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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第二章 騎士と姫

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勇者には負けたくない! 手柄も欲しい!

「えーい! うじうじ考えてもしゃーない。とにかく鉄船と小舟ボートを出す! あとは現場についてから考える。魔法使いを多く船に乗せてくれ。救助だからボウ銃はいらん!」


「わかったわ、すぐに父さんに伝え――」


「その必要はない。もう出航の準備はできとる」


 ロビンさんが、俺達の側に来ていた。

 俺の時もそうだったが、騎士野郎が負けるのを予見している。流石は族長といったところか。


 あと、毛むくじゃらの従者にも頼まれたようだ。俺の方を見て頭を下げている。

 そこまでされたら、俺も嫌とは言えない。

 

「よーし、出発! ――あっ! ロビンさん……を積んでください!」


「……なるほどのう。直ぐに準備させる」


 直前になって、俺はある作戦をひらめいた。


 ただ鰐鮫を倒す方法ではなく、ぶっつけ本番なので上手くいくかどうかは分からない。

 それでも無策で挑むよりはマシだった。


 準備を終えてから、俺達は急いでガレー船の後を追う。

 やはり、かいのある船は速く、追いつくのには時間がかかりそうだった。


 帆船も遅くはないが、人力モーターには及ばない。


 俺は船首で、腕を組んで足踏みをしながら焦っていた。


「間に合えばいいが……」


「うん」


「見えたわ!」


 目の良いハイドラが、いち早く見つけた。

 俺も双眼鏡でガレー船を確認する。


「まずい! みんな急いでくれ!!」


「シルフよ、大風を送りたまえ!」 


 案の定、騎士野郎は大ピンチである。

 

 ◇◆◇◆

 

 時間は少し前、


「エサ桶を投下しろ!」


 鰐鮫の領域テリトリーに入るとガレー船は停船し、誘い出すエサを湖面に浮かべた。


「奇をてらう作戦は必要ない。正攻法で戦えば勝てる相手だ。神怪魚が現れたら、クロスボウをおみまいさせてやれ。我が軍の連射には耐えられまい。撃って! 撃って! 撃ちまくり、奴の防御魔法を打ち破ればよい。魔法士部隊は船を守れ!」


「オーダー、ナイト!」


 騎士ミシェルに迷いはない。自信に満ちあふれた姿は部下にとっては憧れだ。

 王の信頼も厚く人望もあり、王女の護衛も務めている。


 唯一にして最大の欠点は、融通のきかないことである。


 それと海彦に対するライバル心は、並々ならぬものがあった。

 だからこそ、神怪魚討伐という功績を独り占めしたかった。


 異界人エトランゼである海彦と面識はなく、因縁があるわけではない。

 男を、勇者という存在を、毛嫌いしているのだ。それには、ある理由があった……。

 

 湖面が揺らめく、鰐鮫が出てくる兆候だ。

 海彦がつけた浮子は、まだ外れてはおらず、浮上してくるのはわかる。


 モサウルスは静かに湖面に顔をだして、ガレー船を見ていた。

 まだ、クロスボウの射程外である。エサ桶には下手に近寄らない。


 昨日は防御魔法で防いだものの、武器の恐ろしさを身をもって知り学習したのだ。

 

 そして、モサウルスは考える。

 敵をどうやって倒すか? あの忌ま忌ましい武器をどうやって防ぐか? 


 退しりぞくく考えは全くない。エサを目の前にして、逃げるなどありえない。

 小魚は食ったが、それだけでは腹はふくれず、傷はえずに飢えていた。


 復讐だ! 船から落として食ってやる! あの騎士をバリバリとかみ砕いてくれる!


 そして、考えがまとまったモサウルスは動き出す。


 水面に浮かんだまま、エサ桶に向かってゆっくりと泳いでくる。


「撃ち方、用意」


 水兵達に緊張が走る。射手は狙いを慎重に定めていた。

 焦っては元も子もなく、ミシェルの合図を待つ。


 あと少し……そして、手が降り下ろされた。


「撃てえー!」


 ヒュン、ヒュンと唸りを上げて矢が飛ぶ。

 矢の雨を鰐鮫に浴びせた。まともに当たれば一溜まりもないだろう。


「ギョワ、ギョワ、ギョギョギョ!」


 鰐鮫は魔法の守りで矢を防いだ。

 王国軍とモサウルスの戦いが始まった。

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