ドワーフ村を出て冬支度するしかない
俺が悪あがきする前に、ゴブリン達はあらぬ方向見て騒ぎだす。
「ンギャ、ギャギャ!」
「重騎兵突撃! 海彦を助けろ!」
「ウオオオオオ――――!」
ミシェルの声が聞こえたかと思えば、完全武装の兵士達がゴブリン達を蹴散らし始める。
人間の王国軍だ。そう言えば、エリックさんが第二陣で来ると言ってたな。
兵士の数は多く、小隊ごとに上手く連係して戦っていた。やはり騎兵は強い。
武装も立派であり、ゴブリンの武器は全く歯が立たない。
形勢は逆転し、王国軍は瞬く間にゴブリンを制圧した。
ふー、どうやら命拾いしたらしい。俺も悪運が強いな、ミシェルには後で礼を言おう。
ただ、謝礼に体を要求されたらどうしよう……まあ言われないとは思うが。
子供達と女達も兵士に無事保護されていた。良かった、良かった。
ん? なんだこれ?
地面に光る物があり、それを拾って見ていると、フローラが近づいてきた。
目を真っ赤に腫らして怒っており、拳を振り上げている。
やべえ――勝手なことをしたから殴られる!
俺は思わず目を閉じたが、胸を軽く叩かれただけだった。
「……あんまり無茶しないで」
「そうねん……」「だわさ……」「そうなのじゃ……」
「「「「うわあああああああああああん」」」」
女四人に泣きつかれてしまった。これは結構きつい。
かなり心配させてしまったようだ。
命を粗末にする気はないのだが、それ以上に人命救助という本能には逆らえない。
どうも逃れられない呪縛のようなものだ。
俺は平謝りして女達をなだめるしかなかった。
もうゴブリンの姿はなくなり、鉱山からは勝ち鬨が聞こえてくる。
族長達は余裕で勝ったのだろう。
「全員整列! 負傷者はいないな?」
「ウイ!」
「周囲を警戒しつつ、ドワーフ村に向かう!」
ミシェルがテキパキと軍隊に指示を出していた。俺は側によって話しかける。
「ミシェル助けてくれてありがとう。ところでゴブリンの死体が消えてるんだが……」
「気にするな海彦。個人的には謝礼に体が欲しいとこだが……ひとまずそれは置いておこう」
「…………」
この女、言ってきやがった。
「ゴブリンの死体は疫病の元になるから、結界に投げ捨てている。その後、どうなるかは知らないが二度と戻ってくることはない」
「そうか」
ミシェルが指をさした所を見れば、兵士達が霧がかかっている場所へ、死体を投げ込んでいた。
「あの霧が女神の結界なのか?」
「そうだ、たまに薄くなって魔物どもが入り込んでくる。人間と亜人を閉じ込めている檻だ。結界があるせいで、我らはヘスペリスの外には出られん」
「檻か……」
本当にそうなのか? と俺は疑問に思ったが、まずは拾った物を見せることにする。
それはゴブリンの持ち物にしては、精巧にできており気になっていた。
「この短剣に心当たりはないか?」
「月に鳥――我が家の紋章! 父様の短剣だ! これをどこで!?」
「さっき、そこで拾った。ゴブリンが持ってたんだと思う」
「くっ!」
「やめろ、ミシェル!」
ミシェルは霧の結界に飛び込もうとしたので、俺は慌てて手をつかんだ。
父親の手掛かりが見つかって、気が動転したのだろう。冷静ではいられなかったようだ。
俺は必死で説得する。
「落ち着けミシェル! 闇雲に飛び込んでも、死ぬだけだぞ! 短剣はあったが、まだ親父さんが死んだと決まったわけじゃない。もし結界の外に出たのだとしても、生きてる可能性はある。ミシェルの親父さんは強いんだろ?」
「……そうだ。父様は強い、誰よりも強い! ゴブリンごときにやられはしない。すまなかった海彦……私はどうかしていた」
「父親を思うのは当然だ。まあこれで地球に帰っていないのは分かったな、親父さんはきっとミシェルの元に帰ってくる」
「そんな気がしてきた。海彦が来てから、世界が変わり始めているからな……」
俺は照れ隠しに頭をかく、ヘスペリスにきたのも単なる偶然なのだ。
たいした重要人物でもなければ、勇者でもない。
ゴブリンとの戦いは終わり、俺はミシェル達と一緒にドワーフ村に戻る。
子供達を親元に送り届けると、何度も頭を下げられ俺は恐縮した。
活躍したのは女達だが、ドリスが「海彦のおかげじゃ」と言って、功を俺にゆずってくる。
それでドワーフ連中からは感謝されることになる。俺なんにもしないのにー……。
次の日、俺達は村人総出で見送られた。ドリスは母親の隣で名残おしそうにしている。
俺は荷台から手をふっていた。
「リンダ、勝負する?」
「のぞむところだわさ! ハイドラ」
「二人とも、大事な荷物を積んでるんだから競争は駄目よ!」
フローラが止める。
ハイドラはバギーに乗り、そしてリンダは蒸気自動車に乗っていた。
まだゴムタイヤはなく鉄と木の車輪だ。車体やサスペンションにもまだまだ課題はある。
それでも道を走れる車ができたのは大きい。これでエルフ村には半日で帰れるだろう。
魔法使いに乗せてもらうことになるが、俺としても移動が楽になるのは良かった。
村々を走り回るのは大変だ。
レースは中止になり、安全運転で進むことになる。
ちなみに俺とフローラは後の荷台に載っているが、族長達は馬車での帰還となる。
もうかなり距離が開いており、男親達は置いてけぼりにされていた。
娘達は父親を待とうともせず、先に進んで行く。今は母親に早く会いたいらしい。
女だからこそおしゃべりしたいし、土産話は山ほどある。
話し相手として、何より自分を認めてくれる人なのだから。
俺は親がいるのを羨ましいと思いつつ、冬をどう過ごすか考えていた……。
第二章 終わり。
第二章 終わりです。今後の展開は大体決まってますが、文章にするとなると大変すね。
別作もあるので、いかに本筋を肉付けするかが問題です。
なるべく冗長にならず、たっぷり薄めたカルピスに、ならないようにしたいです。
更新が遅いのは勘弁。
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