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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第二章 騎士と姫

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あと少しの所で逆転されるしかない

 囲いの形は正四角形、そこから三メートルほど距離をとって、もうひとつ網の囲いがある。

 鰐鮫がジャンプして逃げようとしても、そう簡単に逃がすつもりはない。


 鉄船二隻と小舟は陣形を組み、攻撃態勢を整える。

 模擬訓練シミュレーションたまものだ。船の動きが見事だった。

 今度こそ、矢の雨を御見舞いしてやるぜ!

 

 チャンスは、すぐにやってくる。

 鰐鮫は湖の底まで潜ったのだろう。しかし、網に隙間はなく浮上してくるしかなかった。

 十メートルの浮子うきが見えた。


「来るぞー! 奴が水面に出たら、容赦なく矢を射込め! 外してもすぐに装てんすればいい! 鰐鮫を絶対に休ませるな!」

「おお!」

「撃ちまくれ――――!」


 鰐鮫が水面に上がるやいなや、風を切って矢が飛んだ。

 慌てて潜ろうとしても、すぐには出来なかった。巨体ゆえに素早くは動けまい。


 ドス! ドス! ドス! と数本の矢が奴に刺さる。


 矢の刺さった所からは、青い血が流れ出した。

 ただ矢は深くは刺さっておらず、致命傷にはほど遠い。鱗も体も固いのだろう。

 それでも攻撃が通じたので、士気は大いに上がる。


「よっしゃー!」

「いける! いける!」

「手を緩めるなー!」


 みんな必死で手を回し、弦を引いていた。すぐに撃てないのがもどかしい。

 連射できないのがボウ銃の弱点である。何とか改良したいとこだ。


「海彦、これは倒せるんじゃないか?」


「ああ、鰐鮫の図体が大きいから当てやすいし、体は固そうだがダンクレウスほどじゃない。このまま攻撃し続ければ仕留められると思う」


「だわさ」


 リンダも勝利を確信している。

 以外とあっけなかったな、自分の才能が恐いぜ。敗北を知りたいものだ、ふっ。


 俺が酔いしれてる間にも、矢は次々と刺さっていた。鰐鮫がくたばるのは時間の問題。


 さて、奴は最後にどうでるかな? 網に突っ込むか? ジャンプして体当たり?

 どちらにしても死あるのみ。


「……潜ったか。飛び上がってくるぞー、狙いは恐らく船だ。注意しろー!」

「おーけー、おーけー」


 ここで攻撃がやみ、全員最後の攻撃に備える。

 鰐鮫がジャンプしたら一斉射するだけだ。誰も外しはしないだろう。


 ボウ銃の訓練も完璧なのだ。

 しばしの静寂、浮子が上がり水面が揺れる。そしてついにその時が来た!


「放てえ――――!」


「ギョワ、ギョワ、ギョ――!」


 矢の発射と同時に、鰐鮫が鳴いたような気がした。

 それも弦の音と矢音に、かき消されてしまう。

 全矢が奴に命中……しなかった。矢が全て弾かれ、湖におちる。


「なに――――――――!」


「あれは、ナイアスの守り!」


 鰐鮫の体を赤い精霊が盾で守っていた。三白眼で見た目が恐い。

 俺達は驚くしかなかった。完全に動きが止まる。


「魔法だとー! じゃーさっきの鳴き声は、呪文かよ!?」


「そうとしか、考えられないわ! 神怪魚ダゴンが、魔法を使うなんてありえない!」


 フローラの大声が、こっちの船まで聞こえてきた。それだけビックリしている。

 全員が固まっていた時間はどれくらいだろう? このすきは大きかった。


「しまった! 鰐鮫が網を飛び越えた!」


 矢の装てんは間に合わない。

 連続ジャンプして、奴は二重網の包囲から抜け出してしまった。


 バリアを張った鰐鮫に打つ手がない。俺達は形勢を逆転され、ピンチに追い込まれる。

 俺の頭にロリエの言葉がよぎっていた。


「外れない占いか……」

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