男達の出番がない
バシュ、バシュという音が重なりあって止まない。
胸壁から奥様軍団が銃をぶっ放しているのだ。ただ火縄銃ではない。
――炭酸ガス式空気銃。これも炭酸泉の恩恵だ。
カートリッジ式とプレチャージ式があって、大きなガスタンクが用意されている。
利点は連射ができることと、雨に強いことだ。
折しも天候は雨がパラついていて、火縄銃だったら使い物にならなかっただろう。
発射するまで時間はかかるし、扱いが危険な火薬に頼らなくてもいいのだ。
殺傷力はかなりあるので、敵は倒せる。
盾車が破壊されて魔物達は右往左往し、良い的でしかなかった。
「おほほほほほ! 脳天を一発でぶち抜きましたわよ。これがヘッドショットというものですね」
「負けないわー!」
「アナタ、弾を寄越しなさい! 早く!」
湖での前哨戦の時と変わらない。空気銃の射撃訓練も各村で行われており、奥様達も参加していたのだ。
「弓より疲れなくて、いいですね」
「撃つのが楽だわー」
奥様達は喜んで銃の腕を磨く。
練習量は男達を上回り、予備兵力のつもりが主力になってしまった。
またもや出番をとられた旦那達は、弾とガスの運搬、熱くなった銃身の交換をやらされていた。
熱くなると命中精度は下がるし、銃が変形してしまうので銃身交換は必要。
あと城塞の下からも、射撃音が聞こえてくる。
信長公の三段撃ちはないが、一つ下の階には狭間があって、そこからも銃を撃つことができた。
頑丈なガラス張りなので、視界は悪くない。戦場を一望できて敵の位置も丸わかり。
下ではフローラとハイドラ達が撃っていた。スコープ付きの狙撃銃で射程は長い。
塹壕に逃げようとしてるゴブリンを確実に仕留めていた。二人も達人級だ。
……通風口から声が聞こえてくる。
「ねえねえフローラ、玉ちょうだい。タマタマちょうだぁーい。あ、海彦は二つ持ってるわねん。とってきてん」
「ふざけんなーハイドラ! 自分でとってこーい! いやらしい事ばかり言ってないで、真面目に撃てー!」
「発射するのは海彦よん」
「…………」
キレるフローラに、からかうハイドラ。これにみんなが爆笑していて、明るい雰囲気だ。
なので、俺は文句を言いたいの我慢する。
ハイドラに注意しても無駄だし、怒鳴ると士気が下がる。
もともと正規の軍隊ではないので規律はゆるい。それでも、仕事と戦いはちゃんとやってくれていた。
……ただね、女性は戦うもんじゃねえーだろ!
銃弾の雨を浴びせられて、魔物達はバタバタと倒れていった。
昼過ぎ、奴らは作った兵器を置いて撤退する。それでも、こっちの射程外ギリギリで踏みとどまり、あきらめた様子はなかった。
「思ったより、敵の数が少なかったな」
「そうね。倒れてる魔物はわずかよ」
『こっちも、逃げるのは早かったでござる』
「アタワルパさん了解です。ひとまず昼食を全員とってください。また攻めてくるでしょう」
『うむ』
魔物達が引いたからといって、俺達は追撃にはでない。城壁に攻めてきたのは二百匹程度。
万の敵の数からすれば微々たるものだ。こんなのは蹴散らせて当たり前。
歯ごたえが全くなかった。
たぶん、俺達を城塞から誘い出すのが、狙いだったのかもしれない。その手には乗らんがな。
さあ飯飯。
「海彦さん、どうぞ」
「どうもですー」
エイルさん達は、朝のうちから作っておいた、握り飯や弁当を配っていた。
竹製・木製の弁当箱は見た目も良く、余分な水分を取ってくれるので、冷めてても美味い。
やはり自然由来の物はよい。
魔法瓶に入れてあるお茶を飲んでいると、ホッとして戦争をやってる感覚が薄れる。
気が緩むのはマズいな。
「魔物に動きはないか。奴らも何か食ってるし……たぶん干し肉だな、固くてマズそう」
俺は飯を食いながらも警戒していた。胸壁から離れず、双眼鏡で魔物達を監視していた。
見張りはいるし気球もあるから、気負う必要もないけどね。それと亜人は俺より視力があるので、動きを見逃すことはないだろう。
昼食が食い終わる頃、魔物達は動き出す。
予備の盾車を持ち出してきて、何やら改造を始めた……。




