喧嘩に卑怯もヘチマもない
「幸坂海彦だ。よろし……」
「なぜ、我ら王国軍の到着を待たなかった! 伝令は送ったはずだ!」
「えっ!?」
イケメン騎士の勢いと剣幕に、俺はタジタジとなり思考が停止する。
言い返す前に非難を浴びせられてしまい、騎士が怒っていた理由がわかる。
「我らの王が共闘を約束したのに、貴様はそれを破り勝手に戦い始めた! 違うか? 約定を守れない者など、信用するにあたわず! これにて共闘はなしとする。以後、我らが独自に神怪魚を討滅する。そちらの手出しは無用、邪魔するならば容赦はしない!」
「おい、ちょっと待て! こっちの話も聞けよ!」
「聞く耳もたぬ。第一、我らが駆けつけなければ、亜人に犠牲者がでたであろう? それは貴様らが弱く、統率がとれてないからだ。そのような弱兵集団など、足手まといにしかならぬ。不用、無用! これは貴様のためを思って、親切心で言ってやってるのだぞ? ふん、何が勇者だ」
一方的にまくしたてられた挙げ句、恩着せがましい態度を取られて、俺もキレた。
俺のことはいい、何を言われてもかまわない。
だが、一緒に戦った亜人の仲間達を侮辱されては、黙ってはいられない。
てめーらも、神怪魚を仕留めそこねたじゃねーか!
「ふざけんなー! 黙って聞いてりゃ言いたい放題。伝令なんか来てねー! 最初のダンクレウスは仕留めてるんだ。お前なんかに、弱兵よばわりされる言われはねー! 今日も途中までは上手くいってたんだ。お前らが使ってるボウ銃だって、お前が発明したわけじゃねーだろうが!? ああん! 調子こいてんじゃねー!」
「伝令がきてない? 嘘をつくな! それと武器は改良して、使ってやってるのだ。有り難くおもえ」
「うるせー、クソ騎士!」
「言ったな下郎! 殺してやる!」
「やってみろ!」
奴は剣を抜いた。細身の片手剣、レイピアという奴だろう。
俺も腰からロングナイフを抜く。
まともにやり合えば、俺の方が不利なのは分かっている。
武器のリーチは短く、野郎は戦闘のプロだ。それなりに修練はつんでいるだろう。
だからといって、俺も一歩も引く気はない。頭に血が上りすぎていた。
とにかく、一発ぶん殴ってやる!
喧嘩であれば、俺は負ける気はしなかった。俺は構えたまま、動かない。
「どうした、口だけか? ど素人め! ならばこちらからいくぞ!」
騎士野郎が俺めがけて剣を突いてくる――速い!
だが、野郎の踏みこみは甘く、剣筋も真っ直ぐではない。
――やっぱりな、地の利は俺にある。
俺は咄嗟にしゃがみこんで、左手で砂を握り騎士野郎の目にかけてやった。
「うっ! ひ、卑怯者!」
「うるせー! 喧嘩に卑怯もクソもあるか!」
目つぶし攻撃に野郎はひるむ。
軍隊の教本にもある対人殺法だ。お座敷剣法じゃ教えてくれまい。
この隙に俺はダッシュし、振りましてる剣を避けて騎士に肉迫する。
起伏のある砂場での動きは俺が上、野郎はど素人。
伊達にライフセーバーはやってないんだよ!
流石にナイフで切りつける気はないので、下に落とし右拳で騎士の顔面を狙う!
「そこまで!」
「ゴホン、ゴホン!」
おれの拳は野郎に届かない。寸止めするつもりはなかった。
本気のパンチは、精霊魔法によって止められたのだ。ナイアスの守りか。
「フローラか? 邪魔するな!」
「私じゃないわよ!」
俺はイラつくが、フローラは首を振って否定する。じゃー誰が?
「二人とも、武器をおさめなさい!」
この声は、エイルさん!
有無を言わせない、きつい口調だ。母親とはこういうものなのだろう。
俺を介抱してくれた恩人には、逆らえない。飯も食わせてもらった。
俺はしぶしぶ、落としたナイフを拾ってしまう。野郎もレイピアに鞘に納めた。
そこに、ロリエが桶を持って近づいていく。
「お水です。目を洗ってください」
「……感謝する」
野郎は手甲を外して、タオルで顔を洗う。
水を手ですくい、目を洗うと見えるようになったらしい。
俺をにらみつけてくる。まだやる気か? その前にエイルさんが割って入る。
「ミシェルさん、まずはこの方とお話をしてくれますか?」
「隊長!」
「お前はハンス! 伝令役のお前がなぜここに!?」
「すみません隊長、自分は任務に失敗しました……」
ハンスと言う兵士は、革鎧を身につけていた。
話しぶりから、騎士野郎の部下なのであろう。
問題なのは兵士の状態だ。左腕は首にかけた包帯でつるされて、添え木もされてる。
また右腕で松葉杖をついており、重傷としかいいようがない。
兵士は語り始めた。




