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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第二章 騎士と姫

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三か月も娘の顔を見ていないので族長達はさびしい

「やれやれ、困った母様かかさまじゃな」


「俺から見れば、うらやましい家庭だ」


「夫婦喧嘩が絶えないのにか?」


「俺の両親は小さい時になくなった……正確には行方不明だが」


「……そうじゃったか」


 ドリスが申し訳なさそうな顔をしたので、俺はフォローする。


「気にするなドリス、もう昔のことだ。それよりも仲直りさせてあげないと」


「じゃが、こればかりは止めようが……何か策があるのか? 海彦」


「喧嘩は俺のせいでもあるからな、妥協案を出してくる」


 取っ組み合いを始めたチャールズ夫妻に、俺は声をかけた。

 これで動きが止まり、お互いに離れる。


 俺がある提案をすると最初は嫌な顔をされたが、メリットを説明すると了承された。



 次の日。


「ここは?」


「こう締めるんじゃ」


 大人達がミシンの組み立て方を、子供達に教えていた。


 成人に近い少年少女らを集めて作業をさせている。これが俺の出したアイデアだ。


「これから機械がもっと作られるようになれば、教育も必要になってきます。今のうちから子供達に組み立てさせてはどうですか? 訓練になりますよ」


「……そうじゃな」


 もともと子供達は、家の手伝いをさせられていたのだ。貴重な労働力である。

 危険な作業でなければ、任せても問題はなかった。それにやる気もある。


「ボールが欲しい!」


 俺が持ってきたボールは、たったの一個。欲しいなら革を縫って、自分で作るしかなかった。


 ミシンがあれば早くたくさん作れる! 子供だって物は欲しい!


 ドワーフの少年達は真剣に作業に取り組んでいた。子供でもその技能は高い。

 そのおかげでミシンは次々と完成していった。教育と生産の一石二鳥である。


 ミシンの順番待ちはなくなり、みんな好きな物を作り始める。帽子・靴・手袋・エトセトラ。


 これで夫婦喧嘩もなく……ならなかった。


「掃除機と洗濯機を作りなさい!」


「お前な――――!!」


 主婦の家電の欲望はつきない。



 こうして三か月が過ぎた頃、各村から馬車がやってくる。


 族長達が御者となり、農作物やらを運んできたのだ。鉄との交換物である。

 それと機械技術を覚えるために、第二陣の若者達もやって来ていた。


 いつもなら村の代理が運んでくるので、族長が来ることは滅多にない。


 今回はドワーフ村の視察、何より娘に会いたかった。

 しばらく顔を見ておらず、男親達はさみしかった。


「ここは一体!?」


「まるで別の国のようだ」


「うむ」


 族長一行が驚くのも無理はない。ドワーフ村は機械都市と化していた。

 スチームパンクを地でいっている。


 そこら中、モーターやら蒸気機関が動いていれば、夢かと思うだろう。

 俺はチャールズさんと一緒に出迎えた。


「久しぶりじゃな、ロビン・アラン・オグマ。よう来たのう」


「こんちわー、みなさん、お元気ですかー?」


「チャールズ、勇者殿、この村の変わりようは……」


「いやー、村中総出で機械作りに励んだので、こうなっちゃいました」


 本当の話なので、他に言い様がない。

 手作業はなくならないが、機械が機械を生む状態になりつつある。

 確かに短期間でのドワーフ村の変貌は異常とは言えるが。


 そこに笛を鳴らしながら、三輪車がやってくる。


 幼児が乗る物ではなく電動バギーで、後輪にモーターが二つついていた。

 褐色女性運転手は言った。


「あらんパパ、来てたのね。じゃー作物は私が倉庫に運ぶわん。馬は休ませてあげて」


「あ、ああ……」


 アランさんは面食らったままになる。

 手早く荷台をバギーの後につけて、ハイドラは走り出す。


 山積みされてる作物はかなり重いはずだが、バギーは余裕で進んでいった。


 電動機モーターパワーは半端ではない。ハイドラの魔力なら戦車も動かせるだろう。


 ハイドラはドワーフ村で、配達係を任されていた。

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