人を当てにはしない
俺と女四人は、クルーザーの中で作戦を詰めることにする。
とは言っても、やることは決まっていた。
なんか飯を食わせて、風呂に入れるのが定番になりつつあり、もう自宅デートだ。
ただし、女が一人しかいない時は絶対に泊めない。
どうも貞操の危険を感じるので、これだけはゆずれない。
流石に他の女がいれば、せまられたりすることはなかった。
「作戦はエサ桶を今日のように流して、食いついた所をボウ銃で攻撃する。他に意見があったら言ってくれ」
「ダンクレウスよりでかいから、当てやすいと思うわ。ただ仕留めそこねて、潜られたままになると厄介ね」
「そうだな。となると船を改装してボウ銃の数を増やし、一気に攻撃しよう。戦いは数とはよく言ったものだ。四丁だけじゃ全然足りない」
「大型ボウ銃はあたいが作る。もう少し改良できるはずだわ」
「船の方は父さんに、私が頼むわ」
「うん、頼む……ロリエちゃん?」
ロリエはアルカナカードで占っており、顔を曇らせていた。
卦はよくないようだ。聞いてみると、
「ごめんなさい、吉兆はないの。ただ、みんな無事に戻ってこられるわ。お兄ちゃん」
「そうか、それだけでも十分だ」
失敗も覚悟の上である。
孫子の兵法では、敵を知れとか抜かしているが、鰐鮫を知る手段がねーんだよ!
兵書を読んで勝てるのなら苦労はない。結局、戦ってみるしかないのだ。
翌日、俺もロビンさんに作戦案を話した。
「……なるほど、その作戦なら良いじゃろ。じゃが、人間の軍を待たなくていいのか? 協力した方がいいんじゃないのか?」
「少しは待ちますよ。ただし鉄船の改装が終わり次第、戦います」
「そうか……準備を進めるとしよう」
「よろしくお願いします」
同じ人間でも、俺は当てにはしていない。なぜなら亜人の方が圧倒的に強いからだ。
……昨晩、寝る前の暇つぶしに女達と腕相撲をしたのだが……俺は全敗。
ロリエにも、負けたあああああああああ! しくしく。
亜人恐るべし、女でもかなり強い。もし押し倒されたら、逃げようがないな。
人間の王は勇者らしいが、軍隊は神怪魚と戦ったことがあるのか?
経験がないのであれば、足手まといとしか思えず、亜人達だけで十分だった。
鉄船の改良は着々と進んでいた。
杭に置くのをやめて船縁に長板をつけ、ボウ銃を並べることにする。
右舷と左舷にそれぞれ六丁で、計十二丁。手持ちボウ銃も用意する。
心配なのは船のバランスだった。
今回は正面から戦うわけじゃなく、船腹を向けて片側に船員が集まるから、どうしても傾いてしまうのだ。
下手すりゃ船が転覆する。
そこでバラスト代わりに、船倉に水をいれた樽を数個置く。
状況に応じて樽を移動させて、バランスを取るようにしたのだ。
鉄船の重量が増したのは仕方ない。矢の砲台として使うので機動性は不要。
それからしばらく、天候の悪い日が続いた。
俺は雨を見ながらぼやく。
「援軍に来るって言った割には、こねえーじゃねえーか!」
「そうね……」
連絡くらいよこせ、と言いたいとこだが、やむを得ない事情もある。
道路がぬかるんでおり、馬での移動は危険すぎる。
ここから城まではかなり遠いらしい。
電話もないから、連絡手段はない。どのみち間に合わんだろう。
妖怪婆は瞬間移動……いや、霊体を飛ばして王と話したとか言ってたな。
「まあ、期待はしてなかったがな」
やはり、自分達だけでやるしかない。とっくに準備は完了していたのだ。
あとは天候が回復したら作戦を決行する。
訓練も重ねて来た。ボウ銃はもちろんだが、特に力をいれたのは船の操舵だ。
実際には船は動かさず、室内での模擬訓練である。
まあ天候が悪く船が出せなかったので、苦肉の策だ。
そのやり方を知った亜人達は目を丸くする。




