やっぱり奥様方はえらい
邸宅の外には血相を変えた男達が、チャールズさんの所に続々と集まっていた。
「お頭! ゴブリンどもは鉱山に向かってやす!」
「分かった! 皆、武器を持てー!」
「おおお――――――――!」
耳をつんざくほどの掛け声が上がる。俺は思わず耳をふさいだ。
エルフ・オークの部族達も集まり、ロビンさん達が声をかける。
「チャールズ、儂らも戦うぞ!」
「うむ!」
「よし! 武器庫はこっち……ああ、しまったー!」
「どうした!?」
「ここんとこ機械いじりばかりしてたから、武器の手入れを全然しとらん。ゴブリンの襲撃なんぞ何十年もなかったからな、武器が使えるといいが……」
「何も無いよりはマシじゃ、とにかく行ってみよう」
「ああ……」
男達は一斉に走り出して、俺も後についていく。
幾つかの角を曲がって武器庫につくと、
「あれ?」
大扉は開け放たれており、革鎧はすでに外に出されていた。
武器もバケツリレーで、中から運び出されている最中だ。
運搬作業をしているのはドワーフの奥様連中であった。
ドリスの母親は夫に発破をかける。
「あなた! しっかり戦いなさい!」
「お、おう……」
武器と防具の保存状態は良く、錆すらなかった。
夫には内緒で武具の手入れをしてくれていたのだ。まさに内助の功である。
鎧の装着も奥様方が手伝い、戦いの準備はすぐに完了する。
こうなると、旦那の頭は一生上がらない。
「よし行くぞ野郎ども! 機関車に乗り込めー!」
「おお――――――――!」
現場に走るよりは早く着く。機械が役に立って何よりである。
俺も行こうとしたが、やはり止められた。
「よし俺も……」
「勇者殿は村で、女子供を守ってくだされ」
「……はい。しくしく」
実際の所、俺が行っても戦闘の役に立つとは思えなかった。生兵法は怪我の元。
亜人達の方が圧倒的に強く、足手まといにしかならないだろう。
俺は留守を頑張ることにする。村にゴブリンが来ないとも限らない。
一応、革鎧を身につけて剣を腰に差す。
ナイフの方が使い慣れてるが、長い武器はあった方がいい。
族長の娘達も険しい表情で、武器を手に取っていた。
フローラとハイドラは短弓、ボウ銃もあったが連射がきかないので使わない。
リンダは俺と同じく長剣、ドリスは槍斧を取った。
やはり女でも力があり、軽々と素振りを繰り返していた。
俺達の他にも村に残った若者がいるので、守りは万全と言える。
ただ俺は、何となく嫌な予感がしていた。
ゴブリンの位置と数が気になって仕方ない。
もし守りの薄い所を攻められたら、村は一溜まりもなかった。
「見張り台に登る!」
「つきあうわん」
俺は目の良いハイドラと一緒に、一番高い見張り台に向かう。
その途中で自室に急いで戻り、ある物を持っていく。
俺達はいくつかの梯子を上って、見張り台の天辺に着いた。
確かに見晴らしはいいが、高所恐怖症であれば耐えられない場所だ。俺は平気である。
早速、持ってきた双眼鏡を使って見て見ると、
「あれがゴブリンか……」
身長はおよそ百二十センチで体色は緑、髪はない。
ボロ布をまとい、棍棒やら短剣を手にしていた。
耳は尖っており、口から牙が生えており凶暴そうに見える。
人数はおよそ三十人。こえー!
「鉱山にいるドワーフが頑張ってるわん」
「うん、貨車を倒してバリケードを作ったな。それと掘削ドリルで対抗している。あれは当たると痛い」
「パパ達が到着したわ、機関車は早いわねん」
「ああ……やっぱりあの爺達は、つえーわ。思っていた通りだ。俺の出る幕はないな」
族長達が先頭に立って、ゴブリンの群れに襲いかかる!




