ジャンケンで決めるしかない
「鰐鮫、右舷から後方に移動!」
「面舵一杯! 船首回頭! 帆に風を送れ!」
「鰐鮫ジャンプ!」
「ボウ銃、発射!」
進行役が神怪魚の想定行動を読み上げて、船長役が指揮をしていた。
宿泊所の一つを改装して、屋内訓練場を作った。
室内に帆柱を立て、舵やボウ銃も設置する。
その中で俺達は、訓練に励んでいた。
「神怪魚の動きを想定して、動く訓練か……」
「なるほどな、これなら慌てずに行動できる」
「リハーサルと言うのか、初めて知った」
「ああ、芝居では通し稽古とも言う」
亜人達の俺を見る目が変わっていた。尊敬の眼差しで見られてしまう。
日本じゃ当たり前の特訓方法だが、亜人達は集団行動をしたことがなかったからだ。
聞けば、小舟による漁は一人でするし、森での狩りも三人以下で行い、役割を分担するという考え方がもともとない。
一度やり方を教えれば理解は早い。亜人達は力だけでなく頭も良いのだ。
マニュアル作成会議は白熱する。
「鰐鮫が船の後ろにきたら、まずは直進すべきだ!」
「いや急反転して、攻撃だ!」
「それは、ちがうだろー!」
討論というのも初めてで、喧嘩になりそうになり俺が抑える。
「まてまて! 鰐鮫の動きは読めんから、どれが正しい行動なのかは、誰にも分からない。だから予定行動は一応決めておいて、後は船長たる族長の判断に従おう」
「……わかった」
全員が納得し、ロビンさんも了承する。
意見が割れた行動案は、目をつむっての挙手による、多数決で決める事にした。
誰が賛成したか分からないように、お互い恨みっこなしである。
このやり方も亜人達には衝撃だったようだ。
「勇者は口だけじゃないな、色々と考えてくれる」
「うんうん!」
俺に対する支持率は回復したと言っていい。
それよりも、皆が真剣に取り組んでくれるのが嬉しかった。
こうして、模擬訓練により仲間との連係もスムーズになる。
成長を一番感じているのは、亜人達であろう。
今回はチームプレイが勝利の鍵となる。
準備万端、整った。人間の援軍はもういらない、もう間に合わない。
明日には天候は回復するようなので、いよいよ決戦だ!
が……ここにきてもめ事が起きる。ほんとうに、本当にくだらない話だ。
「私が海彦と一緒の船に乗るの! 船を魔法で動かせるのは私よ!」
「駄目よんフローラ、それは他の魔法使いでもできるわ。海彦を守れるのは私だけ」
「あたいはどっちでも、いいんだけどねー。でも引き下がるつもりもないわ」
女めんどくせー! どうでもいいだろ!?
意味のないことに、女は争って張り合う。俺からすれば理解に苦しむ。
かといって誰か一人をひいきするわけにもいかず、ある勝負で決めさせることにする。
「じゃんけん?」
「あー知らないか、ここじゃ個人間の争いもないだろうからな。もめ事があったとしても、族長が裁定するんだろ?」
「ええ、そうよ」
「俺達は事が大きくなければ、じゃんけんで決める。ぐー・ちょき・ぱーを出して、勝負する簡単な遊びだ。くじ引きみたいなもんだ」
俺はやり方を三人に教えることにする。俺もまじって、何度か練習させた。
いよいよ、本番となると訓練場は異様な雰囲気となる。
各部族が集まっており、それぞれの代表の女に声援がかけられた。
「いけー、フローラ!」
「負けるな! ハイドラ」
「頑張れ、リンダ!」
どうしてこうなった?
応援に押された女達もマジになり、目が本気だ。
結局、俺は勝負審判をすることになる。




