やることがない
それから、エルフ族を始め亜人の集団が、女神の湖に集まってきた。
総指揮をとるのは、ロビンさんだ。代表者が集まって計画を立てる。
「まずは、舟作り小屋……では小さいから、造船所を建てるべきじゃな」
「木材がいるのう。この近くの木を切って、宿泊所も建てるとするか」
「鉄も大量にいる。鉱山のドワーフに頼まんと」
「村々の馬車をすべて使って運ぼう」
……大事になってしまった。
これを日本でやったら、幾らかかるか想像もつかん。
労働力に資材に、毎日の食料。とても払えるもんじゃない。
俺は「船作り」の大変さを知り、軽く考えていたことを悔やむ。
恐る恐る、ロビンさんに聞いてみると……
「なーに、最初に言ったはずじゃ、必要なもんがあれば用意すると。勇者殿は何も気にする必要はない。儂らにまかせておけ」
「海彦でいいです。じゃーせめて、俺にも手伝わせてください!」
「いやいや、神怪魚と戦う前に怪我でもされたら困る。それとも海彦殿は、大工の経験はおありかな? 木こりは?」
「……いえ、ありません。バイトは雑務だったので」
「ならば、休んでられるといい」
「……はい」
やんわりと断られた。ド素人に現場をウロウロされたら、邪魔になるのだろう。
それは分かる。でもさー、一人でのんきに昼寝はできん。
サボっているようで、俺は罪悪感に蝕まれる。
建築作業は着々と進んでいく。部族間の連携が見事だった。
力仕事はオーク、細かい作業はエルフ、ホビットは身軽なのでとび職。
鍛冶場も作られることになり、耐火煉瓦が馬車で運ばれていた。
その煉瓦積みもさせてもらえず、俺一人だけが手持ち無沙汰だ。
もうー我慢できん! 俺は女性達のいる場所へと向かう。
「エイルさん、俺にも何かやらせて下さい。何でもします!」
「大丈夫ですよ海彦さん。炊事の手は足りてます。食事ができるまで待ってください」
「そうそう、海彦は戦うことだけ考えていればいいのよ。勇者なんだから」
「……うう」
父親ばかりでなく、母と娘にも断られてしまった。
俺が入り込む余地がどこにもない。うわーん!
俺は泣きながらクルーザーに戻った。ふて寝する気はない。
神怪魚の前哨戦とばかりに、竿を持ち出して湖に向かい、陸釣りを始めた。
「ちくしょう!」
怒りにまかせて、竿を振ってルアーを遠くに飛ばす。
リールを巻いて、ロッドをしゃくっていると、すぐに当たりが来た。
「おおっ!」
直ぐさま竿をひき、ハンドルを素早く回す。
ロッドはしなり、道糸がピンと張る。
魚はジクザクに動き暴れ回った。手応えから、まあまあの大きさだと分かる。
時間をかけて魚を弱らせ、俺は釣り上げた。
「イワナみたいだ。でもかなり大きいな」
異世界の生態系が、日本とは違うのだろう。なので、形はあまり気にしないことにする。
クーラーに魚を放り込み、気をよくした俺は釣りを続ける。
竿をふって、ルアーが着水すると、またすぐにヒットした。
「入れ食いかよ!」
俺は次々とかかる、魚を釣り上げていく。
後で気づいたが、神怪魚から逃げてきた魚が、浅瀬に集まっていたのだ。
俺は大漁に喜んだが、
「しまった! 釣りすぎた。これ全部、食えるのか? ……無理」
クルーザーに冷蔵庫はあるが、とても入りきらない。
仕方なくエイルさんのとこに、持って行くと喜ばれた。
「食べられますか?」
「これは助かります。どれも美味しいですし、みんなで食べたら、すぐになくなりますよ。炭火で塩焼きにしましょう」
「お願いします」
夕食時、串焼き魚が全員に配られた。
俺もかじりつき、頬張ってみると、
「うめえ――!」
泥臭さもなく、身が甘くホクホクとしている。
どの魚も良い香りと、良い味がしており、みんなが夢中で食べている。
エイルさんの調理も見事だ。
「ありがとう勇者!」
「また釣ってくれ。食うと、やる気がモリモリ出る」
「ああ、分かった!」
俺は皆から感謝されて、涙が出た。
こんなに嬉しいことはない!
「俺にはまだ、やれることがあるんだ……」
人の役に立って褒められるのは、やはり気持ちが良い。
自分の存在意義が、感じられるからだろう。
ただお魚さんには悪いから、後でほこらを建てて供養しようっと。
合掌。




