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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第二章 騎士と姫

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女達を説得して決死作戦をやるしかない

 翌朝、俺は鍛冶場にいるリンダのとこへ向かった。

 軽く挨拶をしてから用件を伝えると、見る見る間に顔が険しくなって大声を出された。


「海彦、それは駄目だ! 危険すぎる!」


「それは自分でも分かっている。しかし、他に防御魔法を打ち破る方法はないし、俺以外の者にやらせる気はない」


「……でも」


「リンダが心配してくれるのは嬉しいが、鰐鮫は何としても倒さなくちゃいけない!」


「……分かった。明日までに……を完璧に作ってみせる! 海彦を死なせはしないよ!」


「頼むリンダ。その間に他の準備はしておく」


 リンダを説得したその足で、俺はロビンさんのとこへ向かった。


「うーむ……それは流石に無謀じゃよ、勇者」


「絶対反対!」「海彦駄目よん!」「無茶だ!」


 フローラ・ハイドラ・ミシェルは怒って猛反対する。

 この時ばかり女達は団結する。いつも張り合ってるくせに、不思議なものだ。


 一応は心配をしてくれてるのだろう。


 だが俺はゆずるつもりはなく、これで決めるつもりだった。


「他に案があるなら、言って見ろ!」


 最初は大喧嘩したが、詳細をつめることで強引に了承りょうしょうを得る。

 女達も渋々協力することになった。


 ある物が作られることになり、亜人達は急いでくれていた。

 

 全ての準備が終わり、いよいよ作戦が決行される。



 俺は一人、ヘカテーの湖の上にいる。

 泳いではおらず、釣りをしているわけでもない。


 鰐鮫の領域に入り、木のタライに乗って湖面にいた。周りには小舟一つ見あたらない。

 俺の格好はフィッシングベストを上に着て、ジーンズをはいている。


 一見するといつもと変わりなく、持っている武器はロングナイフだけで、ボウ銃はない。


 俺は汚れた湖を、ボーッと眺めているだけだった。水面をただよう浮き草と同じ。


 これで鰐鮫を退治しに来たとは思えまい。奴を油断させるのが狙いだ。


 だから今回、網も張っていない。


 そこに浮子うきが浮かんできて、奴のヒレが見えた。


 かなりの距離があり、鰐鮫は警戒して俺の様子をうかがっているようだった。

 俺を遠巻きにして、タライの周りをグルグルと回り出す。


 何周回っても近づいてこようとはせず、攻撃する素振そぶりすらなかった。

 やはり相当用心深くなっており、これでは鉄船が近づいただけで逃げ出したかもしれない。


 もはや正攻法では戦えなかった。だからこそ、俺は策を考えたのだ。

 しばらくすると、鰐鮫の姿が消えた。水に潜ったのは言うまでもない。


「いよいよだな、エサを残して逃げたりはしまい」


 もちろん奴にとって俺がエサだ。


 やがて湖面に泡が立つ。今までの鰐鮫の動きから予想すれば、真下からジャンプしてくるはず。

 そして湖面に叩きつけて獲物をしとめるのだ。


「グパア――――!」


「なにっ!」


 だが、奴の動きは今までとは違った。

 飛び上がらずに近くに浮上して、口を開けて噛んでタライを壊し始める。

 近くに自分の敵がいないから、余裕をもって攻撃してきたか。


「うおっ!」


 バキバキと木のタライは割れて、鰐鮫は俺を足から飲み込もうとする。


 俺の胴体は、奴の口に挟まれた――!


「ぎゃあ――! 食われるう――! 殺されるうー……なんてな」


「ギョギョギョギョギョ!」


 むしろ痛みを感じているのは、鰐鮫の方だろう。

 奴の牙は寸前で、俺の体に届いていなかった。口を開けたまま動きが止まる。


「みんなー! 持ち上げてくれー!」


「オオ――――!」


 大声で合図すると、俺の体ごと鰐鮫が持ち上げられていく。


 体とつながれた綱が、俺達を上に引っ張っていた。


 ふー……なんとか作戦は成功、後は鰐鮫にトドメを刺すだけだった。

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