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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第二章 騎士と姫

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挑発するしかない

「テミス、ニュクス、ヘカテー、セレネ、アルテミス様ー! お助けを!」


 だーかーらー、いくら名前を呼んだって、こたえてはくんねーんだよ。

 俺はチート能力をもらえなかった時点で、女神を当てにはしていない。


 日本人にしてみりゃー、クリスマスもハロウィンも初詣もイベントだ。

 宗教観はなく、その日をお祭りにするための口実だ。

 そのイベント自体、貧乏な俺には縁がない。それでも誕生日だけは、叔父が祝ってくれた。

 

 俺は日本人の中でも、極めつけの無神論者だろう。


 神様が何でもしてくれるのなら、親はいなくなったりはしない。

 目の前の厄介事は、自分の力で解決するしかないのだ。


 嘆いてばかりの亜人達に反吐が出る。やがて、すがる先が族長に変わった。


「族長、お考えをお聞かせ下さい。もう、我らはどうしてよいか分かりません!」


 連呼する声は広がり、大きくなっていく。やかましいわ!

 ロビンさんが立ち上がり、両手を前に出して騒ぎを静める。


「皆の者、静粛に。儂らの考えは決まっておるが、その前に勇者殿の意見を聞きたい。海彦殿、よろしいかな?」


「ああ」


 離れて立っていた俺に、視線が集中する。この爺、俺に振りやがった。

 まあ言いたいことはあるので、今回は構わない。前に歩いて行き演壇に上がる。


 まずは深呼吸、すうぅ――!


「黙って聞いてりゃ、ピーピー、ギャーギャーやかましいわ! お前ら!」

 

 俺の怒鳴り声に皆がひるみ、驚いていた。

 これまでは腰を低くして、俺は亜人達に接していたので、この変わり様は予想外だろう。


 だがもう馴れ合いは終わりだ。本音で本性で俺は語る。


 山彦とは違って、オブラートに包むような言い方は出来ないのだ。

 俺は皆に喧嘩を売る。


「今、祈って解決したか? 奇蹟とやらはおきたか? 女神様とやらは、目の前に現れてくれたか? 何も起こらねえじゃねーか! そんな者、あてにしてんじゃねーよ!」


「むー!」と全員が怒り出す。


 睨まれても俺はひるまず、更にあおる。


「よそ者の俺に言われて、むかついたか? ぶん殴りてーだろ? だがな、神怪魚はいなくなりはしねーぞ! 選ぶ道は二つ! 戦うか、逃げるかだ!」


 これで場は静まりかえった。俺は亜人達に決断を迫る。容赦なく過激に言った。


 慰める? 鼓舞する? きれい事を語る? 何それおいしいの? 


 現実は待ってはくれねえーんだよ!


「なーに、女神が居なくなりそうなら、ココを捨てて他所よそに移り住めばいい。だがな、湖から外に出て帰ってきた奴は、一人もいないそうじゃないか! それでもヘタレは逃げてしまえ! 俺は一人でも戦ってやる!」


 俺が言い終えると、皆は激高する。当然だ。


「俺達はヘタレじゃない!」


「よくも言ってくれたな海彦! 年下のくせにー! 女神様を捨てろだと!? ふざけんなー! 俺達の信仰心を見せてやる! 神怪魚なんぞ一ひねりだ!」


 俺は亜人達の価値観を、真っ向から否定したのだ。

 異界人だからこそ、恐い物知らずで物を言える。

 危険を承知で、俺は皆の闘争心をあおった。ここで三人の族長が立ち上がる。


「結論はでたようじゃな、この土地と儂らは一蓮托生! たとえ女神がおらずとも、ここで生きて暮らすしかないのじゃ! ならば、勇者と一緒に戦おう!」


「おお――――!」


 ハートマン軍曹を気取ったつもりはないが、やる気はでたようだ。

 あそこまで酷くはないよー。


 (へこ)んでいるより、怒って闘志を燃やしてる方が百倍ましだ。

 俺は憎まれてもかまわない。女神をけなした以上、村人達は俺を許さないだろう。


 どうせ神怪魚を倒したら、霊道オドを開いてもらって、この世界とはおさらばだ。

 後のことを、気にする必要はなかった。



「ひょひょひょ、なかなか抜かしおるのー小僧。じゃが、悪くない」


「でたな、妖怪婆ようかいばばあ!」


 俺の隣にホビットの老婆が、突然現れた。今更驚きはしない。

 こいつはおとぎ話にでてくる、意地悪魔女なのだ。


「お婆ちゃん!」

「おばば様! 今までどちらに!」


 魔女の登場に、場は再びざわめき出す。

 頭を下げている者もいるので、どうやら崇拝されてるようだ。

 フローラも敬称をつけて呼んでいたし、このババアには何かあるのだろう。


 俺は好かんがな!

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