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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
最終章 ヘスペリス合戦

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船旅は騒がしい

 またもや、村巡りの旅が始まる。


 とはいっても交通手段が増えたので、最初にヘスペリスに来た時に比べたら、移動は楽ちんすぎる。


 クルーザーを動かすこともなく、俺は湖船こせんの定期便に乗っていた。


 まずはアルザス王国に向かい、そこから鉄道を使って各村を回って、夏にはニュクス湖とテミス湖に行く予定。


 お気楽な一人旅……にはならない。


「これは、いけるわね」


「美味いのだ!」

「おいしいですー!」


 女達が全員ついてきて、クルーザーで一緒に旅した時と変わらない。


 ボリボリとせんべいを食いながら、くっちゃべっていた。


「海彦様、ドーナッツをどうぞ。おいしいですよ」


「……ああ、いただく」


 グビグビとジュースも飲み、完全に観光旅行(バカンス)である。


 明日の飯をどうしようか、悩んでいたのが懐かしい。


 毎日、船が湖を行き来してるので、港には売店が作られ弁当・お菓子・飲み物などが売られていた。


 土産物もたくさんあって、陳列ワゴンが外にも出されている。もはや日本と変わらん。


「ぬう、この揚げ方は見事だわさ、サクサクして油っぽくない。チョコレートとのマッチングもいいわ」


 リンダは料理となれば研究熱心だ。美味い物を食べると、対抗心を燃やして作る。


 本人いわく、「鉄を叩くのは飽きたわ」。


 なので仕事は鋳造がメインになり、あとはお菓子作りに夢中になっている。


 今はまだ手作りなので、菓子工場を作るのが夢のようだ。



「それでは、今回の企画はそれでいきましょう」


「はい、雅様」


「次はラジオの番組編成を……」


 ミシェルと親衛隊が護衛として、付き従っているのは変わらないが、それとは別にキャリアウーマン達がいた。


 カメラマン、ラジオのディレクター、新聞の編集長などのスタッフ達である。


 番組と紙面作りの担当者が乗っており、船は多くの関係者で貸し切り状態である。


 彼女らは取材旅行に同行し、雅と打ち合わせして報道内容を決めていた。


 マスコミは王女の雅が牛耳ってると言っていい。フローラ達もたまに協力している。


 ……ただ、フェイクニュースは止めろ!

 


「キュー、キュー!」


「ワン、ワン!」


 鳴き声が聞こえてきた。リーフとドリスの犬達も、一緒に旅をしている。


 長い旅に出ると告げると、勝手についてきたのだ。俺達と離れるのは嫌らしい。


 たぶん寂しいのだろう。


 ただドワーフがいる鉱山に行くときは、湖から離れるので少しは我慢してもらう。


「そーれ!」


 ペット用のお菓子を投げてやると、見事にフライングキャッチして食べる。


 これも運動だ。食わせる物がなくなると……


 ガブガブ!


「いてえ――――! だから俺を噛むんじゃねー!」


「キュキュキュッ!」


 リーフはこれを見て、笑っているようだった。


 ヨーゼフとパトラッシュからすれば、甘噛みしてじゃれてるつもりなんだろうが、大型犬にやられたら痛いわ!


 旅の間は騒がしく、心安まる日がない。平穏だった日々が遠く感じる。



 やがてアルザスの港が見えてくる。ここも最初に来た時とは、比べものにならないくらい変化していた。


 木の桟橋は少なくなり石の岸壁が作られて、船が停泊できる場所が増えていた。


「ひー、ひー!」


 精霊さんの声が聞こえてくる。


 見れば曳船(タグボート)の代わりに船を押したり、回頭させたりしている。


 これはかなり便利だ。おかげで港への船の出入りは、かなりスムーズである。


 重労働で大変ですが頑張って下さい、精霊さん! 応援しかできんけど。


 あと、離れたドックではコンテナ船の建造も始まっていた。


 溶接の火花が散り、遠くからでも見える。


「あれができたら、テミス湖からのフルーツ輸送がはかどるわね」


「どんだけ食う気なんだー!」


「お酒も作るわよん。早く飲みたいわん!」


 これは奥様達だけでなく、ヘスペリスの女性全ての要望と言っていい。


 男達は逆らえるわけもなく、粛々(しゅくしゅく)と働くしかなかった……。

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