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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第一章 女神の湖

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狙いが読めない

 赤兜は引っかかった針を、懸命に外そうとしている。無理だっつーの!


「無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、むだあぁ――! 最強のトリプルフック針だ。返しがあるから抜けるわけがない! それとな、道糸ラインは四百号だ。マグロだって余裕で釣れる太さと強度がある。引っ張って千切れるものなら、やってみやがれ!」


 現代釣り具、TUEEEEEEE――――! SAIKYOOOOO――――!


 俺は勝ち誇り、鼻を高くする。完全に天狗状態だ。

 フローラも仕掛けの頑丈さに驚いていた。


「くっくくく! 圧倒的じゃないか、俺軍は! これは勝負にならんな、ふっ」


 鼻で笑い、俺は勝利を確信する。

 赤兜は暴れ回るのを止めた。道糸ラインがゆるむ。

 バラしたわけではなく、奴が鉄船に向かってきていたのだ。


 下から体当たりする気なのだろう。それで小舟を壊しているので、同じ手を使う気だ。

 だが今度は、そうはいかない!


「フローラ頼むぞ!」

「ええ、ナイアスの守り!」


 フローラが船底にバリアを張る。

 船上からでは見えないが、盾を持った精霊がたくさん集まっていた。

 赤兜の突進を、気合いを入れて受け止める。


「ふんぬー!」


 大きな水音はしたが、鉄船にダメージはなく、精霊達は赤兜を跳ね返した。

 すかさず、奴は別方向から襲ってくる。やはりタフな奴だ。


 浮上して、精霊が守っていない船腹を狙ってくる!

 ドン、という音とともに衝撃がきた。船が大きく揺れて、俺達は振り回された。


「きゃっ!」

「うおっ! 予想以上だ!」


 船体は傾くも転覆はせず、穴も開かない。船は赤兜の攻撃を、見事に耐えきった。


「やったぞ! 流石は鉄製、なんともないぜ。作ってもらった甲斐がある!」

「え、ええ!」


 フローラも命綱を握りながら、にこりと笑う。俺達には余裕があった。

 赤兜は自棄やけになり、船にかじりついてきた。まるで、ねずみのようだ。

 ガリガリと音を立てたところで、船は壊れはしない。


 むしろ、

「赤兜の歯が、一本飛んだわ!」

「ザマーみろ!」

 自身がダメージを負い、赤兜は船から離れていった。


 俺はリールを少し巻いてみると、まだ弱ってはいないようで、手応えはある。

 そう簡単にはへたばらないか、だがもう奴に打つ手はあるまい。

 俺は作戦を早めることする。


「フローラ、陸地おかにむけて、船を進めてくれ」

「予定より早くない? 大丈夫?」


「様子を見ながら、慎重に行こう。また暴れだすようだったら、船を止めて守ってくれ」

「わかったわ」


 俺もフローラも油断はしない。赤兜の獰猛さは、嫌というほど分かっている。

 最後まで気を引き締める必要があった。


 フローラが帆に風を送り、鉄船を微速前進させる。

 すると、赤兜は湖面に浮いて姿を現し、船の後についてくる。

 リールを巻く必要がなくなり、かえって不気味だ。

 

「なにか、狙ってやがるな」

「下手に暴れずに、体力の回復をしてるんでしょう。反撃してくると思うわ」

「だな、警戒は怠らないぞ!」


 しばらくこの状態が続き、船はゆっくり進んでいた。赤兜に動きはない。


「父さん達が見えたわ!」

「そうか、俺には見えんが……あと少しで陸地か」


 エルフの目は良く、五キロ先まで見えるらしい。また遠くの音も聞こえるそうだ。

 ここに来て、赤兜が動き出す。猛スピードで沖に戻り始めたのだ。

 突如、鉄船が引っ張られるが、俺達は慌てない。


「ここにきて最後のあがきか? なにっ!?」


 リールがすぐに軽くなった。引っ張られたのは一瞬、奴は反転してまた船に向かってくる。


 体当たりしても無駄なのは、学習したと思ったが、買いかぶりすぎたか?


 どのみちフローラの防御魔法と、船の装甲を赤兜は破れない。


 これは玉砕か?


 いや、そんなことをするのは愚かな人間だけだ。

 生物は生存本能があるかぎり、最後まで諦めはしないのだ。


 ならば奴の狙いは、一体なんだ?


 俺は首をかしげるしかなく、フローラも途惑っていた。

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