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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
最終章 ヘスペリス合戦

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戦闘態勢に入りたい

「エリックさん!」


「おお、海彦殿。族長達は自分の部族のとこへ行った。戦闘部隊の編成じゃ、アルザス騎士団はアンドレに任せてある」


「行動が早いすね。みんな流石だ」


「いやいや、前もって海彦殿が考えてくれた、軍事教本(マニュアル)があってこそだ。昔だったら適当に集まるだけで、組織的に動くなど出来なかっただろう。行動指針があるお陰で迷わずにすむ。感謝しとるぞ」


「いえいえ、みんなが団体行動訓練と模擬演習をやってくれてるからですよ。真面目にね」


 過分に褒められると照れくさい。


 いつも通り元ネタは百科事典なので、俺は軍事教本を伝えたのにすぎないのだ。


 ただ、あくまで基本。魔物は頭も良く強いので、教科書通りの戦い方では勝てない。

 モブとは違うのだよ、モブとは。


 なので、亜人の特性を生かした作戦を考えてある。

 


『こちら弐号機。魔物軍団なおも南下中、会敵するのは夕方頃』


『こちら参号機。偵察写真を現像するのに、一旦下に降りる』


「本部了解。注意して偵察を続けてください」


 無線のおかげで敵の情報はリアルタイムで入ってくる。


 俺達はテーブルに作戦図と駒を置いて、侵攻状況を確認する。


「アルテミス湖の北東にある平地からと、川から攻めてくるようじゃのう」


「ええ、エリックさん。これだと二正面作戦になりますね。あとは敵の数を知りたいとこですが……」


 ちょうどそこに、斥候からの連絡が入る。 


『王に伝令! 索敵したところ、魔物の数およそ1200!』


「……かなり多いのう。ご苦労じゃったハンス、無理はせず部隊を引き上げるとよい」


『おおせのままに!』


「族長達にも伝えましょう。船での戦いは例の作戦でいくとして、地上はオーク・ドワーフ・アルザス騎士団で迎え打ちましょう。ただ、最初は陣地にこもります」


「防御戦じゃな。前線陣地はできとるから、いよいよ本番じゃ」


「あとは昼飯を食っておきましょう。腹が減っては戦に勝てぬ、です」


「うむ」


 戦闘準備は着々と進む。部隊編成が完了したとこで、飯を食って休むように言った。


 まだ魔物軍団が来るまでには時間はある。


 俺とエリックさんは、前線に近い城塞へと本陣を移動させることにする。


 まだ完成はしておらず防備は不十分な高台だが、湖と陸地の両方を眺めることができるので、戦況を見るにはうってつけの場所だ。


 ここまで攻め込まれるようなら戦は負け。もっともそうはさせない、絶対に食い止める!


 族長達も集まってきて、作戦の打ち合わせをすることにした。


 偵察写真も届いて、敵の姿形も分かる。



「また、見たこともない魔物じゃのう」


「うむ」


「武装したゴブリンが主力のようで、他に犬頭人(コボルト)蜥蜴男(リザードマン)がいますね。かなり強いかも……」


「だとしても戦うだけじゃ。なーに、海彦殿の作戦があるから負けはせんよ」


「そうじゃ、味方の方が数は多いし、儂らも鍛えてきたからのう」


「魔物は叩き潰すでござる!」


「上手くいくと、いいですが……」


 知恵を絞って作戦を考えては見たものの不安はある。戦は何が起きるかわからないからだ。


 あとは女神様に祈るだけである。


 作戦の詳細を詰めたあと、族長達は自分の部族のとこへ戻った。


 そして隊長らに作戦を伝え、戦士達も理解した。戦意は高まる。


「やってやる! 殺ってやるぞー! 新型の魔物がなんだ――――!」


 その頃、魔物軍団の動きが一時止まっていた……。

 


「炊煙が上がってやがる。人狼の時と同じだ、やっぱりバカじゃないな」


「ええ、腹ごなししてから攻めてくる気でしょうね」


 俺達は城塞上の胸壁きょうへきから、敵の様子を見ていた。


 フローラとハイドラは本陣の守り。女達で前線に出るのは、アマラとシレーヌだけである。


 今回は敵の数が多く、危険だから止めたんだけどね。


「アマラは戦うのだ! 魔物は殺す!」


「うんうん! 皆殺しデス!」


 このコンビなら、そう簡単にはやられないとは思うが心配だ。


 俺は暴走しないように、注意だけしとく。


「アマラ、危なくなったら直ぐに下がれよ。戦いはまだ続くからな、今日で終わりじゃない」


「わかったのだ」


 そして二人は船で待機してる。武装船団とボート部隊は湖に出て、敵が来るのを待ち構えていた。


 水上で戦うのはエルフ・ダークエルフ・獣人達で、人魚達は水中からのサポートだ。


 ドワーフは泳げないので、オークと一緒に陸戦をやってもらう。


 ホビットは治療などの後方支援。兎族は伝令と負傷者を運ぶ、衛生兵をやってくれることになった。


 意外と力もあり、人を担いで走っても早い。やはり亜人は強い。


 もっと数がいれば、魔物にやられることはなかっただろう。武器も持ってなかったしね。


 ただ、今回はお返ししてやれる。ヘスペリス連合軍の兵力は、ざっと3000!


 戦力差は敵の倍以上だ。さあ来るなら、来やがれ!

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