父親の心配をよそに娘達はつれない
「…………」
ハイドラを見送り、呆気にとられている族長達に俺は言った。
これから、村に作られた施設を案内する。
「そろそろトロッコが戻ってきますので、高炉の近くへ移動しましょう」
一団は無言のまま、ゾロゾロと俺の後をついてくる。
カルチャーショックは大きかったようだ。まだ驚くのは早い。
高炉も蒸気機関によって効率化が図られて、巨大化が進んでいる。
手前にある鉄鉱石の集積所で待っていると、警笛が聞こえてくる。
「あれは何だ!?」
見れば蒸気機関車が近づいてきており、貨車には大量の鉄鉱石が積まれていた。
見学者一同、レールを走る機械に目を奪われていた。鉄の塊が迫ってくればビビリもする。
蒸気機関車はブレーキをかけて止まった。
「ああ、親父きたのか」
「う……む」
運転手はリンダ、オグマさんは言葉が続かない。つうか、「うむ」しか言わんだろ。
「リンダさーん! 蒸気弁の調子が悪いので見てください。あとサラマンダーの追加もお願いします!」
「今いくー! じゃーな親父、また後でな」
呼ばれたリンダは機関車から飛び降り、走っていってしまった。
リンダは蒸気機関の第一人者だ。自分で作ったのだから、誰よりも詳しい。
誰もが声を失い固まっていた。
「では最後に、紡績工場と縫製工場に御案内いたします」
俺はすっかり案内人である。他にやることがない。
工場に着くなり、全員大声を上げて驚く。
「のわあ!」
大量の綿から糸が紡がれ、その糸が寄り合わさり布へと変わっていく。
作られた紡績機はなかなか凄かった。信じられない早さで絹糸も出来上がる。
これも蒸気機関のおかげである。
興奮さめやらぬ中、隣の縫製工場に移動するが、ロビンさんは外にある物に気づく。
「勇者殿、これは何ですじゃ?」
「ああ、風車ですよ。これで発電機を動かしてます」
ただし風車は高く作られておらず、羽根車も大きくはなく、向きも変えられない。
これでは役に立たないように見えるが、風精霊が羽根車を回してくれるお陰で、場所を選ばずに小型化できた。
風切音も五月蠅くなくて静かだ。毎日、精霊さん達は文句も言わずに働いています。
雷魔法は電力を分配するとなると大変なので、発電機でミシンを動かすようになった。
縫製工場の中では電動ミシンがフル稼働、女性達が一心不乱で仕事に熱中している。
自分の服や下着を作るのが楽しいのだ。完全オーダーメイドである。
次に優先されるのは子供服で、男達の服は余った布を継ぎ合わせて、たまに作られていた。
男女の服装に差がありすぎて、誰にでも分かる。ダサい服を着ている男達は悲しい。
エルフ族長の娘も工場で働いている。
「フローラ」
「うるさい!」
父親の呼びかけに、娘はにべもない。ロビンさんを見ようともしなかった。
「フローラ、ここはどう縫えばよいかのう?」
「ああここはねー、こうした方がいいと思う」
「なるほど、ありがとなのじゃ」
ドリスとは仲良くしており、対応がまるで違う。
俺だって下手に声をかけると、ぶっ飛ばされかねなかった。殴られるのは勘弁してほしい。
ここは家庭の台所と同じく、男子禁制である。
族長の娘達はつれなかった。父親よりも機械に夢中である。
現代でスマホをいじってるギャルと、何ら変わりはない。
それでも娘達の元気な姿を見て、族長達は安堵していた。親バカである。
これで施設の案内は終わり、宿へと歩いて向かう。
その道すがら、俺はチャールズさんと話していた。




