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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第二章 騎士と姫

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ドワーフの村に行ってプレゼンするしかない

 俺は……いや俺達はドワーフの村へと出発した。

 場所はオークの村から少し離れた、鉱山の麓である。


 バックパックを背負っての徒歩での移動……重いので疲れるー!


 俺は三人の族長にかけあい、物作りに秀でた者を派遣してもらうことになった。

 族長達も成果に期待しており、全面協力してくれる。


 ただ、なぜか女達も俺に付いてくる。リンダは鍛冶師だから分かるが……


「海彦とドリスを、二人きりにさせるわけにはいかないわ!」


「そうねん」


 エルフ二人は訳のわからない理由を言っていた。

 まあ、狩りや料理をすると言ってるから、生活面で頼りにしよう。実際人手はいる。


 何せドワーフの村に滞在する期間は、長くなりそうだからだ。

 製作進行にもよるが、最低三、四か月はかかるだろう。


「ヘカテーの湖の浄化には一年かかるわ……」


 とフローラから言われており、その間は亜人達に協力することにする。

 本音を言えば早く日本に帰りたいが、焦ってもどうしようもない。

 鉄代金も踏み倒すわけにはいかなかった。


「二匹も神怪魚が出たからね……」


「……そうか、仕方ないな」


 この時、フローラの目が泳いでいたのは気になった。



 ドワーフの村までは三日はかかる。山道を歩いて、日が落ちれば野宿。

 その辺、亜人達は慣れており野営の準備はテキパキと進む。


 ハイドラとフローラは狩りに出かけ、俺は近くの川で魚を釣る。

 食料には困らない。


「変わった竿じゃのう。縮んでいたのが長く伸びた」


「これは振り出し竿というやつで、持ち運びには便利なんだ」


「ほう」


 ドリスは俺の隣に座り、釣りを見ていた。

 ヘスペリスには無い物だから、珍しいのだろう。


 時々、俺の顔を見ているような感じもするが、気のせいだろう。


 他に持ってきたのは、ノートパソコンとソーラーバッテリー。


 百科事典のデータをみんなに教えるためだ。中身を全て記憶するのは無理。

 亜人達は日本語は読めないので、俺が口で説明する必要がある。


 他にも使えそうな道具は、クルーザーから持ち出していた。

 

 キャンプを続けて、三日目。ようやくドワーフの村にたどり着いた。


 鉱山の村だけあって、石造りの建物が多かった。あとやや暑い。

 高炉が村から離れた場所にあり、製鉄をしていた。


 鉄鉱石がそのまま鉄になるわけではなく、かなりの手間がかかることは知っている。

 コークスやら石灰石を入れて熱風も送らなくてはいけない。


 ここでも炎精霊と風精霊が、ひっきりなしに働いていた。

 時間と労力を思うと、苦労が思いやられる。


「こっちじゃ」


 ドリスの後をついて行くと、一際大きい家へと案内される。

 個人の家というよりは、共同住宅といった感じだ。


 各部屋に人が住んでいて、何やら仕事をしている。恐らく職人だ。


 大広間に案内されると、テーブルで図面を見ている髭のおっさんがいた。

 体型はずんぐりむっくり、髪と髭はドリスと同じオレンジ色だった。


父様ととさま、ただいま帰りました」


「おおドリス! 無事で戻ったか! 怪我などせんかったか? それでそちらのお客人は?」


「勇者の海彦じゃ」


「そうかそうか、よくやったぞドリス! これでドワーフ族も安泰じゃ!」


 ……何言ってんだ、このオッサン。


 まずは頭を下げて、俺は挨拶をする。


「幸坂海彦と申します。このたびは鉄の代金を払えなくてすみません。その代わりといっては何ですが、技術の提供を……」


「いやー海彦殿が婿になってくれれば、代金はいらんが? 鉄の備蓄は減ったが大したことではない」


「ぶっ!」


 ドリスの親父さんはあっけらからんとしており、俺から取り立てる気は全くないようだった。


 もしかすると、借金のカタに俺は連れて来られたのかもしれない。


 ただ日本に帰る予定の俺は、婿にはなれない。正直困ってしまう。


「父様、性急しすぎじゃ。そのー……海彦の気持ちもあるじゃろ。それに機械とやらはすごいぞ! 海彦、見せてやってくれ」


「ああ、それではこちらを見てください」


「よかろう」


 俺はノートパソコンを取り出して、プレゼンを始めた。


 ドリスの親父さんは、目を見開いてうなる。俺は緊張しながら説明する。


「機械などいらん!」と言われたらそれまでなのだ。


 頑固職人でないことを、俺は祈るだけだった。

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