勇者には負けたくない! 手柄も欲しい!
「えーい! うじうじ考えてもしゃーない。とにかく鉄船と小舟を出す! あとは現場についてから考える。魔法使いを多く船に乗せてくれ。救助だからボウ銃はいらん!」
「わかったわ、すぐに父さんに伝え――」
「その必要はない。もう出航の準備はできとる」
ロビンさんが、俺達の側に来ていた。
俺の時もそうだったが、騎士野郎が負けるのを予見している。流石は族長といったところか。
あと、毛むくじゃらの従者にも頼まれたようだ。俺の方を見て頭を下げている。
そこまでされたら、俺も嫌とは言えない。
「よーし、出発! ――あっ! ロビンさん……を積んでください!」
「……なるほどのう。直ぐに準備させる」
直前になって、俺はある作戦をひらめいた。
ただ鰐鮫を倒す方法ではなく、ぶっつけ本番なので上手くいくかどうかは分からない。
それでも無策で挑むよりはマシだった。
準備を終えてから、俺達は急いでガレー船の後を追う。
やはり、櫂のある船は速く、追いつくのには時間がかかりそうだった。
帆船も遅くはないが、人力モーターには及ばない。
俺は船首で、腕を組んで足踏みをしながら焦っていた。
「間に合えばいいが……」
「うん」
「見えたわ!」
目の良いハイドラが、いち早く見つけた。
俺も双眼鏡でガレー船を確認する。
「まずい! みんな急いでくれ!!」
「シルフよ、大風を送りたまえ!」
案の定、騎士野郎は大ピンチである。
◇◆◇◆
時間は少し前、
「エサ桶を投下しろ!」
鰐鮫の領域に入るとガレー船は停船し、誘い出すエサを湖面に浮かべた。
「奇をてらう作戦は必要ない。正攻法で戦えば勝てる相手だ。神怪魚が現れたら、クロスボウをおみまいさせてやれ。我が軍の連射には耐えられまい。撃って! 撃って! 撃ちまくり、奴の防御魔法を打ち破ればよい。魔法士部隊は船を守れ!」
「オーダー、ナイト!」
騎士ミシェルに迷いはない。自信に満ちあふれた姿は部下にとっては憧れだ。
王の信頼も厚く人望もあり、王女の護衛も務めている。
唯一にして最大の欠点は、融通のきかないことである。
それと海彦に対するライバル心は、並々ならぬものがあった。
だからこそ、神怪魚討伐という功績を独り占めしたかった。
異界人である海彦と面識はなく、因縁があるわけではない。
男を、勇者という存在を、毛嫌いしているのだ。それには、ある理由があった……。
湖面が揺らめく、鰐鮫が出てくる兆候だ。
海彦がつけた浮子は、まだ外れてはおらず、浮上してくるのはわかる。
モサウルスは静かに湖面に顔をだして、ガレー船を見ていた。
まだ、クロスボウの射程外である。エサ桶には下手に近寄らない。
昨日は防御魔法で防いだものの、武器の恐ろしさを身をもって知り学習したのだ。
そして、モサウルスは考える。
敵をどうやって倒すか? あの忌ま忌ましい武器をどうやって防ぐか?
退く考えは全くない。エサを目の前にして、逃げるなどありえない。
小魚は食ったが、それだけでは腹はふくれず、傷は癒えずに飢えていた。
復讐だ! 船から落として食ってやる! あの騎士をバリバリとかみ砕いてくれる!
そして、考えがまとまったモサウルスは動き出す。
水面に浮かんだまま、エサ桶に向かってゆっくりと泳いでくる。
「撃ち方、用意」
水兵達に緊張が走る。射手は狙いを慎重に定めていた。
焦っては元も子もなく、ミシェルの合図を待つ。
あと少し……そして、手が降り下ろされた。
「撃てえー!」
ヒュン、ヒュンと唸りを上げて矢が飛ぶ。
矢の雨を鰐鮫に浴びせた。まともに当たれば一溜まりもないだろう。
「ギョワ、ギョワ、ギョギョギョ!」
鰐鮫は魔法の守りで矢を防いだ。
王国軍とモサウルスの戦いが始まった。




