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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
最終章 ヘスペリス合戦

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売り込みは激しい

 私達は兎族を助けてから、アルテミス湖の港に戻ってきた。


 戦闘は楽勝。ほとんどエイル母さん達が魔物を倒したので、あまり活躍はできなかった。


 ……ただ、男達を押しのけて戦うのは考えものね。でしゃばりすぎよ。


 海彦の作戦のおかげだし、新武器もあったので勝てて当たり前。


 このくらいで喜んではいられないわ。ハイドラやリンダ達も同じ気持ちだ。


 まだ戦は始まったばかり、気を引き締めないと。



 船を下りて、海彦のとこへ歩いていくと、男女二人の姿が見えた。


「あれが、海彦の御両親ね。無事でよかったわ」


 湖めぐりの旅の後、本当なら海彦は日本に帰る予定だったけど、無線を送っていた異界人が、親御さんと知ってヘスペリスに残ることになった。


 幼い頃に別れたと聞いてたから、感動の対面……には見えないわね。


 海彦は困ったような顔をして途惑っている。どうしてだろうか?


 私が近くにいくと、


「ちょうどよかった、フローラ。親父とお袋を案内してやってくれないか? 戦は始まったばかりだし、基地の避難所まで頼む」


「ええ、それは構わないけど……」


 かなり素っ気ない態度である。私は夫婦に挨拶をして、連れて行くことにした。


 途中、友人にしてライバル達が声をかけてくる。


 海彦の両親ともなれば、名乗って顔を覚えてもらうのに強烈なアピールをする。


「アマラは海彦の嫁なのだー!」


「海彦様の婚約者ですー!」


「愛人よん」


 とか聞くとむかつくが、ココは我慢。


 なにしろ海彦の両親は聞いて驚き、女達の売り込みに引きぎみだ。


 私まで張り合って騒ぐのは止めておく……。



 基地の炊事場にくると、良い匂いが立ちこめていた。母さん達が炊き出しをしている。


 戦ったばかりなのに、助けた兎族のために腕をふるっていた。


 まずは、食べて落ち着いてもらった方がいいわね。


 長い間、魔物から逃げる生活をしていたら、まともな食事をとっていないはず。


「うめえー!」

「おいしい!」


 案の定、涙を流し喜んで食べていた。無理もないわ。


 そんな子供達を見て良かったと思うと同時に、こんな目に遭わせた魔物に憎しみがこみ上げてくる。


 逃げ遅れて犠牲になった亜人は、何人いるのだろう? 絶対に許さない!


 母さん達も同じ思いのようだ。顔は笑っていても、闘志を燃やしているのが分かる。


 ヤル気満々だ。


 腕力では男性にはかなわないけど、今は海彦が教えてくれた武器があるから、女でも十分戦えるわ。

 これは、父さん達の出番はないかも……。



 海彦の両親にはテーブルに座ってもらい、私が料理を取りに行こうとする前に、エイル母さん達が持ってきてくれた。


 顔見せと挨拶をしたいのは、私達だけではなかったようだ。


 それだけ海彦は勇者として感謝されている。


「米が食えるとは思わなかった……」


 二人が食べてるのはお茶漬け。


 肉とかもあるけど、まずは消化に良いものを食べてもらう。フルーツもいいわね。


 次の食事にはご馳走を出そう。日本の美味い物なら、ほとんど作れるわ。


 私は二人が食べてる間に、今のヘスペリスの近況と海彦の話をする。


 エルフ語は分かるようで、私も日本語を少し喋れるから、お互いに理解できた。


「……そうでしたか、フローラさん。海彦はここに来て頑張ってたようですね」


「ええ、みんな助けられてます」


「……でも、たぶん私達は恨まれてますよね……」


「えっ!?」


「無理もないな……数十年間ほったらかしにして、親らしいことは何一つしていない。無事に育ってくれただけで、ありがたいと思わねば。弟のたもつに感謝するしかない……」


 玉三郎さんの言葉に、私は慌てて否定する。


「二人とも、ちょっと待ってください! 転移事故なら仕方ないじゃありませんか!? それに海彦は、ご両親のことを悪く言ったことは一度もありませんよ! どうしたんですか!?」


 話を聞くと、海彦の態度があまりにも他所他所よそよそしかったらしい。


 確かに、折角両親に会えたのに積もる話もせずに、基地案内を私に任せている。


「今は魔物との決戦前なので、海彦も気が立っているのかもしれません。あとで聞いて見ますから、落ち込まないでください」


「いろいろありがとう、フローラさん。海彦は良い人に会えたようですね」


 咲耶さんから礼を言われ、私は恐縮する。あと褒められて嬉しい。


 お義母さんと呼ぶ日がくるのだろうか?

 

  ◇◆◇◆

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