決着をつけるしかない
ドガン! と派手な音を立てて、板金鎧に大穴が空いた。
「ついに、やったぞー!」
「文句なしの大成功だ!」
亜人の若人達が歓声を上げている。
武器は完成し、あとは船に積み込むだけだ。
「あたいの自信作だった鎧なんだけどねー……こうなると、防具の意味がないわ」
「盾も貫けるんでしょ? なんて恐ろしい」
「鉄砲や大砲が世に出るまでは、最強の兵器だったからな。戦争の道具だから、扱いは慎重に頼む。あくまで、神怪魚を倒すのに使ってくれ」
「ええ……」
武器に魅せられる者もいれば、不安に思う者もいる。女達は後者だ。
しかし、武器がなければ赤兜は倒せない。奴は手強く一筋縄ではいかないのだ。
できれば、武器作りはコレでお仕舞いにしたかった。
俺とフローラは小舟で、湖の様子を見に行くと、
「ひどいな……」
「ええ……」
水の四分の一がどす黒く染まっており、あちこちに散らばっている。
瘴気が広がり過ぎて、もう湖の水は使えない。
皆が井戸やため池を使い始め、生活水が足りなくなってきた。
もはや一刻の猶予もない。
新たな船も完成し、神怪魚討伐の準備は完了していた。
「明日には決着をつける。天気は大丈夫か?」
「ロリエの占いなら晴れよ。星見も晴天と予想してるわ」
「よし、明朝出航だ!」
「ええ」
「……フローラ、自分で起きろよ」
「五月蠅いわね、あんたが起こしなさいよ」
「やれやれ……」
フローラに押し切られて、またもやクルーザーで一緒に寝ることになった。
「……ねえ、海彦」
「なんだ?」
「神怪魚を倒したら、日本とやらに帰るの?」
「ああ、家族もいるしな。ただ、すぐには無理だろ? オドとやらが回復しないと、道はひらかないんだろ? 帰れるようになったら、よろしく頼むわ、フローラ」
「……ええ」
それきりフローラは黙ってしまう。何が言いたかったのかは分からない。
俺も明日に集中したいので、寝ることにする。
目ざめは最悪だったが……いい加減、寝相を直せー!
「出航!」
新しい鉄船が、沖へと進む。形状はさほど変わっていない。
朝霧の中、船は進む。前回と同じくフローラに風を送ってもらっていた。
今回はハイドラも船に乗っている。切り札で勝利の鍵だ。
沖へとさしかかる頃、霧が晴れる。泡立つ黒い湖に、俺達は顔をしかめた。
臭いもひどくてたまらない。早く浄化せねばならなかった。
俺は前回同様、竿を用意する。途中までは同じ手順を踏む予定。
「よし、仕掛けるぞ」
「手伝わなくていいの?」
「ああ、二人とも辺りを警戒してくれ」
「わかったわ」
「海彦、アレ!」
エサをつけようとした時に赤兜が現れる。嫌なほど何度も見た、奴の背びれだ。
速度を上げて、船に真っ直ぐ向かってくる。
奴の狙いは見え見えだ。また体当たりで、船を沈める気だろう。
必ず、大ジャンプしてくる!
「釣られる気は、もうないってことか。なら勝負だ!」
奴は潜った。俺達は慌てずに対応する。
「来るぞー!」
赤兜は高く飛び上がる。ただし今度は、船の真横から襲ってくる。正面じゃない。
ちっ! こざかしい――だが甘いな。
「ナイアスの守り!」
フローラには帆柱だけを、守るように頼んでいた。
精霊の盾に赤兜は跳ね返され、湖に落ちる。
「ギョ――――!」
赤兜の鳴き声がやかましい。
戦いの火ぶたは切られた。




