夜這いはしない
「隠さなくてもいいのよん、フローラ。一緒に湯浴みして、身体を隅々まで洗いっこして、夜はベットを共にしたじゃなーい。フローラの体は温かくて気持ちいいのー、うっふん」
「子供の頃の話だー! 誤解されるようなことを言うなー!」
ハイドラも悪のりし、フローラは大声で否定していた。かなり本気で焦ってる。
エルフの世界では、レズは冷たい目で見られるのかもしれない。
恐らくハイドラには、いつもからかわれてるのだろう。
だとすれば、フローラが会いたくない理由も分かる。
俺は少しはスッとしたので、フローラを助けてやることにした。
何事もやり過ぎはよくない。
「分かったフローラ。ノーマルだと特別に信じてあげよう。ハイドラ、そろそろ止めてやってくれ」
「そうね、悪ふざけがすぎたわね。それに本当は私……両性愛者なのん!」
「えっ!?」
ハイドラは俺に正面から抱きついてくる。
柔らかい乳が俺の胸にあたり、女の甘いにおいがした。
これで俺の理性が飛びかける。股間がやばい!
結局、騒ぎまくったせいで、日が落ちてしまう。もう帰れない。
仕方無く、ダークエルフの村で泊めてもらうことになり、族長であるハイドラの父親に会った。
名前はアランといい、ロビンさんの弟だそうだ。
やたら陽気な人で、気さくに俺に声をかけてくれた。
夕食に招かれて、勧められるままに酒を飲む。果実酒は飲みやすく甘い。
俺の身の上話を聞いてくれて、アランさんはいい人である。
しかし、神怪魚が湖を汚してる状況で、慌てなくていいのだろうか?
亜人の村人達を見てきたが、どうも焦ってる様子はない。必死さはゼロだ。
そこで聞いてみると、
「なーに、二か月くらいならほっといても、生活に影響はでんよ。井戸もあるし」
「そうですか……」
「そんなことより、ハイドラをよろしく頼む。婿……いや海彦殿」
と言われて俺は違和感を抱く。
ロビンさんにも、同じことを言われていたからだ。
なんかみんな、俺に期待してるように見える。だが俺には体一つしかない。
いくら考えても分からなかった。俺は勇者じゃないのだから。
「うーむ……」
宴会はお開きとなり、あてがわれた寝室で俺は横になる。
絨毯がしかれており、立派な客室だ。ただ家具はベットだけだった。
酒を飲んだせいで、俺は眠くなる。目が閉じかけたところで、部屋に乱入してくる者がいた。
俺の知ってる限り、これだけ傍若無人に振る舞う女は一人しかいない。
しかも、
「アンタ、そこをどきなさい。私が眠るから」
「はあ!? なんで!?」
「ハイドラが夜這いにくるからよ。あんたと一緒なら襲ってはこないわ。分かったら、さっさとどきなさい!」
俺はベットからの、立ち退きをくらう。
「おい、俺はどこに寝ればいいんだ?」
「毛布を持ってきてあげたから、下に寝なさい。じゃーお休み」
「…………」
横暴女はベットを奪って、そのまま寝てしまう。怒る暇もない。
俺は呆然としながらフローラを見ると、すでに寝息を立てていた。
どう見ても隙だらけである。俺から襲われるという考えはないのか?
まあ、夜這いをしようとしても返り討ちにあうだろう。
仮に誘われたとしても、俺は手を出す気はなかった。後々が恐い。
「やれやれ」
俺は毛布にくるまり、絨毯に寝そべった。
叔父の船で寝た時を思い出す。
「山彦、叔父さん……無事だといいな……」
別れた家族を想いながら、俺は眠る。
近くまで忍びよっていたハイドラには、気づかなかった。
「フローラが守ってたら、手は出せないわね。今夜は残念、勇者をくいそこねたわ。まあいいわ、いずれ機会はあるでしょう。ふっふふふふ」




