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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
最終章 ヘスペリス合戦

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無線で会議をしたい

「では、今のとこ村の近くに魔物は出てないんですね?」


『うむ。見張り台からは発見できんかったし、オフロードバイクで調査に行った者の話では、いなかったそうじゃ』


『気球からの無線連絡も、特に異常なし』


「やはりココ……アルテミス湖に敵がきそうですね」


『うむ』


 目の良い亜人が、魔物を見逃すわけもない。となれば一箇所に集結して襲ってくるだろう。


 まだアルテミス湖周辺でも、発見はされてない。が、偵察部隊がいずれ見つけるはず。


 急いで、いくさの支度をしよう。


『第一陣は明日にはそっちに着く。儂らも急いで向かう』


「ええ、頼みます。それでは」


 無線会議は終わった。あとは戦士達の到着を待つだけである。


 ピーターさんと兎族には、テントをたくさん立ててもらう。場所はとっくに決めてある。


 大人数がくるので寝る所は必要、体に悪いので野宿はさせない。野戦病院もかねる。


 各村からの移住者達は、食料庫・武器庫からの物運び。これも大変な作業だ。


 とにかく戦争は大事業である。



「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ」


「おお、おめでとう! 結婚式にはいくぜ!」


「…………」


 脂肪フラグを立てるのは止めろ。わざとやってねーか?


 大戦おおいくさを前にしても、陣内の雰囲気は明るく、働く手を休めてはお喋りをしていた。


 魔物が来ることは前々から分かっていたし、地獄の特訓をこなしてきたからこそ、誰もが自信をつけている。


 あとは、やり合って勝つだけである。まず負けはしない。



 そして一日が過ぎ、何事もないまま次の日を迎えた。これは嵐の前の静けさだろう。


 アルザスと各村から戦士達が続々とやってくる。


 近道の水路と蒸気船があれば来るのは早い。武器や防具の他に食料も運んできている。


 アマラは船に米俵を積み上げてやってきた。ニュクス湖では二期作が可能なので、たくさん米が収穫できる。


「新米なのだ。みんなに食ってもらうのだ!」


「ありがとうなアマラ。これで力がでるだろう」


 族長達はまだこないが、娘達は先にやってくる。そんでもって、奥様軍団も一緒に来ていた。


 戦場に顔を出さないと気がすまないのだろうか?


 本当なら女性と子供は村で待機の予定。今回の戦いは規模が違うので、命の保証はできない。

 俺は恐る恐る、苦言を言う。


「あのー、エイルさん。村に帰ってくれませんか。これからココは、超危険になるんですけどー……」


「だからですよ、海彦さん。旦那達に調理は任せられません。ろくな物を作りませんからね。それでは戦に勝てません! ほっとくと着替えもしないし、とても臭くなります」


「そうそう! それと私達も戦うわ!」


「……わかりました。では、炊事と衛生面をお願いします」


 奥様達の勢いには勝てなかった。やはり逆らえない。


 まあ後方に下げておけば、大丈夫だろう。いざとなれば娘達と一緒に逃げてもらうだけだ。


 俺は奥様達の案内をしてから、基地全体の見回りをする。ついでに戦士の激励だ。


 ……いつのまにか、フローラ達と集団になって歩いていた。なんでだ? 


 そこに、ホビットのロリエがやってくる。



「お兄ちゃん、お婆ちゃんが呼んでるの。一緒にきて」


「……わかった」


 正直、意地悪魔女に会うのは気乗りはしない。が、戦の前なので、何か用があるだろうと思い、ロリエについて行った。


 人気ひとけのない場所に、婆が一人で立っていた。一応おれは警戒しながら近づく。


 何をされるか分かったもんじゃないからな。正面に立ち問いかける。


「なんのようだ? 婆」


「……海彦、お別れじゃ。ばあはこの世を去る」


「なにっ!?」


「お婆様!」

「お婆ちゃん!」


 突然の別れの言葉に俺達は驚き、二の句が継げず固まってしまう。


 ロリエは涙目になっていた。


「これは運命さだめなのじゃ、悲しむことはない。それに婆は、ヘスペリスをあの世から見守るからのう……さて、行くとするか」


「まてっ!」


「ヘスペリスとロリエは任せたぞ、最後の勇者よ。ひょひょひょひょひょひょひょひょ!」


 薄気味悪い笑い声を上げて、婆は本当に消えてしまった。


 音を立て地面に落ちたのは杖と黒ローブ。ロリエはそれらを拾い、抱きしめて泣いた。


 すかさずフローラ達が慰める。


 俺は目の前でいなくなっても、まだ信じられなかった。


 いつも突然現れては消えていたので、またひょっこり現れるかと思ってしまう。


 ……だが、俺達の前に婆が姿を見せることはなかった。


「いきなりすぎるぞ。勝手なことばかり言いやがって……」


 そして、俺達は新たな異変に気づくことになる……。

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