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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
序章 異世界なんか行きたくない!
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戦うしかない!

「くそっ! 手間のかかるお嬢様だ!」

 俺は海に飛び込む。

 伊達にライフセーバーはやってない。人を助けるのは当たり前。


 泳ぎは得意で、国体に参加したこともある。

 穂織にたどりつくまで、時間はかからない。


「おい、しっかりしろ!」

「……う、うう」

 声をかけると、意識はあるようだった。


 お嬢様は救命胴衣ライフジャケットのおかげで、海面に浮かんでいた。

 俺は穂織を後ろから抱えこみ、叔父の船へと向かう。

 気を失ってくれたのは幸いだ。パニクって暴れられたら助けようがない。


 だが、そうは問屋がおろさないようだ。

 目の前に化け魚が迫って来ており、穂織と一緒では逃げられなかった。


「くっ!」


あんちゃーん!」

「うおおおおおおお!」


 けたたましい声とともに、叔父の船が横から突っ込んでくる!

 二人は俺を助けようと、猛スピードで化け魚に体当たりした。

 これには化け魚もたまらず吹っ飛ぶが、ボロ漁船も大破してバラバラになった。


「すみません……」

 非常事態とはいえ、船を失った叔父に対し、申し訳ない気持ちで一杯になった。

 漁師にとって船は命なのだ。

 弟と叔父は海に飛び込み、こっちに泳いでくる。

 それでも家族が無事なのを見て、俺は安心した。


「つかまれ――!」

 お嬢様のチームメンバーが、ゴムボートを出して助けにきてくれた。

 先にお嬢様を引き揚げさせ、次に叔父と弟がボートに乗り込む。


 俺は乗らない。


「どうした海彦!?」

「あいつを仕留めないと、みんな助からない。叔父さん、俺は戦う!」

「兄ちゃん、無茶だ!」

「山彦、グダグダ言ってる暇はない! いくぞ!」


 俺は腰につけていたホルダーから、ダイバーズナイフを取り出す。

 刃渡り十二センチはある特注品。もちろん携帯許可は取ってある。


 海外に行くと決めた時点で、鮫と格闘するのは想定しており、知り合いの鍛冶屋さんに作ってもらったのだ。

 出来上がったナイフはかなり頑丈で、切れ味は鋭く折れはしない。

 腕は超一流の名工だ。


 最初に戦う相手が化け物とは思っていなかったが、やるしかない!

 逃げようとすれば、絶対にやられるだろう。

 俺はナイフを口にくわえ、泳いで奴に立ち向かう。


 化け魚はまたもや大口を開いてむかってくる。

 鋭い歯を見ると、やはり恐い。


「俺は負けん!」

 勇気を出して、己を奮い立たせる。

 俺はライフジャケットを脱いで、化け魚に投げつけた。本気で泳ぐには邪魔なのだ。

 ジャケットは上から被さるようになり、奴の視界を奪うのに成功する。


 化け魚はかぶりを振って、邪魔な服を振り払った。

 すでに俺は奴の目の前から消えている。その直後、


「ビンギャ――――!」

 化け魚が悲鳴を上げた。鳴き声は痛みによるもの。


 俺はライフジャケットを投げつけた後、潜水して化け魚の胸びれにつかまったのだ。

 下からナイフを突き刺して、俺は奴の長いひれにしがみついている。


「お前ら獰猛どうもう魚類の武器は、鋭い牙だ。噛まれたらあの世行きだが、体にしがみついてしまえば、噛みつき攻撃はできまい。さあ、根比べといこうか!」


 化け魚は暴れ出し、俺を引き離そうと高速で泳ぎ、ジャンプを繰り返す。

 俺はナイフを両手で握ったまま、くらいつく。

「離してたまるかー!」


 刃は深く食い込ませたので、そう簡単には外れない。

 あとは握力と体力が続く限り、俺は頑張る。

 

 その間に、化け魚はドンドン血を流していた。

「……青い血かよ。鳴いたことといい、やっぱりコイツは化け物だ」

 

 俺は耐えて、耐えて、時間が経つのをひたすら待っていた。

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