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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第一章 女神の湖

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精霊はしんどい

「おーい、フローラ! 生きてるかー! いい加減上がれー!」


「……うー、わかったわ」

 

 長湯になるのは最初から分かっていたので、文句は言わない。


 それよりも、風呂でのぼせて倒れられるのが、一番まずいのだ。

 介抱しようものなら、フローラの裸を見る事になってしまい、また騒ぎになる。


 案の定、下におりてくるフローラの足取りは、おぼつかなかった。

 フラフラしており、忠告して正解である。

 

 頭にバスタオルを巻き、バスローブを着てる姿は色っぽかった。

 湯上がり肌はつやつやしており、白い肌も朱色になっているので、かなり割り増しで美しく見える。


 これで性格がよかったら、と思わざるを得ない。


「そら、水だ」

「ゴクゴク……ありがと、もう少し入ってたかったー。これは確かに最高の快楽ね。海彦が『風呂はいいぞ』と言った意味がよくわかったわ!」


「理解してくれてなによりだ。ただ、長湯はだめだ。風呂で死んだら洒落にならん。あとはドライヤーで、髪を乾かして……」


「それは必要ないわ。シルフよ、風を起こしたまえ!」

「えっ!?」


 船内に風が吹いた。風力は扇風機ほどあり、かなり強い。

 俺は魔法を間近で見ることができた。


 フローラのそばに人の形をしたものが、たくさん集まっている。光る精霊だ。

 体色は緑、身長は数センチ。服は着ておらず、小さな羽で飛んでいる。

 俺は可愛らしく思えた。


「これが、精霊魔法というやつか? やっぱりすげーな」


「そうよ」


「どうやって、風を起こしてるん…………て、まさか!?」


 俺は精霊の秘密に気づいてしまった。


 扇風機なら羽根車をモーターで回すだけの話だ。


 だが精霊の場合、一匹一匹が必死で仕事をしている。

 なんと、精霊は手に団扇うちわを持って、あおいで風を送っていたのだ。


「ヒー、ヒー!」と苦しそうな声が聞こえてくる。


 それだけではない。息を目一杯吸い込んで、口から吐いている精霊もいた。


「すう――――! はあああ――――!」


 顔を真っ赤にしての、ふいごだ。かなり辛そうである。


 精霊達の集団によって、魔法が成り立っていた。


「……もしかして魔法というより、精霊による人海戦術なのか?」


「私の魔力を対価に、働いてもらってるのよ」


「…………」


 こき使われてるようで、精霊が可哀想に思えてくる。

 フローラは気にしたふうもなく、風を受けて髪を乾かしていた。


 まるで、「お金を払ったから、奉仕しなさい!」と言ってる穂織のようだ。


「機械の代わりに働く精霊か……」


 フローラはホワイトカラーで、肉体労働者ブルーカラーは精霊かよ。

 自分と重なる部分があり、つい同情してしまう。


 ブラックバイトでないことを祈りつつ、俺も風呂に入ることにする。

 フローラの甘い臭いが、風呂に残っていた。


 入浴後、俺達は外に出て、星を一緒にながめる。

 地球の星座とは全く違うので、フローラに教えてもらった。


 これで方角や時間、季節を知ることができる。船乗りなら必要な知識だ。

 体の火照ほてりが冷めてから、下に降りる。

 

 俺達はベットに一緒に入る。薄明かりの中でも、互いの姿は見えていた。

 フローラは寝間着の浴衣を着ている。元は穂織の物でも、サイズはピッタリだ。


 本当に別世界の穂織なのかもしれない。


 俺もクルーザーにあった、男用の浴衣を何とか着ていた。こっちは大きくて合わない。


「おやすみ」

「ええ……」


 俺達は寝ることに……寝られるわけねーじゃん! 


 ダークエルフの村の時とは違い、完全に二人きりの状況では、目は冴えてしまう。

 

 俺は悶々として、眠ることはできなかった。心臓がドキドキのバクバクです!

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