飲んだくれている爺婆はともかく俺の貞操が危ない!
「もはや我らは女神に頼らずとも、魔法と機械で生きていくべきなのじゃ」
「やはり、女神様の力は……」
「うむ、かなり弱っておるようじゃ。幾星霜、五女神は我らを見守って下されていたが終わりが近い。ヘスペリスから女神が消えたとき、何が起こるか分からん……」
「そうですか……」
誰もが口をつぐみ、不安そうな顔をした。やはり女神は心のより所であるからだ。
いなくなると言われたら、恐くもなる。
「考えてもしょうがあるまい。世界はなるようにしかならんのじゃ。それよりも……」
「何でしょう? おばば様」
「婆にもビールを飲ませんかい!」
「これは失礼しました! あはははは!」
辛気くさい話は止めにして、ビールの力で開き直る。
会議という名の飲み会は、夜遅くまで続いた。
◇◆◇◆
俺は案内を終えてから食事をとり、温泉に浸かっていた。
源泉かけ流し、にごり湯の露天風呂。効能は美容・健康すべてでーす。
「やはり風呂はいい」
「ワン!」
俺専用にと作られた風呂だったが、なぜかドリスの犬も入ってくる。
ヨーゼフとパトラッシュは気持ちよさそうにしていた。
ドワーフ村での生活も悪くはない。
このまま居続けてもいいかな、と思ったが冬が来る前に戻るべきだろう。
それと、あまり村に愛着を持ちたくはなかった。
日本に帰れば、ここに戻ってくることはないのだから。
「だけど、冬場はどこも雪に埋もれるらしいから、クルーザーでの生活は無理だな。どっかの村に世話にならん……と――!」
「ワンワン!」
犬達が風呂から飛び出し、主人のもとに駆け寄る。
俺は顔を背けたが、ドリスは体にバスタオルを巻いていた。
湯気に浮かぶ肌は、色っぽく見えた。
俺が慌てて風呂から出ようとすると止められる。
「海彦、そのー……背中を流させて欲しいのじゃ」
「いや……分かった。頼む」
人の親切を断るのは失礼だと思い、俺は石椅子に座る。
わざわざ風呂に来たからには、何か言いたいことでもあるのだろう。聞くしかない。
しばらく無言のまま、ドリスは俺の背中を洗ってくれた。
「……やっぱり帰るのかえ?」
「うん。三、四か月という予定だったし、機械もできたからな。俺の役目も終わりだ」
「父様も言っていたが、まだまだ海彦に教えてほしいことは山ほどある。このままここで冬を越したらどうじゃ?」
「いつまでも、ドリスの母さんの世話になるのは心苦しい。俺はここに来てから、仕事らしい事は何一つやってないからな。冬前にクルーザーも整理しておきたいから、悪いが戻る」
「そうか……」
「ど! ドリス!」
「ずっとここにいて欲しいのじゃ」
ドリスが後から俺に抱きついてきた。うっ! 柔らかい胸が直接背中に当たってるー!
バスタオルは下に落ちていた。まずい! やばい! 危険な状況だ!
「のう海彦。妾は何でもするからお願いじゃ!」
「待てドリス! はやまるな! 交換日記から始めよう!」
「いやじゃ」
ドリスが力をこめてくると、俺はあらがえない。女でも亜人の力は並ではなかった。
俺は後から押し倒されてしまう。何とか亀状態になって次の攻撃を防ぐ。
股間は既にマズい状態で、抑えがきかない!
「海彦、妾と一緒になろう」
「いやあ――――!」
ハッキリ言っておくが、襲われているのは俺の方だ。
ドリスは俺の肩をつかんで引っぺがしにかかる。
もはやこれまで……さよなら童貞……