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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第二章 騎士と姫

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甲冑を無理やり脱がせるしかない

「鉄船を前方に移動、騎士野郎の近くへ! オーク達は奴の鼻先にもりを投げ込んでくれ!」


「まかせろ!」


 船上から銛がたくさん飛んだ。力自慢のオーク達が投げれば、かなりの威力がある。


 当たってくれれば嬉しいが、あくまで牽制であり騎士野郎に近づけさせないためだ。


 鰐鮫はこの攻撃にひるんだようだ。


 ボウ銃の威力を知ったからこそ、自分の近くに着水するものは、小石でも恐れてしまう。


 奴は慌てて防御魔法を展開し、かなり混乱している。


 攻撃がくるとは思っていなかったようだ。この隙に俺はある作戦を決行する。

 

「よし! 網を出して引っ張れー!」


「おっしゃー!」


 鉄船から網を下におろし、それを二艘の小舟が引っ張っていく。


 他の小舟も手伝い、水上に網が広げられていく。その下に鰐鮫がいた。


「今だー! 網を落とせ!」


 トボン、ドボンと水音を立てて、いかりが湖に投げ込まれた。

 これにより、縄でつながれた網も一緒に沈んでいく。

 

 かぶせ網戦法だ!

 

 投網のように引っ張り上げるつもりはなく、重しをつけた網で、湖底に鰐鮫をはりつけてやるのが目的だ。


 身動きがとれなくなれば、エサも食えずに死ぬだろう。

 その前に、呼吸がしにくくなって倒れるはずだ。


 エラ呼吸か肺呼吸のどちらかは分からないが、血を流しているので酸素は必要である。

 出がけに思いついた作戦だが、上手くすれば鰐鮫を仕留められる。


 浮子うきが消える。どうやら俺の意図に奴は気づいたようだ。


 真上から迫る網に恐れおののき、急速潜行したのだろう。


 網が湖底に着くまでには時間がかかり、鰐鮫はその間に逃げられる。


 恐らく倒せはしない。ただ撃退するのには成功したようで、鰐鮫が姿を現すことはなかった。


「げっ! フローラ、後はまかせた!」


「ちょっとー、海彦!」


 返事も聞かずに俺は湖に飛び込む。騎士野郎の姿が見えなくなっていたのだ。


 力つきて沈んでしまったのだろう。間に合えー!


 俺はあたりをつけて潜っていく。

 水中はそれほど神怪魚の影響を受けておらず、明るいので見つけやすい。


 俺は素潜りなら五十メートルまではいける。息を止めていられる時間は約五分だ。

 

 いた! 


 騎士野郎はゆっくりと沈んでいた。

 俺は近づき襟首をつかんで、引っ張ろうとするが――

 

 お、重い! 重すぎる!


 甲冑なんか着てるからだー! アホ――――!

 

 沈んで当たり前だった。ちっ! あとから文句を言うなよ! 


 俺はナイフを取り出して、鎧のつなぎ目を切りまくった。


 甲冑は外れて湖底に落ちていく。野郎が軽くなり、俺は抱きかかえて湖面へと向かう。


 ん? なぜか柔らかい感触が手にあった。


「ぷはあー!」


 浮上した俺は、鉄船へと急いだ。騎士野郎を引き上げてもらい、俺もロープを使って甲板に上がる。

 寝かせられた騎士野郎を見て、俺は驚いた。


「……こいつ、女だったのか」


 二つの胸のふくらみは、大きいのでかなり目立つ。

 金髪も長く、普段はまとめて結ってるのだろう。


 どうやら女だと気づいてなかったのは、俺だけらしい。だから笑われたのか。


「観察力がない」と言われたらそれまでだが、目の敵にされてれば関わりたくもない。


 少しの間、騎士野郎……もとい女騎士を見ていると、


「海彦! 黙って見てないで何とかしなさい! ミシェルが息をしてないわ!」


「あっ! すまん!」


 驚いていたので、救急蘇生するのを忘れていた。


 俺は慌ててキューマスクを取り出す。二度目ともなれば、少し余裕をもてた。


「みてろよフローラ、キスはしてないからな」


 ミシェルにキューマスクを被せ、マウスピースをくわえさせる。

 すぐさま口をつけて、俺は息を吹き込んだ。


 次に両手を重ねて胸を強く押す。心臓マッサージだ。

 胸を何十回か押したあとに、人工呼吸と繰り返して行う。


「ゲホッ! ゲホ、ゲホ!」


 ミシェルは水を吐き出し、息を吹き返した。


 どんなもんだい! 助けてやったぜ! 俺はやれば出来る子。


「よし! あとはエイルさんにお願いしよう。浜辺には着いたか?」


「ええ」


 ミシェルは担架に乗せられて、運ばれていった。まだ意識は失ったままだ。


 まあ治療師のエイルさんにかかれば、すぐに回復するだろう。


 俺も船から降りようとすると、肩をつかまれる。


「フローラ、なんだ?」


 フローラは深刻そうな顔つきをしていた。


 下を向き俺と目を合わせようとはしない。一体どうした?

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