。
湖も凍るらしいので、氷上釣りをやってみるつもりだ。
ワカサギがいればいいが。
やはり俺は釣りキチである。
金のかからない遊びは、釣りだけだったので、今も止められない。
釣った魚を食えば家計の助けになり、高級魚は売ったりもしたものだ。
俺は傘をさして、エルフの村へと歩いていく。
かさばる荷物はすでに運んであり、残りはバックパックに詰めこんで背負っている。
必要な物は服や下着と日用品、それとノートパソコン類。
そして娯楽品――これが長い冬場を過ごすキモだ。
夜が長く外に出られないとなれば、暇になるのは目に見えている。
退屈しないように、ある物を俺は村に持ち込んでいた。




