海で遊びたい
「保存用に欲しい!」
「……これは予想外でしたわ」
雅はそんなに新聞が売れるとは思っていなかったので、赤字分は自腹を切るつもりでいたが、売り切れてしまった。
むしろ販売部数が足りなくて、アルザスと各村から電話注文が殺到する。
王国は村より人口が多いから、欲しがる人も多かった。
そこで記事内容はそのままに、使わなかった写真を新たに製版して、重版することになった。
こうして、新聞の定期発行がされるようになる。毎日ではなく旬刊紙。
「新聞に載りてー!」「記事が書きたい!」
ラジオに出ると同じように、みんな目立ちたかった。
活躍したスポーツ選手のように、顔写真が載れば嬉しいし有名になれる。
記事の種類も増えていき、族長インタビューには笑った。
「娘が全然相手をしてくれない……」とロビンさんとアランさん。
「カカアが、毎日やかましい!」とチャールズさん。
「忙しくて、目が回るでござるー!」とアタワルパさん。
「うむ」はオグマさん。
……ほとんど愚痴しか書かれてなかった。
あとはラジオの番組表に、商品宣伝、クロスワードなど日本でもお決まりのもので、俺も現代知識の原稿を書いた。
ただネタがなくなってくると、タブロイド紙のようになってしまう……。
『ついに勇者、結婚…………か!?』
「スポーツ新聞の見出しは、やめろー! 東○○かー!?」
俺は雅のところに怒鳴りこんで文句を言うが……笑って誤魔化された。
それから月日は経ち、冬の終わりは近いが春はまだ遠し。
女神の湖の氷は溶け出し、水路が使えるようになったので、俺はフローラ達とテミス湖へ遊びに行くことにする。
ロリエに占ってもらったが、しばらく魔物が攻めてくることはないようだ。
なので今のうちに、英気を養っておく。
「はーい! いらはい、いらはい。焼きそば美味しいよー!」
「トロピカルジュースはこちらー!」
「…………」
海に着いた途端、俺は絶句する。
海の家が建ち並び、のぼり旗がそこら中に立てられて、潮風ではためいていた。
いやー、人がいるわいるわ。とても数え切れない。
一番最初に来た時には浜辺しかなかったのに、一年経たずに海はビーチリゾートになっていた。
出店も多く、この光景の変わりようには驚く。人の活動力は止まることを知らない。
「よっこいしょ、と」
フローラ達がクルーザーから、荷下ろしをしていた。
遊ぶだけでなく、商売もするらしい。しっかりしてやがる。
「もう、私一人で作ってるわけじゃないからね。商品の委託販売よ。設備費や材料費だって結構かかるし」
「仕事の分業が進んでるなー」
ヘスペリスで専門職につく人が増えていた。貨幣経済が回ってる証拠である。
みんなに物が行き届くようになれば、豊かになれるだろう。
「ところで手伝わなくていいのか?」
「え、ええ。海彦は遊んでて」
力仕事はリンダがいるので問題ないが、運んできた商品を見せてもらえなかった。
フローラが目線をそらしてるので、どうも怪しい。
気にしても仕方ないので、俺は釣り竿とクーラーを持ち出して出かける。
慌てずにゆっくり景色を見ながらの散歩。
海を見れば遠くには漁船の姿があり、近くではたくさんの人が泳いでる。
またセイルボードを使って、ウィンドサーフィンをしてるサーファーもいて、道具はどんどん進歩していた。
「完全に観光地だな。ただ……彦海って言うなー!」
地名だけは納得していない。そこに大きな声が聞こえてくる。
「いらっしゃいませ、いらっしゃいませですー!」
「美味い魚や干物が一杯あるのだー!」
鮮魚店をやっていたのは、アマラとシレーヌのコンビだ。
大きな葉っぱに魚介類が並べられていて、客がドンドン買っていく。
客足が落ち着いたところで、俺は声をかけた。
「繁盛してるようだな、アマラ」
「うん、おかげさまなのだ。商売は面白いのだ!」
「海彦さん、毎日楽しいです! でも……私が食べる分が、いっつも残らない」
「あははははは!」
店の近くにはバーベキューコーナーがあり、そこで自由に煮焼きができる。
買われた魚はすぐに網焼きされて、香ばしい匂いをそこら中にまき散らす。
ウナギの蒲焼きと同じで、いい匂いを嗅いだら食いたくなって当然。
大口を開け頬張ってる人をみて、我慢できるわけもない。
腹が減っていたらなおさら、俺もおもわず魚を買ってしまった。
焼きに行くと、シレーヌの母親であるテレサさんがいたので声をかけた。




