祈りをささげたい
「俺とフローラとアマラと……」
「私も行きます、海彦様」
「……わかった雅さん。そうすると、あとはミシェルだな。悪いが他のみんなは、船を見張っててくれ。そんなに遠くにはいかない」
「わかったわん」
この先に何があるか分からないし、どこで襲われるかも分からないので、守りの魔法が使える二人がいれば安心だ。
アマラとミシェルも護衛として頼りになる。まず負けることはないだろう。
俺としては異界人の手がかりを、少しでも見つけたいところだ。
話せる亜人が一人でもいれば良いが……。
俺達五人はゆっくりと歩きだす。
ときどき立ち止まって双眼鏡をのぞいてみるが、
「……なーんにも見えん。みんな、はぐれないでくれよ」
「はい、海彦様」
「近くは霧だらけだからね」
とにかく視界が悪すぎる。遠くの景色は全く見えない。
結界に踏み込まないように、俺達は慎重に進むしかなかった。
下手に入り込めば戻ってこられなくなるので、恐ろしい……これはオカルトだな。
「ワン、ワン!」
そんな中、先導してくれてるのは犬のヨーゼフとパトラッシュ。
ドリスが命令したわけではなく、犬二匹は勝手についてきた。おかげで助かっている。
鋭い嗅覚は探索の役に立つし、かなり強いのでボディガードとしても頼りになるから、追い返したりはしない。
ただ……俺を噛むなよ、噛むなよ! ぜっーたい噛むなよ!!
受け狙いのお笑い芸人ではないので、マジで言い含める。
犬達の後をついて行くと、村……だった跡地に着く。
惨状を見た俺達は顔をしかめる。
「これはひどいな……」
「襲われたのは最近のようね」
「……悲しいです」
焼き討ちと虐殺……。
黒く焼け焦げた家がたくさんあり、炭になった柱が何本か残されていた。
朽ち果て崩れてはいないので、そう時間は経ってないようだ。
あと、残されていたのはいくつかの死骸。そして襲撃者が使った武器である。
「この短剣と矢は、ゴブリンがよく使うものだ」
「そうか、この村を襲ったのはゴブリンの群れか」
調べていたミシェルがうなずく。
ドワーフ村で戦ったからわかるが、ゴブリンの武器は貧弱でも、数で押してくるから苦戦するのだ。
それと多少の怪我をしても、ひるまずに向かってくるから厄介だ。
やはり魔物は手強い。
「弔ってやりたいとこだが、ココは危険過ぎる。もうクルーザーに戻ろう」
「はい海彦様。せめてお祈りだけさせてください」
「ああ……」
司祭の雅は手を合わせ、祈りの言葉を口にしていた。
フローラとミシェルは黙祷をささげている。
アマラは手を合わせ、怒りに震えているようだった。
犠牲者の中に子供がいたからである。これは許せるものではない!
家の軒数から計算すると、村民の大半は逃げたようで、それだけが救いである。
無事に逃げ切ってくれてれば良いが……。
本当なら穴を掘って埋葬してやりたいが、今は無理だ。
俺は心の中で謝りつつ、足早に村落をあとにする。
村を襲ったゴブリンが、戻ってくるかもしれないので急いでいた。
クルーザーが見えてくると――
「えっ!」
「やばい! 船に走れ!」
「はい!」
白い霧が動いた。近寄ってきたのではなく、海の時と同じくだんだん薄くなっていく。
またもや結界が破られたのか!?
これは良くない兆候で、いきなり周辺から鳴き声が聞こえてくる。
不快で聞きたくもない声だ。
「ギャギャ! ギャギャー!」
でやがったなゴブリンども!
しかもドワーフ村で見たのとは違い、鎧兜に身を固め、革靴も履いていた。
装備もよく弓矢を持っており、有無を言わさず俺達に向けて放ってくる!
「ナイアスの守り!」
すぐにフローラが盾精霊を召喚して矢を防ぐ。この間に俺達は一目散に逃げだした。
ここで戦う気はない。少し走ってチラリと振り返って見ると、
「何て数だ!」
あっと言う間に奴らは、百匹を超えていた。
ゾンビ映画よろしく、わらわら集まり俺達を追いかけてきている。
足もそこそこ速い。
俺はチビリそうになる。はっきり言って恐いですー!