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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第二章 騎士と姫

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奥様だって楽をしたい

「もういいか海彦? あたいは早く機関車を作りたいんだ」

 

「邪魔したなリンダ。作業に戻ってくれ」


「あいよ」


 いそいそとリンダはどこかへ行ってしまった。楽しくて仕方ないのだろう。

 俺達は次の場所へと移動する。とは言ってもすぐ側だ。

 そこにも、作ってもらった機械がある。


「ハイドラ、準備はいいか?」


「今すぐいけるわよん」


 俺はうなずいて合図する。


「出でよボルト! イシュクルの雷光」


 ハイドラは銅線を両手に握っていた。

 雷精霊が起こした電気は銅線を伝わり、二枚の金属板にとどく。専門用語ではブラシ。


 金属板の間にあるのは銅線のまかれた鉄棒、その左右には永久磁石が置いてある。

 チャールズさんにもらった磁鉄鉱を使い、銅線は金型で作りニカワを塗って絶縁してある。


 鉄棒は高速回転をしていた。


「これが電動機モーターです」


「もはや凄いとしか言い様がない!」


「これも動力なので利用方法はいろいろあると思います。先端をドリルにすれば、削岩機として使えるでしょう」


「私の出番が増えて、嬉しいわん」


 雷精霊使いにとっては好機となる。

 今までは風や炎の魔法に比べて、雷は役に立たない魔法だった。


 護身用に使うにしても、空気の絶縁体が邪魔で効果範囲が狭い。

 それでも雷撃の威力は凄まじく、触りさえすれば大型獣でも一撃で倒せる。


 銅線ができたことにより、活躍の場は増えるだろう。電気は重要だ。


 これで機械のお披露目は終わった。モーターの応用で発電機も作られる予定である。

 動力さえあれば、工作機械も次々と生み出されていく。


 わずかな期間でヘスペリスの工業力は、飛躍的に進歩してしまった。

 俺の借金もこれでチャラである。



 しかし、良いことばかりではない。ある喧嘩が起こってしまう。


 チャールズさんは、鉱山用機械の製作に取りかかろうとした所、ある人物に怒鳴りこんでこられた。


「あなた! 『ミシン』とやらを作りなさい。それと糸と布を作る機械!」


「いやお前、掘削機械を作ればツルハシとは、おさらばできるんだが……仕事が楽に……」


「裁縫の苦労をなくすのが先です!」


 大きな声でドリスの母親は、夫にミシンを作るようせまる。

 確かに手作業だけで、生糸や布を作り出すとなると、かなりしんどいのだろう。


 服も手縫いであれば尚更なおさらだ。

 店で買うだけで済んでいた俺は、作る苦労を知らなかった。バーゲン品しか買わんけど。

 

 それと、喧嘩の原因になったのは俺である。


「こんな機械もありますよー」


「まあ!」


 つい調子に乗って、ドリスの母親にミシン動画を見せてしまったのだ。

 欲しくなって当然だ。俺は知らんぷりするしかない。


 ドワーフの村中を巻き込むことになり、男と女の言い争いが続く。


 軍配は奥様方に上がる。男達は負けた。


「食事を作ってあげません!」と言われたら折れざるを得ない。


 こうして紡績ぼうせき機と、ミシンが作られることになる。


 ヘスペリスの自然は素晴らしいが、機械もなしに何十年も働き詰めではストレスも溜まる。

 リンダも言っていたが、変化のない毎日で同じ手作業の繰り返しでは疲れる。


 とうとう女性達の怒りが爆発したのだ。我慢も限界なのだろう。

 ああ、だからエイルさんもたまに不機嫌なのか。


 機械によって仕事が楽になれば、笑顔に変わるだろう。


 まずは足踏みミシンが急遽きゅうきよ作られ、モーター式は開発中。

 試作品でも鉄製で革が縫えた。誰かがバックを作ろうものなら……


「私も作るー!」


 奥様方の評判は上々。ただ数台しかないので順番待ちが殺到していた。


「もっとミシンの台数を増やしなさい! あなた!」


「お前なー! 少しは待てよなー! 部品は鋳造ですぐに作れても、組み立ては手作業なんじゃ! 調整もあるから丸一日はかかる」


「なら徹夜で組み立てなさい!」


 夫婦喧嘩を俺とドリスは遠くから見ていた。

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