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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第一章 女神の湖

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決着をつけるしかない

 ドガン! と派手な音を立てて、板金鎧アーマーに大穴が空いた。


「ついに、やったぞー!」

「文句なしの大成功だ!」


 亜人の若人達ヤングマンが歓声を上げている。

 武器は完成し、あとは船に積み込むだけだ。


「あたいの自信作だった鎧なんだけどねー……こうなると、防具の意味がないわ」


「盾も貫けるんでしょ? なんて恐ろしい」


「鉄砲や大砲が世に出るまでは、最強の兵器だったからな。戦争の道具だから、扱いは慎重に頼む。あくまで、神怪魚を倒すのに使ってくれ」


「ええ……」


 武器に魅せられる者もいれば、不安に思う者もいる。女達は後者だ。

 しかし、武器がなければ赤兜は倒せない。奴は手強く一筋縄ではいかないのだ。

 できれば、武器作りはコレでお仕舞いにしたかった。



 俺とフローラは小舟で、湖の様子を見に行くと、


「ひどいな……」

「ええ……」


 水の四分の一がどす黒く染まっており、あちこちに散らばっている。

 瘴気ミアスマが広がり過ぎて、もう湖の水は使えない。


 皆が井戸やため池を使い始め、生活水が足りなくなってきた。

 もはや一刻の猶予もない。

 新たな船も完成し、神怪魚討伐の準備は完了していた。


「明日には決着けりをつける。天気は大丈夫か?」

「ロリエの占いなら晴れよ。星見も晴天と予想してるわ」


「よし、明朝出航だ!」

「ええ」


「……フローラ、自分で起きろよ」

「五月蠅いわね、あんたが起こしなさいよ」

「やれやれ……」


 フローラに押し切られて、またもやクルーザーで一緒に寝ることになった。


「……ねえ、海彦」


「なんだ?」


「神怪魚を倒したら、日本とやらに帰るの?」


「ああ、家族もいるしな。ただ、すぐには無理だろ? オドとやらが回復しないと、道はひらかないんだろ? 帰れるようになったら、よろしく頼むわ、フローラ」


「……ええ」


 それきりフローラは黙ってしまう。何が言いたかったのかは分からない。

 俺も明日に集中したいので、寝ることにする。

 目ざめは最悪だったが……いい加減、寝相を直せー!


「出航!」


 新しい鉄船が、沖へと進む。形状はさほど変わっていない。

 朝霧の中、船は進む。前回と同じくフローラに風を送ってもらっていた。


 今回はハイドラも船に乗っている。切り札で勝利の鍵だ。


 沖へとさしかかる頃、霧が晴れる。泡立つ黒い湖に、俺達は顔をしかめた。

 臭いもひどくてたまらない。早く浄化せねばならなかった。


 俺は前回同様、竿を用意する。途中までは同じ手順を踏む予定。


「よし、仕掛けるぞ」

「手伝わなくていいの?」


「ああ、二人とも辺りを警戒してくれ」


「わかったわ」


「海彦、アレ!」


 エサをつけようとした時に赤兜が現れる。嫌なほど何度も見た、奴の背びれだ。

 速度を上げて、船に真っ直ぐ向かってくる。


 奴の狙いは見え見えだ。また体当たりで、船を沈める気だろう。


 必ず、大ジャンプしてくる!


「釣られる気は、もうないってことか。なら勝負だ!」


 奴は潜った。俺達は慌てずに対応する。


「来るぞー!」


 赤兜は高く飛び上がる。ただし今度は、船の真横から襲ってくる。正面じゃない。

 ちっ! こざかしい――だが甘いな。


「ナイアスの守り!」


 フローラには帆柱だけを、守るように頼んでいた。

 精霊の盾に赤兜は跳ね返され、湖に落ちる。


「ギョ――――!」


 赤兜の鳴き声がやかましい。

 戦いの火ぶたは切られた。

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