機械作りが始まったので電子書籍の通訳をするしかない
ドリスの親父さんの名は、チャールズ。
本人は族長と言ってるが、まわりからは王様扱いされている。
俺のプレゼンテーションを、黙って聞いてくれた。
上手く説明できたかは自信はないが、熱意は伝わったようだ。
「……儂が生まれて数百年。その間にも異界人から文明はもたらされていたが、さらに進歩したようじゃのう。よかろう機械を作ってみるとしよう。ドワーフ……いや、ヘスペリスに住まう者が楽になるのは間違いない」
「ありがとうございます。俺も頑張って協力します」
俺はチャールズさんと握手をかわす。ドリスは笑って見ていた。
その日のうちに主立った職人が集められて、俺は同じ説明を繰り返す。
ドワーフ達は目を丸くして驚きながらも、メモを取り真剣に聞いてくれた。
誰一人して、機械を疑ったり文句を言ったりはしない。
やはりパソコン動画を見てしまったら、「そんなの嘘だ!」とは言えなくなる。
最初に作る物は、「手押しトロッコ」。まずは鉱山からの運搬作業を楽にしたい。
ただ、その前に作るべきものが多々ある。
「レール……どうやって作ればいい? 鉄を叩いて作るには手間がかかりすぎる」
「はい、砂型・金型を使った鋳造で作りたいと思います」
「何だそれは!?」
どうやら鍛造しか知らないようだ。
俺はこれも動画を見せて説明する。溶かした鉄を型にいれて、形作る方法だ。
今までは鍛冶師が曲げたり叩いたりして、鉄製品を作っていたのだろう。
簡単な物ならそれで十分だが、複雑な機械部品を作るとなれば鋳造するしかない。
大量生産するには金型が絶対必要である。
「鋳造でトロッコの車輪などの部品を、全部作ります」
これは反発されると思っていた。なぜなら、鍛冶師の職人芸を否定するようなことだから。
だが、リンダはむしろ賛同してくれる。
「やるわ。一個一個作っていたら疲れるだけだし、飽きる」
「頼む。俺は知識を伝えてはいるが、物作りはド素人だから。それとリンダには先行して、例の物を作ってほしい」
「アレな? 了解だわさ」
リンダは笑いながら応えてくれた。前もって教えていたので、あとは任せるだけである。
次に必要になってくるのは、ボルトとナット。工業製品には欠かせない。
レールを取り付けるのにも必要だ。
そして様々な工具もいる。クルーザーから持ってきた道具箱を見せると、
「工具を使わせてくれー!」
「複製して同じ物を作る!」
ドワーフ達は先を争って、中の道具を取り出す。その利用価値が分かっているからだ。
メジャーなどの測定器は特に重要で、精度が悪ければ機械は動かないのだ。
亜人の職人達の行動は早い。
わずか三日で小型の模型を作り、レールの砂型も完成させていた。
あとは実寸で作るだけだ。ドワーフは鉱夫で、物作りの達人であった。
……早くね?
みんな寝る間も惜しんで、夢中で作業をしていた。
金型作りは難しいかと思われたが、ヘスペリスにある粘土と耐熱石とやらを使って作ってしまった。
高温に耐えられるセラミックのようなものだろう。
職人達はひっきりなしに、俺のもとに訪れて質問してくる。
百科事典の通訳だから大変だ。それとパソコンに入っているデータは他にもある。
『分解図鑑』『科学の歴史』『ネクロノミコン』など、電子書籍が一通りそろっていた。
これらも貴重な情報なので、待ち順や聞く時間で争いを始めるほどだった。
「俺が聞くのが先だ!」
「いや、儂だ!」
「お前、さっきまで質問してただろうがー!」
「やめんかい!」
チャールズさんが仲裁に入り、時間調整をしてくれた。これには助かる。
ソーラーバッテリーでPCを充電する時間は欲しいし、俺も喋りっぱなしでは疲れてしまう。
ドワーフ達の知能は高く、一を聞いて十を知るほどだ。知識欲もすごい。
俺はチャールズさんに、その理由を聞いてみることにする。




