嵐にそなえるしかない
もう、テミス湖についてから四日目だ。時間が経つのが、やけに早く感じる。
もっと食いたい、もっと遊びたいと思っていると、あっと言う間に時間が過ぎていた。
今までは適当な仕事をするか、神怪魚の相手を嫌々していたから、時間を気にすることはなかった。
今はみんなでバカンスを満喫してると言って良い。しかし、今日は仕事がメインになる。
「そーれと!」
俺はテミス湖の岬にきて、小型の係船柱を地面に打ち込み、ロープを引っかけてクルーザーが動かないように固定していた。
雅のプリプリ号も、親衛隊員達がロープと船をつないでいる。
昨日の晩、ロリエが占って言ったのだ。
「海彦お兄ちゃん、明日嵐がくるわ。そんなに強くはないけどね」
「分かった。起きたら準備しよう」
ここは南国なので台風ではなく、ハリケーンだろう。俺は緊張感に包まれる。
ロリエの占いは外れないから、厳戒態勢をとる必要があった。
船の固定が終わったら、バンガローやテントも補強しないとまずいな。
今居るキャンプ場は高い場所にあるので、波が押し寄せてくる心配はないが、問題は暴風なのである。
風の力は半端ではなく、雨と一緒にこられると軽く吹っ飛ばされてしまうのだ。
自然の力の前では、人も家屋も葉っぱと変わらず、防風林もどれだけ保つか分からない。
ところがフローラ達は気にもせず、波が高くなったのを喜んで、サーフィンで遊んでいた。
危機感がないので俺はイラつき、近寄って文句を言うが、
「おいおい、今から準備しないと間に合わないぞ! 夜には嵐はくる!」
「大丈夫よ海彦。そんなに気にしなくていいわ」
「海彦様ご心配なく、私達にお任せください」
雅は自信たっぷりだったので、何も言えなくなった。何か手があるのか?
俺はどうしても信じられなかったので、一人で補強するしかなかった。
やがて夕方になると、空は曇って強い風が吹き始める。
「……きたな」
海で遊んでいた全員が引き上げてくる。それも、ゆっくりとおしゃべりしながらだ。
のんびりとした行動に、俺は焦れてヤキモキさせられる。
ようやくバンガローに戻ってきてからフローラは言う。
「じゃー雅、やりますか」
「ええ、フローラ」
これに親衛隊の一人が加わって、バンガローの前で横に並ぶ。
「「「いでよ湖精霊、ナイアスの守り」」」
呪文の三重唱で、大勢の盾精霊が現れた。
軍隊のように整列を始め、陣形を組んでいく。
「これは偃月陣! これで暴風を防げるのか!?」
よく見るとΛの形をしており、これなら吹き付けてくる風と雨を受け流せる。
戦車の傾斜装甲のようなものである。
バンガローの反対側に精霊さんはいないが、正面からくる雨風さえしのげば問題ない。
「俺の苦労は一体……」
「だから言ったでしょ。じゃーお風呂に入ってくるわ」
「精霊にかなりの魔力を込めましたので、一晩は保ちますよ。海彦様」
ショックを受けてる俺を尻目に、女達はキャキャと露天風呂に向かった。
夕食時には風雨は強くなっているが、激しい外の音はすれどもバンガローは揺れもしない。
完全に精霊さんがガードしていた。嵐の中で頑張ってくれてるので、心の中でエールを送りたい。
そしてあとはゲームざんまい。
「ポン!」
「リーチよ!」
麻雀。
「勝負よ、ストレート!」
「ざーんねん、私の勝ちね。フルハウス!」
「くやしい――!」
ポーカー。みんなゲームに夢中である。
玩具を手で作るとなると時間がかかるが、彫り機や印刷機の発達により、娯楽品がたくさん作れるようになっていた。
もはや定番のオセロだけではなく、ヘスペリス独自のゲームも作られている。
そして俺はロリエ達と、ボードゲームで遊んでいた。その名は、
『転生ゲーム』
ルーレットを回し、駒を進める双六ゲームである。
某ゲームのパチもんじゃないよー!
内容を少し紹介しよう。まずは出た目でチートスキルをもらうのだが……
「がーん! 外れスキルじゃん。しかも転生先は貧乏家庭……現実と変わんねー」
「まあまあ、お兄ちゃん。成長コースで伸びることもあるからね。ちなみに私は最強スキルで、大貴族の子供に転生ね。エリートコースを進むわ」
止まるマスには様々なイベントがあり、戦闘はスキルとルーレットの目で決まる。
勝てば名声と金を得る。負ければ減らされる。終盤のラスボスコースは厳しい。
ゴールするまでに、名声ポイントと資産が多い者が勝ちである。
「目が悪すぎた……」
俺は途中リタイアでボロ負けした。人生もゲームもやはり運である。
「もう一回だ!」
こうして嵐の夜はふけていく。