波にのりたい
「……考えてみると、クルーザーを海まで持っていった方が早いな。リンダがいるから船は動かせるし、他にも下ろす物がある」
「じゃー、蒸気エンジンを暖めるわ。いでよ炎精霊!」
「ハイドラには小舟で、砂浜までの往復を頼む」
「わかったわん。ところで、この長い板は何に使うのん?」
「それは波に乗って……いや見せた方が早いな」
俺はノートパソコンを立ち上げ、百科事典の動画を見せる。
「……へー、海に戻ったら遊んでみましょう」
「ふっふふふふ、俺の腕前をみせてやるぜ!」
俺は自信満々だった……この時までは。それは無惨に打ち砕かれることになる。
やがてクルーザーが動かせるようになり、俺は舵をとってテミス湖から海へと向かう。
顔に当たる潮風は心地よい。やっぱり海はいいな。
サーチライトソナーで深度を確認しながら、座礁しない所までクルーザーを進めてから、船を止め碇を下ろした。海に一時停泊する。
「テミス湖に戻るのは夕方にしよう。リンダ」
「あいさ。海は波と風があるから、船が流されることもあるわけだな? 海彦」
「ああ、満潮になるとガラリと様子が変わる。森もそうだが、海は生きているんだ」
「なるほどねん」
俺の言葉に二人は共感してくれたようだ。自然と暮らしているから分かるのだろう。
クルーザーの倉庫から物を引っ張りだすと、二人が運んでくれる。
砂浜ではフローラ達が引き上げるのを手伝ってくれたので、時間はかからずにすんだ。
「それで、『さーふぃん』とやらはどうやるの?」
「その前に、水着に着替えてくれ」
「わかったのだー!」
みんなの準備が整ったところで、俺は説明する。
「まずはサーフボードが流された場合にそなえて、リーシュコードを足首につける。いざとなったら、取ってきてくれシレーヌ」
「はいです! 人魚にとって海は気持ちがいいですー!」
「地球のおとぎ話じゃ海の中に住んでるから、それが正しいのかもしれん」
とっくにシレーヌは海で泳いで遊んでいたのだ。離岸流も何のそのである。
ヒレがあるので泳ぎは速いし、水中で呼吸ができるから、救助活動を頼んでおく。
俺以上のライフセイバーだ。
「じゃー波乗りを始めるか。まずは手本を見せる」
「ええ」
おれは海に駆けだし、サーフボードに飛び乗ってうつぶせになり、パドリングをする。
手でこいで前へ進むのだ。力がないと波に押し戻されるので、多少体力は使う。
あとは波のタイミングを計って立ち上がる。テイクオフ!
久々のサーフィンだったが上手くやれて良かった。いつもなら三回に一度は失敗している。
俺はバランスを取りながら、砂浜まで戻ってこれた。
「こんな感じだ。波がゆるいから問題はないが、あまり沖にはいくなよ」
「わかったわ」
言うなり女達は海に走り出す。やってみたくなったのだろう。しかし、
くっくくく、いくら亜人とは言えど、サーフィンは訓練をせねばまともには乗れまい……と思っていたのだが、
「……ああ、一発で決めやがった。やっぱり理屈が通用しない」
「あっははははは!」
リンダは高笑いし、フローラ達もボードに乗って笑っている。
スケートをした時と同じく、バランス感覚が優れていて運動神経がよすぎる。
しかも、これだけでは終わらない。
「これは面白いのだ!」
「そうだね、アマラちゃん!」
なんと、アマラとシレーヌは二人乗りをしていた。
ロングボードでもないのに、タンデムサーフィンをやっている。
プロのサーファーでもやれる人は少ないのに、余裕しゃくしゃくだ。
逆立ちアクロバットまでされたら、何も言い様がない。
さらに俺の精神にトドメを刺す光景が、目に入ってくる。
リーシュコードを咥えた犬のヨーゼフが、ボードを引っ張って海に入っていく。
「おいおい、まさか……」
俺の予想以上の展開が起きる。
ヨーゼフがボードに飛び乗ると、その背中にリーフが飛び乗ったのだ。
「キュ、キュ、キュー♪」
「ワンワ、ワンワ、ワーん♪」
「……歌ってるよ」
二匹のサーフィンを見ながら、俺は驚いて呆然となる。
「俺は犬にも負けるのか……しくしく。もうこうなったら!」
俺はバンガローに戻ってデジタルカメラを持ち出し、皆の様子を録画する。
「日本に帰ったら、動画サイトの『ようつべ』に投稿して、再生回数を稼いでやる!」
百万は堅いだろう。
夜にみんなでビデオ観賞すると、大いにうけた……主に俺の失敗シーン。