ゴブリンから助けたい
「くらいな!」
桟橋近くまで戻ってくると、船に残っていた仲間達が援護射撃をしてくれた。
俺達の後方に矢が飛んでいく。
「ギャー!」
ボウ銃の矢は見事に命中、ゴブリンは悲鳴を上げた。
鎧を軽く貫かれて驚いてもいる。
ボウ銃の威力にビビり、追いかける足の動きが止まった。
この隙に俺達はクルーザーに急いで乗り込む。
「出してくれ!」
「はい、お兄ちゃん!」
「飛ばすよ!」
プリプリ号が先に出発し、クルーザーはエンジン全開で後に続く。
舵はロリエが握ってくれていた。
陸地から離れていくと矢は届かなくなり、ゴブリンどもはわめいていた。
「アギャ、アギャ! アンギャー!」
俺達を取り逃がして悔しいのだろうが、戻ってやるつもりはない。
あっかんべー!
鎧をつけてるので泳いでは追ってこれまい。クルーザーについてこれるわけもない。
これでようやく一息つける。
「ふー……危なかった。みんなサンキュー。かなりの数がいたぞ、ありゃーヤバい!」
「まるで軍隊のようだったわね。一糸乱れずにコッチを攻撃してきたわ」
「何も出来なくて、悔しいのだ!」
村で殺された者の仇を討ちたかったアマラは悔しがっているが、ゴブリンから逃げられただけでも、めっけもの。
女達がいくら強くても、あの大人数で囲まれたら勝てない。
俺はアマラを慰める。
「なーに、アタワルパさんと族長達、そしてエリックさんと王国騎士団を呼んでくれば、ゴブリンどもは倒せるだろう。ここで退くのは恥じゃない」
「うんうん」
「そうですわね、海彦様。このまま東の水路を使って、すぐにアルザス王国に戻りましょう。すぐに父にお願いします」
「ああ、そうしよう」
雅の顔は険しい。普段は笑顔を絶やさないので、よほど腹に据えかねたようだ。
静かに怒りを燃やしているようで、アルザス騎士団全軍を差し向け、ゴブリンを根絶やしにせねば収まるまい。
襲われた村のことを詳しく話すと、全員が憤った。みんな気持ちは同じである。
ゴブリンを罵り報復を誓う中、フローラが最初に気づく。
「あっ! 海彦あれ!」
「ちいぃ! そう簡単には行かせてもらえないようだな!」
遠くの方に数艘の小舟が見えた。
ゴブリンは乗っているが、さっきの奴らとは別の集団のようだ。
これでは何匹いるかわかったもんじゃない。
ゴブリンはオールを漕いで小舟を進ませていて、そこそこ早い。
俺達に向かって……こない。なんで!?
「ん? あれは帆掛け船? あれを追っているのか?」
「助けましょう海彦!」
「ああ!」
霧を抜けて湖の北側から現れたのは、一艘の帆掛け船で、ゴブリンの小舟に追いかけられていた。
俺達からは少し離れた場所にいるので、双眼鏡で見て見ると……。
帆掛け船の状態はひどいものだった。アマラが筏で、アルザスに来た時と変わらない。
船体は木ではなく葦を束ねて作られてるが、すでにボロボロ。
張ってある帆も、わらで作られた筵で、形が悪く大きさもない。
沈まないで進んでいるのが不思議なくらいだ。
乗っているのは三人。
一人が風精霊で帆に風を送っているようだ。
一人はしゃがみ込み、顔を伏せたまま震えている。
残る一人は鎧を着た騎士で、見ていて凄かった。
「どりゃあああああああー!」
奇声を上げながらゴブリンが放つ矢を、次々と剣で切り落としていた。
剣閃の光が乱舞してまぶしい。
二刀流。
不安定なボロ船で、剣を両手で振り回しているのだから凄い達人だ。
とはいえ防戦一方では苦しい。いずれ力つきるだろう。
帆掛け船は遅く、ゴブリンの小舟の方が速い。もうすぐ追いつかれそうだった。
俺はクルーザーを急がせる。間に合えー!