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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第二章 騎士と姫

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機械作りが始まったので電子書籍の通訳をするしかない

 ドリスの親父さんの名は、チャールズ。


 本人は族長と言ってるが、まわりからは王様扱いされている。

 俺のプレゼンテーションを、黙って聞いてくれた。


 上手く説明できたかは自信はないが、熱意は伝わったようだ。


「……儂が生まれて数百年。その間にも異界人から文明はもたらされていたが、さらに進歩したようじゃのう。よかろう機械を作ってみるとしよう。ドワーフ……いや、ヘスペリスに住まう者が楽になるのは間違いない」


「ありがとうございます。俺も頑張って協力します」


 俺はチャールズさんと握手をかわす。ドリスは笑って見ていた。


 その日のうちに主立った職人が集められて、俺は同じ説明を繰り返す。

 ドワーフ達は目を丸くして驚きながらも、メモを取り真剣に聞いてくれた。


 誰一人して、機械を疑ったり文句を言ったりはしない。

 やはりパソコン動画を見てしまったら、「そんなの嘘だ!」とは言えなくなる。


 最初に作る物は、「手押しトロッコ」。まずは鉱山からの運搬作業を楽にしたい。


 ただ、その前に作るべきものが多々ある。


「レール……どうやって作ればいい? 鉄を叩いて作るには手間がかかりすぎる」


「はい、砂型・金型を使った鋳造ちゅうぞうで作りたいと思います」


「何だそれは!?」


 どうやら鍛造たんぞうしか知らないようだ。


 俺はこれも動画を見せて説明する。溶かした鉄を型にいれて、形作る方法だ。


 今までは鍛冶師が曲げたり叩いたりして、鉄製品を作っていたのだろう。


 簡単な物ならそれで十分だが、複雑な機械部品を作るとなれば鋳造するしかない。


 大量生産するには金型が絶対必要である。


「鋳造でトロッコの車輪などの部品を、全部作ります」


 これは反発されると思っていた。なぜなら、鍛冶師の職人芸を否定するようなことだから。


 だが、リンダはむしろ賛同してくれる。


「やるわ。一個一個作っていたら疲れるだけだし、飽きる」


「頼む。俺は知識を伝えてはいるが、物作りはド素人だから。それとリンダには先行して、例の物を作ってほしい」


「アレな? 了解だわさ」


 リンダは笑いながら応えてくれた。前もって教えていたので、あとは任せるだけである。


 次に必要になってくるのは、ボルトとナット。工業製品には欠かせない。

 レールを取り付けるのにも必要だ。


 そして様々な工具もいる。クルーザーから持ってきた道具箱を見せると、


「工具を使わせてくれー!」


「複製して同じ物を作る!」


 ドワーフ達は先を争って、中の道具を取り出す。その利用価値が分かっているからだ。

 メジャーなどの測定器は特に重要で、精度が悪ければ機械は動かないのだ。

 

 亜人の職人達の行動は早い。


 わずか三日で小型の模型を作り、レールの砂型も完成させていた。

 あとは実寸で作るだけだ。ドワーフは鉱夫で、物作りの達人であった。


 ……早くね?


 みんな寝る間も惜しんで、夢中で作業をしていた。


 金型作りは難しいかと思われたが、ヘスペリスにある粘土と耐熱石とやらを使って作ってしまった。

 高温に耐えられるセラミックのようなものだろう。

 

 職人達はひっきりなしに、俺のもとに訪れて質問してくる。


 百科事典の通訳だから大変だ。それとパソコンに入っているデータは他にもある。


『分解図鑑』『科学の歴史』『ネクロノミコン』など、電子書籍が一通りそろっていた。


 これらも貴重な情報なので、待ち順や聞く時間で争いを始めるほどだった。


「俺が聞くのが先だ!」


「いや、儂だ!」


「お前、さっきまで質問してただろうがー!」


「やめんかい!」


 チャールズさんが仲裁に入り、時間調整をしてくれた。これには助かる。

 ソーラーバッテリーでPCを充電する時間は欲しいし、俺も喋りっぱなしでは疲れてしまう。


 ドワーフ達の知能は高く、一を聞いて十を知るほどだ。知識欲もすごい。


 俺はチャールズさんに、その理由を聞いてみることにする。

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