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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第二章 騎士と姫

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騎士野郎を見捨てる訳にもいかない

「三日前に自分は落馬し、そのまま意識をなくしました。気がつくとエイル様をはじめ、エルフの皆様に助けられておりました。王の御命令を果たせず、申し訳ございません」


「……すると、我らがガレー船で来ることは、彼らに伝えてないのだな?」


「はい、自分が起きたのが、今日なので……」


「そうか……部下を助けていただき感謝します、エイル様」


「いえいえ。ただ、もう戦うのは止めて下さい」

「はい。誤解と分かった以上、お詫び申し上げます」


 野郎は深々と頭を下げた。これで嘘じゃないと分かったか!

 俺にも謝ると思っていたが、「ふん」と言って従者のとこへと歩いていく。

 あくまで俺は敵らしく、完全に憎まれている。


 むかついたので詰め寄ろうとした所、女達に阻まれた。


「何はともあれ、私達は助けられたから抑えなさい海彦」


「あの言い方はひどかったけどん。怒りは別な事で発散させてあげるからー」


「お兄ちゃん落ち着いて、あの人は……」


「なんだお前ら、揃いもそろってイケメンの肩を持つ気か? あー、やっぱり色男は得だなー」


 ふてくされた俺を見て、女達はキョトンとした顔になり、笑いだされた。


「色男?」


「きゃはははははは!」


「あははははははは!」


「ヒーヒー! 気づいてないんだ、海彦?」


「何のことだ?」


 俺は訳が分からない。


「まあ知らなくてもいいさ。ただこれ以上揉めると、人間との関係がまずくなる。だから、我慢してくれ海彦」


「うむむむ……俺のせいで、部族対立させるわけにもいかんか」


 リンダから政治的な話をされて、矛をおさめることにした。

 しかし、あの騎士野郎は許さん! 俺の敵だ!


 それにしても、なんでみんな笑ったのだろう?

 その一方でロビンさんがエイルさんに、こっぴどく叱られていた。


「アナタ! なんで二人を止めなかったんですか!?」


「い、いや……闘わせた方が、お互いにわだかまりが消えるかと思って……」


「そんなわけないでしょ! どっちかが死んだらどうするんですか!? 大変なことになったかもしれないんですよ!」


「取りあえず、二人とも無事だったし……」


「それは結果です! 族長なんだから争いは、事前に収めなさい!」


「分かった、分かった。ひー、もう許してくれー!」


 ガミガミと叱るエイルさんの声はやかましく、お説教に終わりがない。

 ロビンさん助ける者はいない。いや、二人の間に入り込めなかった。


 これが夫婦というやつなのだろう。少しうらやましいとおもった。

 親の思い出は、おぼろげにしかないからだ。


 騎士野郎の方は従者と話をしていて、なにやらもめている。

 対等にみえたのでなので 騎士を引退した先輩なのかもしれない。

 しばらく喧騒けんそうは静まらず、日が沈むまで続いた。


 俺は一人、クルーザーへと戻ることにする。

 色んな事がありすぎて、頭も体も疲れ切っておりただ眠たかった。


 そして次の日となる。気分は憂うつだ。

 騎士野郎のことを思い出すと頭にくるが、顔を出さないわけにはいかない。

 それと一番の悩みは、神怪魚のことだった。


「魔法で守られたら、鰐鮫には勝てっこねーじゃん。どうすりゃいいんだー!? ボウ銃で精霊の数を減らしたとしても、逃げられたらどうしようもねー」


 俺は必死で考えるが、アイデアは浮かばない。山彦ー! 助けてくれー!

 二重網から逃げられたのもガッカリしている。奴を抑えておく手がない。


 取りあえず朝飯を食ってから、重い足取りで浜辺に向かう。

 すると女達が集まっており、何やら騒がしい。俺に気づくと全員走ってきた。


「何かあったのか?」


「王国軍……ミシェルが神怪魚討伐に向かったわ。私達の力はいらないって」


「あの騎士野郎、ガレー船一隻だけで戦う気か?」


「昨日の晩、族長会議を開いたんだけど、ミシェルが、『我が軍だけ十分!』といって譲らなかったのよ。私達との共闘は拒まれたわ」


「ふん、あれだけ大言を吐いたんだ。好きにさせてやれよ」


 俺は突き放す。あの野郎がどうなろうと、知ったことではない。

 倒してくれりゃーおんの字だが、神怪魚は頭が良くて強い。


 いくら良い武器があっても、そう簡単に倒せるとは思えなかった。

 やられる可能性の方が高いだろう。


 俺達の助けを断っているのだから手を貸す義理はなく、下手に近寄って攻撃でもされたら目も当てられん。

 あの野郎なら、俺を平気で撃つだろう。


「ほっとけ、ほっとけ」と言った俺に、ロリエが必死で訴えてくる。


「お兄ちゃん、騎士さんを助けてあげて!」


「ごめん。悪いが俺はやりたくないし、必要ないだろ?」


「このままだと、ミシェルさんは死んじゃうの!」


「ちょっとまて! ――もしかして野郎を占ったのか? ロリエちゃん」


「うん……」


 幼い顔で泣きそうな顔されては、とても辛い。

 ロリエの占いは、まず百パーセント当たるだろう。


 ここで騎士野郎を見捨てたら、後味が悪い。

 助けて恩を売ることにして、俺は自分を納得させる。


 あれだけ敵意を向けられたので、本当は気が乗らない。

 ただロリエの頼みでは、断りようもなかった。


「分かった。やるだけやってみるよ」


「ありがとう、お兄ちゃん」


 とは言ったものの、鰐鮫相手にどうしたものか? 

 攻撃は魔法で防がれる。俺は対応に悩んでしまう。

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