三か月も娘の顔を見ていないので族長達はさびしい
「やれやれ、困った母様じゃな」
「俺から見れば、うらやましい家庭だ」
「夫婦喧嘩が絶えないのにか?」
「俺の両親は小さい時になくなった……正確には行方不明だが」
「……そうじゃったか」
ドリスが申し訳なさそうな顔をしたので、俺はフォローする。
「気にするなドリス、もう昔のことだ。それよりも仲直りさせてあげないと」
「じゃが、こればかりは止めようが……何か策があるのか? 海彦」
「喧嘩は俺のせいでもあるからな、妥協案を出してくる」
取っ組み合いを始めたチャールズ夫妻に、俺は声をかけた。
これで動きが止まり、お互いに離れる。
俺がある提案をすると最初は嫌な顔をされたが、メリットを説明すると了承された。
次の日。
「ここは?」
「こう締めるんじゃ」
大人達がミシンの組み立て方を、子供達に教えていた。
成人に近い少年少女らを集めて作業をさせている。これが俺の出したアイデアだ。
「これから機械がもっと作られるようになれば、教育も必要になってきます。今のうちから子供達に組み立てさせてはどうですか? 訓練になりますよ」
「……そうじゃな」
もともと子供達は、家の手伝いをさせられていたのだ。貴重な労働力である。
危険な作業でなければ、任せても問題はなかった。それにやる気もある。
「ボールが欲しい!」
俺が持ってきたボールは、たったの一個。欲しいなら革を縫って、自分で作るしかなかった。
ミシンがあれば早くたくさん作れる! 子供だって物は欲しい!
ドワーフの少年達は真剣に作業に取り組んでいた。子供でもその技能は高い。
そのおかげでミシンは次々と完成していった。教育と生産の一石二鳥である。
ミシンの順番待ちはなくなり、みんな好きな物を作り始める。帽子・靴・手袋・エトセトラ。
これで夫婦喧嘩もなく……ならなかった。
「掃除機と洗濯機を作りなさい!」
「お前な――――!!」
主婦の家電の欲望はつきない。
こうして三か月が過ぎた頃、各村から馬車がやってくる。
族長達が御者となり、農作物やらを運んできたのだ。鉄との交換物である。
それと機械技術を覚えるために、第二陣の若者達もやって来ていた。
いつもなら村の代理が運んでくるので、族長が来ることは滅多にない。
今回はドワーフ村の視察、何より娘に会いたかった。
しばらく顔を見ておらず、男親達はさみしかった。
「ここは一体!?」
「まるで別の国のようだ」
「うむ」
族長一行が驚くのも無理はない。ドワーフ村は機械都市と化していた。
スチームパンクを地でいっている。
そこら中、モーターやら蒸気機関が動いていれば、夢かと思うだろう。
俺はチャールズさんと一緒に出迎えた。
「久しぶりじゃな、ロビン・アラン・オグマ。よう来たのう」
「こんちわー、みなさん、お元気ですかー?」
「チャールズ、勇者殿、この村の変わりようは……」
「いやー、村中総出で機械作りに励んだので、こうなっちゃいました」
本当の話なので、他に言い様がない。
手作業はなくならないが、機械が機械を生む状態になりつつある。
確かに短期間でのドワーフ村の変貌は異常とは言えるが。
そこに笛を鳴らしながら、三輪車がやってくる。
幼児が乗る物ではなく電動バギーで、後輪にモーターが二つついていた。
褐色女性運転手は言った。
「あらんパパ、来てたのね。じゃー作物は私が倉庫に運ぶわん。馬は休ませてあげて」
「あ、ああ……」
アランさんは面食らったままになる。
手早く荷台をバギーの後につけて、ハイドラは走り出す。
山積みされてる作物はかなり重いはずだが、バギーは余裕で進んでいった。
電動機パワーは半端ではない。ハイドラの魔力なら戦車も動かせるだろう。
ハイドラはドワーフ村で、配達係を任されていた。




