騎士野郎を見捨てる訳にもいかない
「三日前に自分は落馬し、そのまま意識をなくしました。気がつくとエイル様をはじめ、エルフの皆様に助けられておりました。王の御命令を果たせず、申し訳ございません」
「……すると、我らがガレー船で来ることは、彼らに伝えてないのだな?」
「はい、自分が起きたのが、今日なので……」
「そうか……部下を助けていただき感謝します、エイル様」
「いえいえ。ただ、もう戦うのは止めて下さい」
「はい。誤解と分かった以上、お詫び申し上げます」
野郎は深々と頭を下げた。これで嘘じゃないと分かったか!
俺にも謝ると思っていたが、「ふん」と言って従者のとこへと歩いていく。
あくまで俺は敵らしく、完全に憎まれている。
むかついたので詰め寄ろうとした所、女達に阻まれた。
「何はともあれ、私達は助けられたから抑えなさい海彦」
「あの言い方はひどかったけどん。怒りは別な事で発散させてあげるからー」
「お兄ちゃん落ち着いて、あの人は……」
「なんだお前ら、揃いもそろってイケメンの肩を持つ気か? あー、やっぱり色男は得だなー」
ふてくされた俺を見て、女達はキョトンとした顔になり、笑いだされた。
「色男?」
「きゃはははははは!」
「あははははははは!」
「ヒーヒー! 気づいてないんだ、海彦?」
「何のことだ?」
俺は訳が分からない。
「まあ知らなくてもいいさ。ただこれ以上揉めると、人間との関係がまずくなる。だから、我慢してくれ海彦」
「うむむむ……俺のせいで、部族対立させるわけにもいかんか」
リンダから政治的な話をされて、矛をおさめることにした。
しかし、あの騎士野郎は許さん! 俺の敵だ!
それにしても、なんでみんな笑ったのだろう?
その一方でロビンさんがエイルさんに、こっぴどく叱られていた。
「アナタ! なんで二人を止めなかったんですか!?」
「い、いや……闘わせた方が、お互いにわだかまりが消えるかと思って……」
「そんなわけないでしょ! どっちかが死んだらどうするんですか!? 大変なことになったかもしれないんですよ!」
「取りあえず、二人とも無事だったし……」
「それは結果です! 族長なんだから争いは、事前に収めなさい!」
「分かった、分かった。ひー、もう許してくれー!」
ガミガミと叱るエイルさんの声はやかましく、お説教に終わりがない。
ロビンさん助ける者はいない。いや、二人の間に入り込めなかった。
これが夫婦というやつなのだろう。少しうらやましいとおもった。
親の思い出は、おぼろげにしかないからだ。
騎士野郎の方は従者と話をしていて、なにやらもめている。
対等にみえたのでなので 騎士を引退した先輩なのかもしれない。
しばらく喧騒は静まらず、日が沈むまで続いた。
俺は一人、クルーザーへと戻ることにする。
色んな事がありすぎて、頭も体も疲れ切っておりただ眠たかった。
そして次の日となる。気分は憂うつだ。
騎士野郎のことを思い出すと頭にくるが、顔を出さないわけにはいかない。
それと一番の悩みは、神怪魚のことだった。
「魔法で守られたら、鰐鮫には勝てっこねーじゃん。どうすりゃいいんだー!? ボウ銃で精霊の数を減らしたとしても、逃げられたらどうしようもねー」
俺は必死で考えるが、アイデアは浮かばない。山彦ー! 助けてくれー!
二重網から逃げられたのもガッカリしている。奴を抑えておく手がない。
取りあえず朝飯を食ってから、重い足取りで浜辺に向かう。
すると女達が集まっており、何やら騒がしい。俺に気づくと全員走ってきた。
「何かあったのか?」
「王国軍……ミシェルが神怪魚討伐に向かったわ。私達の力はいらないって」
「あの騎士野郎、ガレー船一隻だけで戦う気か?」
「昨日の晩、族長会議を開いたんだけど、ミシェルが、『我が軍だけ十分!』といって譲らなかったのよ。私達との共闘は拒まれたわ」
「ふん、あれだけ大言を吐いたんだ。好きにさせてやれよ」
俺は突き放す。あの野郎がどうなろうと、知ったことではない。
倒してくれりゃー御の字だが、神怪魚は頭が良くて強い。
いくら良い武器があっても、そう簡単に倒せるとは思えなかった。
やられる可能性の方が高いだろう。
俺達の助けを断っているのだから手を貸す義理はなく、下手に近寄って攻撃でもされたら目も当てられん。
あの野郎なら、俺を平気で撃つだろう。
「ほっとけ、ほっとけ」と言った俺に、ロリエが必死で訴えてくる。
「お兄ちゃん、騎士さんを助けてあげて!」
「ごめん。悪いが俺はやりたくないし、必要ないだろ?」
「このままだと、ミシェルさんは死んじゃうの!」
「ちょっとまて! ――もしかして野郎を占ったのか? ロリエちゃん」
「うん……」
幼い顔で泣きそうな顔されては、とても辛い。
ロリエの占いは、まず百パーセント当たるだろう。
ここで騎士野郎を見捨てたら、後味が悪い。
助けて恩を売ることにして、俺は自分を納得させる。
あれだけ敵意を向けられたので、本当は気が乗らない。
ただロリエの頼みでは、断りようもなかった。
「分かった。やるだけやってみるよ」
「ありがとう、お兄ちゃん」
とは言ったものの、鰐鮫相手にどうしたものか?
攻撃は魔法で防がれる。俺は対応に悩んでしまう。




