番外編1 大収穫祭
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俺の名はニナン。獣人族一の戦士、次の族長……のはずだった。
狩りをすれば村一番で、どんな獲物だろうが仕留めてみせる。それが俺の自慢だった。
ところが……
「歯が立たない!」
神怪魚がニュクス湖に現れると、いいように蹴散らされ俺は自信を失う。
仲間達と人魚と力を合わせて戦うも、フタバサウルスに傷一つ与えられなかった。
気分はどん底に沈む。
そこに、村から出て行ったアマラ嬢が、勇者を連れて帰ってきた。
それからは、もう驚きっぱなしになる。
くるーざーという機械の船、鉄の道具、ボウ銃にぶらとパンティ……。
俺達は文明の力を初めて知った。
勇者海彦は、「俺は子供の亜人にも負ける」と力のなさを嘆いていたが、「知識と知恵」は誰も及ぶものではなかった。
二匹目が現れて苦戦はしたものの、勇者の作戦と皆の力で神怪魚に勝利する。
嬉しかった。俺は海彦の凄さを知り、族長の座はあきらめる。人望で勝てないからだ。
ただ、当人は上に立つ気はないらしく、族長の娘達は婿にしようと頑張ってるようだ。
それから、テミス湖に行き海の広さには感動した。さーふぃんも楽しかった。
こうして俺達の生活は一変し、狩猟生活は終わりを告げる。
船の行き来が盛んになり、各村から人と物が毎日やってくるようになった。
ニュクス湖で取れる物を、衣類・野菜などと交換する。
獲物がとれなくて飢えることも、着る物に困ることもない。ありがたいことだ。
また畑や田んぼを作り、作物の栽培が始まる。海彦が教えてくれたおかげで、順調に育っている。収穫が楽しみだ。
しばらくすると獣人村から、アルザス王国に勉強に行った者達が帰ってきた。
話を聞いてみると、
「アッチの生活に慣れると、村に帰りたくなくなる……」
「そんなもんか?」
俺は意味が分からない。村の生活水準は上がっているので、昔よりはるかに楽なのだ。
街には、それ以上の何かがあるのか? ……この時の俺は理解できなかった。
『明日から、ヘスペリス大収穫祭が始まります。期間は10日、場所はアルテミス湖。皆様ふるって御参加ください』
ああ、ラヂオは聞いてて楽しい。箱が語りかけてくるので、面白くてしかたない。
放送局は一つだったが、今は三つに増えて、部族ごとに聴衆率を争っている。
いずれはニュクス湖にも欲しいとこだ。
さて収穫祭に行く準備をせねば……ただ俺には不安があった。
「こんな物が売れるのか?」
どう見ても綺麗な石ころでしかない。族長に言われるまま採ってきただけだ。
価値があるとは思えなかったのだ。何の役に立つ?
「大丈夫なのだ。それよりも、金の使い方に気をつけるのだー!」
アマラ嬢は、俺達にくどいくらい注意してくる……これも正直、意味がわからない。
誰もが首をかしげている。そう、俺達は無知だった……。
次の日の朝、俺達は第一陣として収穫祭に参加する。
村の生活があるので、3日間交代で参加することになったのだ。
家族ずれでの旅行で、女房と息子はウキウキしてるようだった。
この時は俺もドキドキしていた……今はショックを受けている。
ありのままに起こったことを言おう。
石を売った俺は、たくさんの金貨を手にしたはずなのに、なぜか無くなっている。
……一枚も残っていない。
何を言ってるか分からねーと思うが、何が起きたかは今から話そう。
初日。
アルテミス湖についた俺達は、獣人族用に設けられた売り場で、商売を始める。
――開始と同時に即完売。ほとんどドワーフ連中に買われてしまった。
入れ物の竹かごまで、売れるとは思わなかった。
俺の手元には金貨が十二枚、二十枚も手にした奴もいる。
買い取り価格が予定より高いので、逆に不安になる。そこで俺はドワーフと話をしてみた。
「この石は何に使うんだ?」
「蛍石はフッ素がたくさん含まれていて、テフロンの材料になる。製造中は猛毒がでて危険だが、精霊にやらせれば問題ない。使い道は色々あるが、今はビニール作りだな」
ドワーフは半透明の布のような物を見せてくれた。
軽く引っ張ったくらいでは破けず、太陽の熱にも強いそうだ。凄い!
これで、びにるはうすとやらを作り、南国フルーツを各村で栽培するそうだ。
しかし、テミス湖で採れるのに何でわざわざ……あーそうか、女達が食いすぎて足りないんだ。
これは「奥様同盟」とやらの意向だろう。これに族長達は絶対に逆らえない。
俺も女房の言いなりだから、何も言えなかった。
「あと水晶は発振子になる。電子部品の一種で、新型ラジオにも使う予定だ。無理に覚えることもないだろ」
「そうか。しかし、こんなに金貨をもらっていいのか? 損してないか?」
「気にするな、金は天下の回り物。勇者殿の言葉だったな、それにどうせ……おっと余計なことは言うべきじゃないな。じゃーな」
そう言ってドワーフ達は去っていく。最後の言葉が思い切り気になった。
とりあえず石が売れたので、良しとしよう。俺は気持ちを切り替える。
「よし、まずは昼飯にするか」
「うん!」
俺は女房と息子を連れて、ふーどこーとに向かった。
別人視点からのお話になります。ヒロイン達は出てきます。