取り囲むしかない
赤兜は船の周りを、グルグルと回りだす。
俺達をかく乱させようとしている。守りが薄いとこを突くつもりだろう。
本当に頭が回る奴だ。
言ってる間に奴は消え、水に潜った。
「正面だ!」
「ふん!」
ジャンプしてきた赤兜に対し、俺とハイドラは引き金を引き、同時に矢を放つ!
一本はかすめて、もう一本は赤兜に深々と刺さった。
「ンギヨ――――!」
奴は悲鳴を上げて、青い血を流し湖面に落ちる。
「やったぞー! 手応えあり!」
「うんうん!」
俺達が使ったのは長弓ではない。作った武器はクロスボウであった。
和製名――ボウ銃。
台座に弓を取り付けた、矢の発射装置だ。かなり大きい。
船首と後部甲板にある丸太の上に設置して、赤兜がどこから来ても狙えるようになっている。
ハイドラが使っているのは、やや小型である。その代わり、早く撃てる。
俺を援護してくれるように、前もって頼んでいた。
ボウ銃の威力に関しては、もはや言うまでもなく、飛距離もかなりある。
鉄の兜を被ってようが、ヘルメットごと頭をぶち抜ける!
作ってくれたみんなのおかげだ。
ただ唯一の弱点は弦を引くのに、時間がかかることだった。
強力なので手では引けず、ハンドルを回して、巻き上げ用クランクを使う必要があった。
矢の連射はできないのだ。その分、威力は抜群だ!
赤兜が潜っている間に、俺は必死でハンドルを回していた。ハイドラの方がやや早い。
奴の動きは丸見えだ。矢が刺さったとこから、血が流れており位置が分かる。
「後ろだ! フローラ!」
「ええ! くらいなさい!」
今度はフローラが、ボウ銃を撃つ。
グサッ、グサッと二本の矢が奴の腹に刺さった。
「今度は当てたわよん」
「お見事、ハイドラ」
赤兜は倒れるように下に落ちて、水面で暴れ出す。
痛くて、もがき苦しんでるように見える。
「よし、いいぞ! 手を緩めるな」
二人がハンドルを回していると、奴は逃げだし始めた。
ここに来て身の危険を感じたのだろう――やられると。
動物の本能だ。だが俺は逃がすつもりはない。今度こそ仕留める!
ラッキーだったのは、赤兜が潜れなくなったことだ。
体に矢が刺さり血を流してるので、潜る体力がなくなったのだ。
ひとまずここから逃げて、回復をはかるつもりか。
「そうは問屋が卸さない、フローラ!」
「ええ、追うわ! シルフよ! 根性見せなさい!」
風精霊さん達が力一杯、帆に風を送ってくれる。
すみません、頑張ってください。お頼みします。
「手はず通りにいくぞ、矢を放て!」
「ふん」
必死で逃げてる赤兜に、俺達は矢を撃ち込む。
奴は慌てて進行方向を変えた。それと船を引き離しにかかった。
なんという底力、やっぱり化物だ。だけど……それは折り込み済みじゃ!
「ンギョ!?」
前方を泳ぐ赤兜の目の前に、網がこつ然と現れる。
奴は構わず突っ込むが、前には進めない。網の下に重りがついてるせいだ。
このままでは網に絡め取られてしまうので、赤兜は反転した。
だが奴に逃げ場はもうなかった。網が四方に張り巡らされていたのだ。
俺は網のある場所へと、奴を誘導していた。
「みたか、追い込み漁法!」
そして赤兜を二隻の鉄船と小舟が、取り囲んでいた。
実はロビンさんに、もう一隻作ってくれるように、俺は頼んでいたのだ。
奴を確実に仕留めるためだ。確かに網で囲んでしまえば、逃げられないように思える。
しかし赤兜は、ジャンプして網から脱出することが出来るのだ。
そこで取り囲んだら、矢で射殺す作戦を俺は考えた。
もう一隻の鉄船には四挺のボウ銃が設置され、族長達とリンダが狙いをつけている。
小舟に乗ったエルフ達も、小型ボウ銃を構えていた。もはや逃げる隙間もない。
「撃てえー!」
俺の号令のもと、矢が一斉に放たれた。