ドワーフは何を作るかわかったもんじゃない
「次は電話とやらを作りたい。となると電子部品が必要じゃな、真空管ではなく『とらんじすた』を作る」
「ええー!」
今度は電子機器を作りたくなったのだろう。ドワーフの向上心は底なしだ。
となれば動作の安定しない真空管よりは、半導体を最初から作った方がいい。
純度の高いゲルマニウムやシリコンは、炎精霊を使えば作れるはずだ。
えーと、ゾーンメルト法という精製法だったかな? 魔法使いなら上手くやれるだろう。
亜人達はおそろしい。現代技術に追いつくのも時間の問題か。
「海彦殿、これからも力を貸してくれ」
「いやー、そろそろクルーザーに帰りたいんですがー……」
「まあそう言わずに……おっ!」
俺達が馬車の音に振り返ると、毛むくじゃらエリックさんと人間達がいた。
人の見た目は外国人のようで、耳は尖ってなかった。背も高くはない。
こちらも物々交換に来たようだ。
亜人の村より遅れたのは、馬車と人が多いせいだろう。どうやら王国は大きい国みたいだ。
エリックさんが近づいてきて挨拶してくる。
「いやー、勇者殿お久しぶりじゃな。それにしてもこれは凄い!」
「こんにちはエリックさん。ところで、ミシェルは来てないんですか?」
「第二陣であとから来る。乳液、『ゴム』の原料を運んでくる予定じゃ」
「えっ! ゴム!? ……もしかしてチャールズさんが?」
「うむ、儂がエリ……王に使いを出して、ラテックスとやらを探してもらった。王国には様々な木々があるので、すぐに見つかった。それで天然ゴムを作って加工する。ゴムは機械に必要じゃろ? 炭を入れて『タイヤ』とやらも作ってみる」
「……はい。ゴムはなくてはならない物です。何にでも使います……」
俺が知らないとこで、チャールズさんは動いていた。とんでもない親父だ。
求められるまま色んな知識を伝えているので、何を作っているか分かったもんじゃない。
それでも武器に関する事は一切教えず、亜人達も聞こうとはしなかった。
ボウ銃だけでも十分すぎるのだ。それも使わないことを願っている。
まあ、教えてしまった物はどうしようもない。神怪魚を倒すには必要だった。
あとは野となれ山となれ。後のことを俺は考えないことにする。
「王国の団体様、ごあんな~い♪ どうぞこちらです」
俺は旅館のお出迎えになりきり、再び施設の案内を開始する。
気の早い者は、そのままドワーフ職人に教えを請うていた。
◇◆◇◆
その日の夜、宿泊所の貴賓室。
「カンパーイ!」
五人の男達が、ガラスジョッキをぶつけあう。
ゴクゴクと酒を一気にあおった。
「ぷはあー! これは良い酒じゃ! 果実酒とは又違う!」
「かー! これがビールか、冷えててかなりいけるのう。のどごしもいい!」
「うむ!」
「美味いじゃろ? 地下水で冷やしておいたからのう。カカアの目を盗んでビールを作っていた。ドワーフが酒を飲まずしてやってられるか!」
「これも勇者殿の『でんししょせき』とやらの知識か?」
「そうだエリック、麦を発酵させて酒を作ったことはある。じゃがどれも不味くて失敗した。ホップの追加とアルコールによる容器の殺菌、そして温度管理をするようになって、初めてビールは出来た」
「なるほどのう」
「海彦様々じゃ」
ビールを飲みながら、族長達は今後の相談をする。
「村々と人間の街をつなぐ、レールを敷きたいと思う。鉄道じゃ」
「賛成じゃ、機関車を使えば移動が楽になる。物をいちいち運ぶのは大変じゃからのう」
「うむ」
「あとは資源のある場所に生産工場を置くべきじゃな。うちに鉱山はあるが、綿や蚕はない。エルフの村に紡績を頼みたい、うちからは機械を出す」
「あい分かった。村々で取れる物は違うから、生産して分け合うべきじゃな」
「文明が発展するのは良いか悪いか分からん……が、もう昔には戻れん」
「うむ……」
「ひょひょひょ、これも時代の流れじゃ」
「おばば様!」
こつ然と老魔女が現れる。相変わらず気味が悪いが、族長達は慣れていた。
ホビットの婆は語る。




