女達を説得して決死作戦をやるしかない
翌朝、俺は鍛冶場にいるリンダのとこへ向かった。
軽く挨拶をしてから用件を伝えると、見る見る間に顔が険しくなって大声を出された。
「海彦、それは駄目だ! 危険すぎる!」
「それは自分でも分かっている。しかし、他に防御魔法を打ち破る方法はないし、俺以外の者にやらせる気はない」
「……でも」
「リンダが心配してくれるのは嬉しいが、鰐鮫は何としても倒さなくちゃいけない!」
「……分かった。明日までに……を完璧に作ってみせる! 海彦を死なせはしないよ!」
「頼むリンダ。その間に他の準備はしておく」
リンダを説得したその足で、俺はロビンさんのとこへ向かった。
「うーむ……それは流石に無謀じゃよ、勇者」
「絶対反対!」「海彦駄目よん!」「無茶だ!」
フローラ・ハイドラ・ミシェルは怒って猛反対する。
この時ばかり女達は団結する。いつも張り合ってるくせに、不思議なものだ。
一応は心配をしてくれてるのだろう。
だが俺はゆずるつもりはなく、これで決めるつもりだった。
「他に案があるなら、言って見ろ!」
最初は大喧嘩したが、詳細をつめることで強引に了承を得る。
女達も渋々協力することになった。
ある物が作られることになり、亜人達は急いでくれていた。
全ての準備が終わり、いよいよ作戦が決行される。
俺は一人、ヘカテーの湖の上にいる。
泳いではおらず、釣りをしているわけでもない。
鰐鮫の領域に入り、木のタライに乗って湖面にいた。周りには小舟一つ見あたらない。
俺の格好はフィッシングベストを上に着て、ジーンズをはいている。
一見するといつもと変わりなく、持っている武器はロングナイフだけで、ボウ銃はない。
俺は汚れた湖を、ボーッと眺めているだけだった。水面を漂う浮き草と同じ。
これで鰐鮫を退治しに来たとは思えまい。奴を油断させるのが狙いだ。
だから今回、網も張っていない。
そこに浮子が浮かんできて、奴のヒレが見えた。
かなりの距離があり、鰐鮫は警戒して俺の様子をうかがっているようだった。
俺を遠巻きにして、タライの周りをグルグルと回り出す。
何周回っても近づいてこようとはせず、攻撃する素振りすらなかった。
やはり相当用心深くなっており、これでは鉄船が近づいただけで逃げ出したかもしれない。
もはや正攻法では戦えなかった。だからこそ、俺は策を考えたのだ。
しばらくすると、鰐鮫の姿が消えた。水に潜ったのは言うまでもない。
「いよいよだな、エサを残して逃げたりはしまい」
もちろん奴にとって俺がエサだ。
やがて湖面に泡が立つ。今までの鰐鮫の動きから予想すれば、真下からジャンプしてくるはず。
そして湖面に叩きつけて獲物をしとめるのだ。
「グパア――――!」
「なにっ!」
だが、奴の動きは今までとは違った。
飛び上がらずに近くに浮上して、口を開けて噛んでタライを壊し始める。
近くに自分の敵がいないから、余裕をもって攻撃してきたか。
「うおっ!」
バキバキと木のタライは割れて、鰐鮫は俺を足から飲み込もうとする。
俺の胴体は、奴の口に挟まれた――!
「ぎゃあ――! 食われるう――! 殺されるうー……なんてな」
「ギョギョギョギョギョ!」
むしろ痛みを感じているのは、鰐鮫の方だろう。
奴の牙は寸前で、俺の体に届いていなかった。口を開けたまま動きが止まる。
「みんなー! 持ち上げてくれー!」
「オオ――――!」
大声で合図すると、俺の体ごと鰐鮫が持ち上げられていく。
体とつながれた綱が、俺達を上に引っ張っていた。
ふー……なんとか作戦は成功、後は鰐鮫にトドメを刺すだけだった。




