俺はパンダじゃない
「そうだな、村に帰るとするか――おっ! ととととと!」
俺はつまずき転びかける。これは天罰かもしれない。
顔に冷や汗が流れた。
「なんの! これしき」
「もう、なに遊んでんのよ!」
受け身をとって、砂の上に倒れたのでダメージはない。
立ち上がろうとした時、俺の目に光る物が映った。錯覚か? いや違う!
目を細めてよく見ると、青葦が茂る場所に何かがある。
俺は一目散に駆けだした。
「ちょっと、どこ行くの!? 待ちなさい!」
フローラの制止する声は無視し、俺は走るのを止めない。
もしかすると! ある予感と期待があった。
「はあ! はあ! はあ! やっぱりあった、あったぞー!!」
全力で走り息も切れ切れになるが、目当ての物を見つけた。
俺は大喜びして、ガッツポーズのあとに踊り出す。豊漁踊りだ。
「ソーリャ~トーリャ~コーリャ~すっとこドッコイショ♪」
「…………アホね」
フローラは白い目で俺を見ていた。何とでも言え。
それだけ俺は嬉しくて、はしゃぎたかった。
なにしろ、神怪魚に対抗する手段が見つかったのだ。
女神様ありがとうございます。文句を言ってすみませんでした。
これは有り難く使わせていただきます。感謝、感謝!
これなら勝てる! 神怪魚に勝てる!
俺が踊りを止めると、フローラは怪訝そうに聞いてくる。
「それで何よ、この船?」
「クルーザーといって、大物を釣るための船さ。しかも最新型の超高級品! 俺が一生働いたしても買うことはできない!」
「ふーん」
俺が見つけたのは、穂織のクルーザーだった。
あの時、神怪魚と一緒に霊道に吸い込まれたのだろう。
俺は早速乗り込んで、内部を調べてみたが誰もいなかった。
やはり、へスペリスに来たのは俺だけのようだ。
クルーザーを調べていくうちに、少しガッカリしたが、気を取り直す。
「まあいい。これだけあれば何とかなるはず……」
しばらくしてから、俺達はエルフの村に帰った。
翌日、俺はエルフの村を出ていく。
ロビンさんと、エイルさんには引き留められたが、俺の決意は固かった。
クルーザーを見つけたので、そこに住むと決めたのだ。
世話になりっぱなしでは、居心地が悪い。
「とりあえず何かあったら、またお世話になります」
「そうか……いつでも戻ってきてええぞ」
挨拶もそこそこに、クルーザーのある場所へと向かった。
これでせいせいする……と思っていたら、フローラは俺の後をついてくる。
もう用はないはずだ。今更つきあう必要もない。
いつまでも経っても、帰るそぶりがないので、俺は振り返った。
「どこまで、ついてくる気だよ?」
「アンタこそ、何で村を出でてくのよ?」
質問で返され、イラッとくる。
俺は女に甘くはないので、ハッキリと言うことにした。
キツい言葉だろうが、まわりくどい言い方をして、誤解されるよりマシである。
つうか、フローラに気を遣ってられない。頭の中は神怪魚で一杯だ。
「村を出る理由は二つ。その一つは、お前が俺を嫌っているからだ。信じてもいないだろう? ロビンさんは共闘するように言ったが、不仲じゃ戦えるわけがない」
フローラは、俺をにらんだまま黙っていた。
「二つ目は、エルフのみんなは確かに親切だが、物珍しい目で見られるのは耐えられん。俺はパンダじゃない! 勝手に勇者とか呼んでるが、これじゃただの見世物だ!」
「つ!」
俺の思いは伝わったようだ。フローラは視線をそらし、落ち込んでるように見える。
何も言い返してこなかった。言い過ぎかとも思ったが、事実は曲げようがない。
これで村に帰ると思いきや、フローラは頑固でしつこかった。油汚れか!




