精霊はしんどい
「おーい、フローラ! 生きてるかー! いい加減上がれー!」
「……うー、わかったわ」
長湯になるのは最初から分かっていたので、文句は言わない。
それよりも、風呂でのぼせて倒れられるのが、一番まずいのだ。
介抱しようものなら、フローラの裸を見る事になってしまい、また騒ぎになる。
案の定、下におりてくるフローラの足取りは、おぼつかなかった。
フラフラしており、忠告して正解である。
頭にバスタオルを巻き、バスローブを着てる姿は色っぽかった。
湯上がり肌はつやつやしており、白い肌も朱色になっているので、かなり割り増しで美しく見える。
これで性格がよかったら、と思わざるを得ない。
「そら、水だ」
「ゴクゴク……ありがと、もう少し入ってたかったー。これは確かに最高の快楽ね。海彦が『風呂はいいぞ』と言った意味がよくわかったわ!」
「理解してくれてなによりだ。ただ、長湯はだめだ。風呂で死んだら洒落にならん。あとはドライヤーで、髪を乾かして……」
「それは必要ないわ。シルフよ、風を起こしたまえ!」
「えっ!?」
船内に風が吹いた。風力は扇風機ほどあり、かなり強い。
俺は魔法を間近で見ることができた。
フローラのそばに人の形をしたものが、たくさん集まっている。光る精霊だ。
体色は緑、身長は数センチ。服は着ておらず、小さな羽で飛んでいる。
俺は可愛らしく思えた。
「これが、精霊魔法というやつか? やっぱりすげーな」
「そうよ」
「どうやって、風を起こしてるん…………て、まさか!?」
俺は精霊の秘密に気づいてしまった。
扇風機なら羽根車をモーターで回すだけの話だ。
だが精霊の場合、一匹一匹が必死で仕事をしている。
なんと、精霊は手に団扇を持って、扇いで風を送っていたのだ。
「ヒー、ヒー!」と苦しそうな声が聞こえてくる。
それだけではない。息を目一杯吸い込んで、口から吐いている精霊もいた。
「すう――――! はあああ――――!」
顔を真っ赤にしての、ふいごだ。かなり辛そうである。
精霊達の集団によって、魔法が成り立っていた。
「……もしかして魔法というより、精霊による人海戦術なのか?」
「私の魔力を対価に、働いてもらってるのよ」
「…………」
こき使われてるようで、精霊が可哀想に思えてくる。
フローラは気にしたふうもなく、風を受けて髪を乾かしていた。
まるで、「お金を払ったから、奉仕しなさい!」と言ってる穂織のようだ。
「機械の代わりに働く精霊か……」
フローラはホワイトカラーで、肉体労働者は精霊かよ。
自分と重なる部分があり、つい同情してしまう。
ブラックバイトでないことを祈りつつ、俺も風呂に入ることにする。
フローラの甘い臭いが、風呂に残っていた。
入浴後、俺達は外に出て、星を一緒にながめる。
地球の星座とは全く違うので、フローラに教えてもらった。
これで方角や時間、季節を知ることができる。船乗りなら必要な知識だ。
体の火照りが冷めてから、下に降りる。
俺達はベットに一緒に入る。薄明かりの中でも、互いの姿は見えていた。
フローラは寝間着の浴衣を着ている。元は穂織の物でも、サイズはピッタリだ。
本当に別世界の穂織なのかもしれない。
俺もクルーザーにあった、男用の浴衣を何とか着ていた。こっちは大きくて合わない。
「おやすみ」
「ええ……」
俺達は寝ることに……寝られるわけねーじゃん!
ダークエルフの村の時とは違い、完全に二人きりの状況では、目は冴えてしまう。
俺は悶々として、眠ることはできなかった。心臓がドキドキのバクバクです!




