俺の戦いは終わらない
「ついにやったのう、海彦殿」
「これで名実ともに勇者だ」
「うむ」
族長達は俺を褒め称えてくれてるようだ。周りが騒がしく遠いので、良くは聞こえない。
リンダは父親と話をしている。
「惚れたわー! やられてもやられても、めげずにやり遂げる男なんてそうはいないわ! 親父、文句はないよな!?」
「…………」
オグマは黙っており、複雑な表情をしていた。嫁には出したくない!
親子の様子を俺は見てはいない。何せ眼前でにらみ合っている、女達がいたからだ。
「むむむむむむむむ!」
「ぬぬぬぬぬぬぬぬ!」
「おいおい、お前ら船の上で暴れるな。危ないぞ……」
フローラとハイドラは俺の腕にしがみついたまま、離そうとしない。
神怪魚に勝った興奮さめやらぬ、といったところか。
大舞台での勝利に浮かれる、サポーターと同じ……ではないな。
今までの二人とは違い、険悪な雰囲気である。なんでだ?
「ハイドラ、離れなさいよ!」
「どうして? フローラこそ何で抱きついてるの? 海彦のこと嫌いじゃなかったっけ?」
「どうでもいいじゃない! ハイドラに関係ないわ――あっ! 止めなさい!」
ハイドラが俺の体をまさぐりだすと、フローラは怒り出す。
二人は喧嘩を始めてしまった。やかましいわ!
俺もだんだんウザくなってきて、苛ついてくる。
「いい加減、離れ……おろ!?」
「えっ!?」
「何アレ!?」
ダンクレウスの死骸を中心に、水の色が変わり始め誰もが気づく。
湖の浄化でも起こるのかと思いきや、どうやら違うらしい。
フローラの驚いた表情が、それを物語っている。
「こんなありえない! 私も初めて見る!」
「族長、これは一体!?」
「うむむ…………」
ロビンさんも険しい表情をしていた。
黒色だった湖の色が、濃藍色へと変わっていく。
暗くよどんだ青だ。色はあまり広がらず、湖面が輝き出す。
「これって、あの時と同じ! まさか!?」
「ちがう! 私じゃない! 私は霊道を開いてない!」
「何か出てくるぞ!」
「やばいぞ、やばいぞ! これは絶対にやばい! みんな逃げろー!」
俺の本能が告げていた。電気ケーブルを引っ張り、銛を急いで引き抜く。
早くこの場から立ち去らなければ、全員死ぬ!!
鉄船は帆を張り、魔法で風を送る。ボート部隊はオールを必死で漕いだ。
避難が完了すると、湖面に巨大な水柱が上がった。
発生した波で、船が大きく揺れる。
「ぐおっ!」
垂直上昇したそれは、昇り龍のように見えた。巨大な何かがジャンプしている。
水面に出たのは体半分、それでもダンクレウスより遙かに大きい。
体長十メートルはあるだろう。
そいつはワニのような口を開けて、ダンクレウスに噛みついた。
赤く光る目をしてるのは同じ、俺の方に向けられた気がした。
そのまま、鰐野郎は水面にダイブする。
水しぶきで、一面に雨が降り注いだ。イルカショーでも水は跳ねるが、その比では無い。
かなりの巨体で、シャチやミンク鯨の大きさを凌駕する。
浮かび上がった鰐野郎は、ダンクレウスをくわえて持ち去っていく。
食料として食べるのだろう。とった獲物は、かっさらわれてしまった。
誰もが呆然とするしかなく、言葉を失う。
流石にアレと戦う勇気はない。返り討ちにあうだけだ。
「…………」
俺も黙ったまま、帰投するしかなかった。犠牲が出なかっただけマシである。
悔しい思いをしたのは、これで人生何度目だろう? 多すぎて数える気にもなれん。
だが、俺はあきらめん! どんな化物が立ちはだかろうとも!
……あれ? フローラとハイドラは……!
「おい、しっかりしろ! フローラ!」
俺に抱きついていた二人が倒れていた。
慌てて抱き起こすが、目を開けたまま意識がない。ハイドラも同様にうつろ。
あとで知ったが、二人はトランス状態になっていたのだ。
ちなみにハイドラも巫女である。
何度か声をかけると、二人の目に光りが戻る。
「……女神のお告げよ……あれは神怪魚……」
「モサウルス……」
言い終えると、巫女達は気を失った。
俺の戦いは終わらない……
第一章 終わりです。この小説のジャンルは、「リトライ」物です。
チート一発や、ループ物に飽きて来られましたら、御一読のほどを。
(でも現代文明は持ち込みます。(^_^))
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