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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第六章 湖めぐり旅4
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番外編1 大収穫祭

 ◇◆◇◆


 俺の名はニナン。獣人族一の戦士、次の族長……のはずだった。


 狩りをすれば村一番で、どんな獲物だろうが仕留めてみせる。それが俺の自慢だった。


 ところが……


「歯が立たない!」


 神怪魚ダゴンがニュクス湖に現れると、いいように蹴散らされ俺は自信を失う。


 仲間達と人魚と力を合わせて戦うも、フタバサウルスに傷一つ与えられなかった。


 気分はどん底に沈む。


 そこに、村から出て行ったアマラ嬢が、勇者を連れて帰ってきた。


 それからは、もう驚きっぱなしになる。


 くるーざーという機械の船、鉄の道具、ボウ銃にぶらとパンティ……。


 俺達は文明の力を初めて知った。


 勇者海彦は、「俺は子供の亜人にも負ける」と力のなさをなげいていたが、「知識と知恵」は誰も及ぶものではなかった。


 二匹目が現れて苦戦はしたものの、勇者の作戦と皆の力で神怪魚に勝利する。


 嬉しかった。俺は海彦の凄さを知り、族長の座はあきらめる。人望で勝てないからだ。


 ただ、当人は上に立つ気はないらしく、族長の娘達は婿にしようと頑張ってるようだ。


 それから、テミス湖に行き海の広さには感動した。さーふぃんも楽しかった。


 こうして俺達の生活は一変し、狩猟生活は終わりを告げる。



 船の行き来が盛んになり、各村から人と物が毎日やってくるようになった。


 ニュクス湖で取れる物を、衣類・野菜などと交換する。


 獲物がとれなくて飢えることも、着る物に困ることもない。ありがたいことだ。


 また畑や田んぼを作り、作物の栽培が始まる。海彦が教えてくれたおかげで、順調に育っている。収穫が楽しみだ。


 しばらくすると獣人村から、アルザス王国に勉強に行った者達が帰ってきた。


 話を聞いてみると、


「アッチの生活に慣れると、村に帰りたくなくなる……」


「そんなもんか?」


 俺は意味が分からない。村の生活水準は上がっているので、昔よりはるかに楽なのだ。


 街には、それ以上の何かがあるのか? ……この時の俺は理解できなかった。



『明日から、ヘスペリス大収穫祭が始まります。期間は10日、場所はアルテミス湖。皆様ふるって御参加ください』


 ああ、ラヂオは聞いてて楽しい。箱が語りかけてくるので、面白くてしかたない。


 放送局は一つだったが、今は三つに増えて、部族ごとに聴衆率を争っている。


 いずれはニュクス湖にも欲しいとこだ。


 さて収穫祭に行く準備をせねば……ただ俺には不安があった。


「こんな物が売れるのか?」


 どう見ても綺麗な石ころでしかない。族長に言われるまま採ってきただけだ。


 価値があるとは思えなかったのだ。何の役に立つ?


「大丈夫なのだ。それよりも、金の使い方に気をつけるのだー!」


 アマラ嬢は、俺達にくどいくらい注意してくる……これも正直、意味がわからない。


 誰もが首をかしげている。そう、俺達は無知だった……。


 次の日の朝、俺達は第一陣として収穫祭に参加する。


 村の生活があるので、3日間交代で参加することになったのだ。


 家族ずれでの旅行で、女房と息子はウキウキしてるようだった。


 この時は俺もドキドキしていた……今はショックを受けている。



 ありのままに起こったことを言おう。


 石を売った俺は、たくさんの金貨を手にしたはずなのに、なぜか無くなっている。


 ……一枚も残っていない。


 何を言ってるか分からねーと思うが、何が起きたかは今から話そう。



 初日。


 アルテミス湖についた俺達は、獣人族用に設けられた売り場(ブース)で、商売を始める。


 ――開始と同時に即完売。ほとんどドワーフ連中に買われてしまった。


 入れ物の竹かごまで、売れるとは思わなかった。


 俺の手元には金貨が十二枚、二十枚も手にした奴もいる。


 買い取り価格が予定より高いので、逆に不安になる。そこで俺はドワーフと話をしてみた。


「この石は何に使うんだ?」


蛍石ほたるいしはフッ素がたくさん含まれていて、テフロンの材料になる。製造中は猛毒がでて危険だが、精霊にやらせれば問題ない。使い道は色々あるが、今はビニール作りだな」


 ドワーフは半透明の布のような物を見せてくれた。


 軽く引っ張ったくらいでは破けず、太陽の熱にも強いそうだ。凄い!


 これで、びにるはうすとやらを作り、南国フルーツを各村で栽培するそうだ。


 しかし、テミス湖で採れるのに何でわざわざ……あーそうか、女達が食いすぎて足りないんだ。


 これは「奥様同盟」とやらの意向だろう。これに族長達は絶対に逆らえない。


 俺も女房の言いなりだから、何も言えなかった。


「あと水晶は発振子になる。電子部品の一種で、新型ラジオにも使う予定だ。無理に覚えることもないだろ」


「そうか。しかし、こんなに金貨をもらっていいのか? 損してないか?」


「気にするな、金は天下の回り物。勇者殿の言葉だったな、それにどうせ……おっと余計なことは言うべきじゃないな。じゃーな」


 そう言ってドワーフ達は去っていく。最後の言葉が思い切り気になった。


 とりあえず石が売れたので、良しとしよう。俺は気持ちを切り替える。


「よし、まずは昼飯にするか」


「うん!」


 俺は女房と息子を連れて、ふーどこーとに向かった。

別人視点からのお話になります。ヒロイン達は出てきます。

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