技術流出は防げない
「……俺は何か恨みを買うことをしたのか? 心当たりがなさ過ぎる」
「矢を撃つのに鉄船が、邪魔だったんじゃなーい?」
「あと、こっちの船が進路上にあったからでしょ」
「おっ! 二人共無事だったか。よかった」
鰐鮫が逃げたので、フローラとハイドラはこっちの船に乗り込んでいた。
小舟まで泳ぐよりは早い。
二人の言うことに間違いはないだろう。ただ俺にも言い分がある。
「こっちが邪魔だと言われてもなー……確かに助けられたが、勝手に戦いに割り込んできたのは向こうだ。あれが人間の王国軍ってやつか?」
「そう見たいね。私も軍隊は初めてみるわ」
「たまに村に来るのは軽装備の使者だし、道路を作るのは職人だからね」
「なるほどなー」
一応、感謝はしておこう。ピンチの所を助けられたのは事実だ。
来ないと思っていたから、俺は人間達を少しは見直す。
「しかし使っているあのボウ銃、俺達のより威力があるぞ。ひょっとして、鉄製クロスボウか!? あれは大型弩砲だ」
「だわさ、板バネを使って二本同時に矢を撃ってる」
「そんな技術があったのか?」
「いんや、海彦が来るまでボウ銃はこの世界にはなかった。おばば様が、あたいが作った物と、『ぷりんとあうと』した紙を一緒に、人間の王様に持って行ったらしい」
「そうか、印刷した資料と試作品のボウ銃を持っていったのか。それなら話は分かる。あの婆、技術を流出させやがったな。ボウ銃にかなり改良と改造がくわえられている」
「そうね、弦引きに巻上げ器を使ってない」
ガレー船に仕掛けられた装置によって、弦は引かれていた。
「アーアー!」
ターザンロープを持った水兵が、帆桁から飛び降りている。
すると動滑車が回り、弦はロープで引かれて留め具にかかる。
人を重りにして滑車を使うことにより、弦を引く力となっていた。
実際の帆船でも、帆を張るのに滑車を使うのでその応用と言える。
矢が発射されると、一瞬で弦が引かれる。矢の装てんも速い!
これなら連射可能で、ボウ銃の弱点を見事にカバーしている。
ただ、帆柱を上り下りしてる水兵達は大変そうだった。
鰐鮫が逃げ出した理由もよく分かる。
防御魔法のバリアはドンドン薄くなり、赤い精霊が次々と消えていってる。
矢の威力に耐え切れなかったのだろう。
「ナイアスの守りにも限界があるわ。魔力がつきたらおしまいね」
「あの攻撃は防ぎきれないわん!」
「そうか……」
エルフ二人は、やや興奮気味に語った。
命の危険にさらされて、戦に酔ったのかもしれない。
ガレー船は逃すまいと攻め立てるが、鰐鮫も必死に泳いで向きを変えた。
これにより速度の乗ったガレー船は直ぐには曲がれず、少しの間攻撃が止んでしまう。
この隙に、鰐鮫は水に潜って逃げてしまった。
惜しいとも言えるが詰めは甘い。戦いは二手三手先を考えておかないと駄目だ。
やはり網などて退路を断っておく必要がある。
この後、鰐鮫が姿を現すことはなかった。
「ちっ!」
騎士が手を上げるとガレー船は止まり、この場から引き揚げ始める。
俺達も浜辺へと向かった。全ての作戦は失敗におわり、気が滅入る。
……また負けた。犠牲者が出なかった事だけが幸いである。ロリエの占いどおりだ。
俺達は浜辺に上陸して砂浜に下りる。見れば、ガレー船から小舟が向かってきていた。
木造とはいえ大型船では座礁するので、こっちまで直接は来られないのだろう。
ボートに乗っているのは、イケメン騎士と毛むくじゃらなオッサンだ。
灰色の髪や髭で顔が見えない。まあ、従者といったところか。
ボートが浜辺につくと、騎士は颯爽と飛び降りて着地する。
所作もかなり格好よく見栄えする。見てくれも、俺よりはるかに上だ。
名乗りも堂々としたものだった。
「私は王の代理、騎士ミシェルである。代表者は名乗り出られよ!」
皆が一斉に俺を見る。ちょっと待て! 代表は族長のロビンさんだろ。
ロビンさんを見れば、「どうぞどうぞ」と言わんばかりに手をふっていた。
また、俺におしつけやがったな爺!
待たせる訳にもいかないので、仕方なく俺は騎士に近寄るが……




