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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第二章 騎士と姫

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ドワーフは何を作るかわかったもんじゃない

「次は電話とやらを作りたい。となると電子部品が必要じゃな、真空管ではなく『とらんじすた』を作る」


「ええー!」


 今度は電子機器を作りたくなったのだろう。ドワーフの向上心は底なしだ。

 となれば動作の安定しない真空管よりは、半導体を最初から作った方がいい。


 純度の高いゲルマニウムやシリコンは、炎精霊サラマンダーを使えば作れるはずだ。

 えーと、ゾーンメルト法という精製法だったかな? 魔法使いなら上手くやれるだろう。


 亜人達はおそろしい。現代技術に追いつくのも時間の問題か。

 

「海彦殿、これからも力を貸してくれ」


「いやー、そろそろクルーザーに帰りたいんですがー……」


「まあそう言わずに……おっ!」


 俺達が馬車の音に振り返ると、毛むくじゃらエリックさんと人間達がいた。

 人の見た目は外国人のようで、耳はとがってなかった。背も高くはない。

 こちらも物々交換に来たようだ。


 亜人の村より遅れたのは、馬車と人が多いせいだろう。どうやら王国は大きい国みたいだ。

 エリックさんが近づいてきて挨拶してくる。


「いやー、勇者殿お久しぶりじゃな。それにしてもこれは凄い!」


「こんにちはエリックさん。ところで、ミシェルは来てないんですか?」


「第二陣であとから来る。乳液、『ゴム』の原料を運んでくる予定じゃ」


「えっ! ゴム!? ……もしかしてチャールズさんが?」


「うむ、儂がエリ……王に使いを出して、ラテックスとやらを探してもらった。王国には様々な木々があるので、すぐに見つかった。それで天然ゴムを作って加工する。ゴムは機械に必要じゃろ? 炭を入れて『タイヤ』とやらも作ってみる」


「……はい。ゴムはなくてはならない物です。何にでも使います……」


 俺が知らないとこで、チャールズさんは動いていた。とんでもない親父だ。

 求められるまま色んな知識を伝えているので、何を作っているか分かったもんじゃない。


 それでも武器に関する事は一切教えず、亜人達も聞こうとはしなかった。

 ボウ銃だけでも十分すぎるのだ。それも使わないことを願っている。

 

 まあ、教えてしまった物はどうしようもない。神怪魚を倒すには必要だった。

 あとは野となれ山となれ。後のことを俺は考えないことにする。


 「王国の団体様、ごあんな~い♪ どうぞこちらです」


 俺は旅館のお出迎えになりきり、再び施設の案内を開始する。

 気の早い者は、そのままドワーフ職人に教えを請うていた。


◇◆◇◆


 その日の夜、宿泊所の貴賓室。


「カンパーイ!」


 五人の男達が、ガラスジョッキをぶつけあう。

 ゴクゴクと酒を一気にあおった。


「ぷはあー! これは良い酒じゃ! 果実酒とは又違う!」


「かー! これがビールか、冷えててかなりいけるのう。のどごしもいい!」


「うむ!」


「美味いじゃろ? 地下水で冷やしておいたからのう。カカアの目を盗んでビールを作っていた。ドワーフが酒を飲まずしてやってられるか!」


「これも勇者殿の『でんししょせき』とやらの知識か?」


「そうだエリック、麦を発酵させて酒を作ったことはある。じゃがどれも不味くて失敗した。ホップの追加とアルコールによる容器の殺菌、そして温度管理をするようになって、初めてビールは出来た」


「なるほどのう」


「海彦様々じゃ」


 ビールを飲みながら、族長達は今後の相談をする。


「村々と人間の街をつなぐ、レールを敷きたいと思う。鉄道じゃ」


「賛成じゃ、機関車を使えば移動が楽になる。物をいちいち運ぶのは大変じゃからのう」


「うむ」


「あとは資源のある場所に生産工場を置くべきじゃな。うちに鉱山はあるが、綿やかいこはない。エルフの村に紡績を頼みたい、うちからは機械を出す」


「あい分かった。村々で取れる物は違うから、生産して分け合うべきじゃな」


「文明が発展するのは良いか悪いか分からん……が、もう昔には戻れん」


「うむ……」


「ひょひょひょ、これも時代の流れじゃ」


「おばば様!」


 こつ然と老魔女が現れる。相変わらず気味が悪いが、族長達は慣れていた。

 ホビットの婆は語る。

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