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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
最終章 ヘスペリス合戦

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混乱したので、ちゃんと説明して欲しい

 逃げていく魔物にたいし、山彦は追い打ちはしなかった。


 ミサイルはまだありそうだが、撃つだけ金の無駄だし、ヤケクソになって向かってこられたら厄介である。


 だから追い払うだけにしたのだろう。魔物軍は残ったが、対処はあとから考えればいい。


 これでしばらく攻めてくることはない。冬も近いしな。


 山彦は全て理解して行動している。やっぱり頭のいい弟だ。



 こうしてヘスペリスの危機は去った。落ち着いた俺は雅に頼む。


「雅さん、みんなにラジオで伝えてくれ。勝ったと」


『はい海彦様……ヘスペリスの皆さん、魔王は勇者に倒されました。魔物軍は逃げていきました。私達の勝利です!』


「うおおおおおおおおおおおおおおー!」


「やったあ――――! 勝った――――!」


 各地で歓声が上がってるようだ。ここまで空耳が聞こえてくる。


 分かりやすく雅が放送してくれたのは良いが、話をはしょりすぎていて、あとから誤解をまねきかねなかった。


 俺が一人で魔王を倒したみたいじゃねーか!


 やったのは山彦と潜水艦の攻撃である。まあ、勝利に水を差すつもりはない。


 改めて各部族に無線連絡をすると、族長達は予備の気球でアルテミス湖に向かってくる。


 気球の数もかなり増えており、空を移動するのが一番早い。



 俺達は港近くに気球を着陸させる。少し広い場所さえあればよかった。


 浮上した潜水艦は、ゆっくりと移動して港に近づいてきていた。が、途中で停船しゴムボートを外に出して人が乗り込む。


 港は水深が浅く狭いので入港するのは難しいのだろう。船体が大きすぎる。


 ゴムボートに乗ったのは三人。山彦と穂織がいたのは予想通り。


 海神グループは軍需企業でもあるので、軍艦を造っている。国内随一(ずいいち)だ。


 山彦はお嬢様の力を借りて、俺を助けにきたのだろう。


 そしてもう一人は、レインコートを着て顔を隠していた。


 恐らくは今回の重要人物(キーマン)で、霊道を開いた魔法使いと俺はみている。


 でなければ異世界のヘスペリスには来られない。


 恩人には礼を言いたいので、あとで海彦に紹介してもらおう。


 俺は気を揉みながら桟橋で待っていた。嬉しくて顔がゆるんでしまう。

 なにせ弟との二年ぶりの再会だ。



 ゴムボートが桟橋に横付けされ、俺はすぐに渡し板をかける。


 歩いてきた山彦と俺は顔を合わせる。


「兄ちゃん……」


「山彦……」


 俺達は感極まって何も言えない。そこに、


「海彦さーん! わ――――ん!」


「ぐおっ!? 穂織さん?」


 俺にタックルして、海神わだつみのお嬢様が抱きついてきた。危うく倒れそうになる。


 そのまま大泣きし、しがみついたまま離れない。これには参った。


 前に婆の水晶玉で見たときは暗い顔をしていたので、俺の事をずっと心配してくれていたのだろう。


 あと罪悪感もあるのかもしれない。気持ちは十分、伝わってくる――!


「あんたー! 海彦から離れなさいよ!」


 突然、フローラが近づいて穂織を俺から引っぺがす……いてえー。


 フローラは怒り爆発状態。


 他の女達とはよく喧嘩してるが、ここまで怒ったのは見たことはない。

 なんでや?


「痛いわね! いきなり何すんのよ!」


 お嬢様も負けていない。フローラをにらみつけて詰め寄る。


 どうやら馬が合わないらしい。髪と目の色は違うが、なぜか顔はソックリな二人だった。


 一触即発の中、三人目が割って入る。


「お主ら止めんかい! 男の取り合いは見苦しいぞよ!」


「なによアンタ! 横から入ってくるんじゃないわよ――――えっ!? 私!?」


 フローラはその顔を見て驚き、俺もビックリする。


 両耳が尖っているのでエルフなのだが、その顔もフローラそっくりだったのだ。


 同じ顔が三人。一体どうなっているんだー!?


「妾の名はユーノー。お主の叔母じゃな、お姉ちゃんと呼ぶがよい」


「誰が呼ぶか――――!」


 フローラは切れまくる。いきなり訳の分からないことを言われたらむりもない。


 うーん。ますます混乱してきた。


 そこに、エルフ・ダークエルフ族長のロビンさんとアランさんがやって来る。


「「姉上――――!」」


「おおっ! 弟達よ久しぶりじゃのー! 150年……いやヘスペリスでは三〇〇年ぶりかのー」


 もうわけがわからん。混乱の極みだ。


「……すみません。話についていけませんので、場所を変えませんか?」


「そうじゃの。まずは落ち着くとするかのー」



 大騒ぎになって収拾がつかなくなり、俺達は港の休憩所に移動することにした。


 船乗りの食堂なので、かなりの人数が入れる。


 あいにく回収したので食い物はなかったが、茶葉は残っていたので、みんなでお茶にすることにした。


 リンダが手早く用意して俺も手伝う。もめた時のまとめ役なので、本当にありがたい。


 それと山彦がクーラーボックスに茶菓子を入れてきており、みんなで食べることができた。


 気が利く弟のお陰で助かる。久々に食べる日本の駄菓子は美味かった。

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