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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第二章 騎士と姫

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ジャンケンで決めるしかない

「鰐鮫、右舷から後方に移動!」

「面舵一杯! 船首回頭! 帆に風を送れ!」


「鰐鮫ジャンプ!」

「ボウ銃、発射!」


 進行役が神怪魚の想定行動を読み上げて、船長役が指揮をしていた。


 宿泊所の一つを改装して、屋内訓練場を作った。

 室内に帆柱を立て、かじやボウ銃も設置する。

 その中で俺達は、訓練に励んでいた。


「神怪魚の動きを想定して、動く訓練か……」

「なるほどな、これなら慌てずに行動できる」


「リハーサルと言うのか、初めて知った」

「ああ、芝居では通し稽古げいことも言う」


 亜人達の俺を見る目が変わっていた。尊敬の眼差しで見られてしまう。

 日本じゃ当たり前の特訓方法だが、亜人達は集団行動をしたことがなかったからだ。


 聞けば、小舟による漁は一人でするし、森での狩りも三人以下で行い、役割を分担するという考え方がもともとない。


 一度やり方を教えれば理解は早い。亜人達は力だけでなく頭も良いのだ。

 マニュアル作成会議は白熱する。


「鰐鮫が船の後ろにきたら、まずは直進すべきだ!」


「いや急反転して、攻撃だ!」


「それは、ちがうだろー!」


 討論というのも初めてで、喧嘩になりそうになり俺が抑える。


「まてまて! 鰐鮫の動きは読めんから、どれが正しい行動なのかは、誰にも分からない。だから予定行動は一応決めておいて、後は船長たる族長の判断に従おう」


「……わかった」


 全員が納得し、ロビンさんも了承する。


 意見が割れた行動案は、目をつむっての挙手による、多数決で決める事にした。


 誰が賛成したか分からないように、お互い恨みっこなしである。


 このやり方も亜人達には衝撃だったようだ。


「勇者は口だけじゃないな、色々と考えてくれる」

「うんうん!」


 俺に対する支持率は回復したと言っていい。

 それよりも、皆が真剣に取り組んでくれるのが嬉しかった。

 

 こうして、模擬訓練シミュレーションにより仲間との連係もスムーズになる。

 成長レベルアップを一番感じているのは、亜人達であろう。

 今回はチームプレイが勝利の鍵となる。


 準備万端、整った。人間の援軍はもういらない、もう間に合わない。

 明日には天候は回復するようなので、いよいよ決戦だ!


 が……ここにきてもめ事が起きる。ほんとうに、本当にくだらない話だ。


「私が海彦と一緒の船に乗るの! 船を魔法で動かせるのは私よ!」


「駄目よんフローラ、それは他の魔法使いでもできるわ。海彦を守れるのは私だけ」


「あたいはどっちでも、いいんだけどねー。でも引き下がるつもりもないわ」


 女めんどくせー! どうでもいいだろ!?

 意味のないことに、女は争って張り合う。俺からすれば理解に苦しむ。

 かといって誰か一人をひいきするわけにもいかず、ある勝負で決めさせることにする。


「じゃんけん?」


「あー知らないか、ここじゃ個人間の争いもないだろうからな。もめ事があったとしても、族長が裁定するんだろ?」


「ええ、そうよ」


「俺達は事が大きくなければ、じゃんけんで決める。ぐー・ちょき・ぱーを出して、勝負する簡単な遊びだ。くじ引きみたいなもんだ」


 俺はやり方を三人に教えることにする。俺もまじって、何度か練習させた。

 いよいよ、本番となると訓練場は異様な雰囲気となる。

 各部族が集まっており、それぞれの代表の女に声援がかけられた。


「いけー、フローラ!」

「負けるな! ハイドラ」

「頑張れ、リンダ!」


 どうしてこうなった?

 応援に押された女達もマジになり、目が本気だ。

 結局、俺は勝負審判をすることになる。

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