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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第五章 湖めぐり旅3
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嵐にそなえるしかない

 もう、テミス湖についてから四日目だ。時間が経つのが、やけに早く感じる。


 もっと食いたい、もっと遊びたいと思っていると、あっと言う間に時間が過ぎていた。


 今までは適当な仕事をするか、神怪魚ダゴンの相手を嫌々していたから、時間を気にすることはなかった。


 今はみんなでバカンスを満喫してると言って良い。しかし、今日は仕事がメインになる。


「そーれと!」


 俺はテミス湖の岬にきて、小型の係船柱けいせんちゅうを地面に打ち込み、ロープを引っかけてクルーザーが動かないように固定していた。


 雅のプリプリ号も、親衛隊員達がロープと船をつないでいる。



 昨日の晩、ロリエが占って言ったのだ。


「海彦お兄ちゃん、明日嵐がくるわ。そんなに強くはないけどね」


「分かった。起きたら準備しよう」


 ここは南国なので台風ではなく、ハリケーンだろう。俺は緊張感に包まれる。


 ロリエの占いは外れないから、厳戒態勢をとる必要があった。


 船の固定が終わったら、バンガローやテントも補強しないとまずいな。


 今居るキャンプ場は高い場所にあるので、波が押し寄せてくる心配はないが、問題は暴風なのである。


 風の力は半端ではなく、雨と一緒にこられると軽く吹っ飛ばされてしまうのだ。


 自然の力の前では、人も家屋かおくも葉っぱと変わらず、防風林もどれだけ保つか分からない。


 ところがフローラ達は気にもせず、波が高くなったのを喜んで、サーフィンで遊んでいた。


 危機感がないので俺はイラつき、近寄って文句を言うが、


「おいおい、今から準備しないと間に合わないぞ! 夜には嵐はくる!」


「大丈夫よ海彦。そんなに気にしなくていいわ」


「海彦様ご心配なく、私達にお任せください」


 雅は自信たっぷりだったので、何も言えなくなった。何か手があるのか?


 俺はどうしても信じられなかったので、一人で補強するしかなかった。


 やがて夕方になると、空は曇って強い風が吹き始める。



「……きたな」


 海で遊んでいた全員が引き上げてくる。それも、ゆっくりとおしゃべりしながらだ。


 のんびりとした行動に、俺はれてヤキモキさせられる。


 ようやくバンガローに戻ってきてからフローラは言う。


「じゃー雅、やりますか」


「ええ、フローラ」


 これに親衛隊の一人が加わって、バンガローの前で横に並ぶ。


「「「いでよ湖精霊ニンフ、ナイアスの守り」」」


 呪文の三重唱で、大勢の盾精霊が現れた。


 軍隊のように整列を始め、陣形を組んでいく。


「これは偃月えんげつ陣! これで暴風を防げるのか!?」


 よく見るとΛの形をしており、これなら吹き付けてくる風と雨を受け流せる。


 戦車の傾斜装甲けいしゃそうこうのようなものである。


 バンガローの反対側に精霊さんはいないが、正面からくる雨風さえしのげば問題ない。


「俺の苦労は一体……」


「だから言ったでしょ。じゃーお風呂に入ってくるわ」


「精霊にかなりの魔力を込めましたので、一晩は保ちますよ。海彦様」


 ショックを受けてる俺を尻目に、女達はキャキャと露天風呂に向かった。


 夕食時には風雨は強くなっているが、激しい外の音はすれどもバンガローは揺れもしない。


 完全に精霊さんがガードしていた。嵐の中で頑張ってくれてるので、心の中でエールを送りたい。


 そしてあとはゲームざんまい。


「ポン!」

「リーチよ!」


 麻雀。


「勝負よ、ストレート!」


「ざーんねん、私の勝ちね。フルハウス!」


「くやしい――!」


 ポーカー。みんなゲームに夢中である。



 玩具おもちゃを手で作るとなると時間がかかるが、彫り機や印刷機の発達により、娯楽品がたくさん作れるようになっていた。


 もはや定番のオセロだけではなく、ヘスペリス独自のゲームも作られている。


 そして俺はロリエ達と、ボードゲームで遊んでいた。その名は、


『転生ゲーム』


 ルーレットを回し、駒を進める双六すごろくゲームである。 


 某ゲームのパチもんじゃないよー!


 内容を少し紹介しよう。まずは出た目でチートスキルをもらうのだが……


「がーん! 外れスキルじゃん。しかも転生先は貧乏家庭……現実リアルと変わんねー」


「まあまあ、お兄ちゃん。成長コースで伸びることもあるからね。ちなみに私は最強スキルで、大貴族の子供に転生ね。エリートコースを進むわ」


 止まるマスには様々なイベントがあり、戦闘はスキルとルーレットの目で決まる。


 勝てば名声と金を得る。負ければ減らされる。終盤のラスボスコースは厳しい。


 ゴールするまでに、名声ポイントと資産が多い者が勝ちである。


「目が悪すぎた……」


 俺は途中リタイアでボロ負けした。人生もゲームもやはり運である。


「もう一回だ!」


 こうして嵐の夜はふけていく。

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