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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第六章 湖めぐり旅4
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番外編5 大宴会

「どりゃあああああー!」


「ぐおっ!」


「…………」


 スパイクでの、人のぶっ飛ばし合いが繰り返される。恐いなんてもんじゃない。


 観客席の男連中はしんとなり、女達は大声で野次を飛ばしていた。


「おらあ、いてこませー!」


「地面をなめさせろー!」


 血の気の多さにドン引きする。一セット目が終わった時点で怪我人が多数。


 休憩中(インターバル)治療師ヒーラーが駆け回っている。ホビットのロリエ嬢の姿も見えた。

 これはスポーツじゃない、格闘バレーだ! どうしてこうなった?



 二セット目が始まると……


「母ちゃん、がんバレー!」


「なにっ!?」


 いつのまにか、隣にいた女房の姿はなく、コートに立っていた。


 選手じゃなかったはずだが……。


 どうやら負傷退場が多すぎて、助っ人として何人か呼ばれたらしい。


 子供らは大声援をおくっている。これに母親達は闘志を燃やす。


 息子の前で無様はさらせない。


 試合……死闘は続いて三セット目に決着はついた。


 勝ったのは……いや、立っていたのは女房一人。


 敵味方が倒れ伏してる中、人差し指を高くかかげてニヤリと笑う。


 そのあと、直ぐに倒れてしまったが。


 担架で運ばれていく母達に、女子供は盛大な拍手を送る。


 男達の拍手はまばら、なんか間違ってるような気がしてならない……。

 


 女房達はしばらくすると復活した。もともとタフだし、治療態勢も万全なので心配はない。


 息子は母親の活躍を喜んでいた。


 俺達が宿舎に戻る頃、日は落ちた。明日の午前中には村に帰る。


 あっと言う間に旅行は終わりだ。今日の晩さんは一杯食って、酒を飲むぞー!


 出張料理サービスを頼んでいたので、アルザスの料理人が数名やってきてくれた。


 大量の食材と酒を持参してきており、俺達は運ぶのを手伝う。


「美味い!」


 持ってきた仕込み料理に、目の前で焼くステーキ。


 口に入れた瞬間に、おいしさが脳天をかけぬける。いつも食べてる物とは全然違う。


 初めてワインやウィスキーを飲んでみて、これもハマる。くうぅぅ、きくうぅぅぅぅ!


 来てくれた料理人を褒めて礼を言うと、意外なことを言われた。


「レシピも調理法も全て勇者が教えてくれたものだし、料理の手ほどきは受けたが、海彦殿にはまだまだ及ばん」


「そうなのか?」


「本人は『俺は日本じゃ見習い』と言っているが、包丁さばきから、煮焼きにスシの握り、誰の目から見ても超一流だ。あれこそ、向こうの言葉で『天才』というのだろう」


「分かる。俺も勇者の寿司を食ったからな、あれは絶品だ!」


 今や海彦の手作り料理は、大金を出しても食えないらしい。


 専業の料理人になる気はないらしく、気が向いた時に作って、仲間うちだけに料理を振る舞ってるようだ。


 今はアルテミス湖の防衛計画に全力を注いでいるので、そっちの方が重要なのだろう。


 

 料理人達が帰ったあとも、俺達は酒盛りを続けた。宴会は盛り上がって夜遅くまで続く。


 女房と子供らは、とっくに二階の部屋で休んでいた。


 いつ寝たのか覚えておらず、いつのまにか朝になっていた……。


「……頭いてえー」


「うぐぐぐ……」


 俺達は頭を押さえ、割れるような痛みに苦しむ。酒を飲み過ぎたので、完全に二日酔いだ。


 記憶も飛んであやふや、体も思うように動かない。


 周りを見渡すと、酔い薬を飲んでる仲間がいたので、俺も飲むと少しは楽になった。


 そう言えば昨晩、女房達がクスリを買っていたような……


「あっ、金がない!」


「俺も!」


 俺達が一斉に騒ぎ出すと、女房連中が外から帰ってくるのが見えた。


 子供らを連れて、写真の受け取りに行ってきたのだろう。


 それと玩具おもちゃを、買ってやったらしい。


 男の子はボール、女の子は人形だ。人形は良くできており、子供らは喜んでいる。


 女房は俺の前にきて、巾着袋を返してくる。金貨を入れておいたはずだが……軽い。


「…………ない」


 開いて見れば、中は空っぽ。いくら振ってもカスすらでなかった。


 俺達は呆然としながら、船のある桟橋へと歩いて行く……。

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