リーフを可愛がりたい
俺達は長くうねった水路を進んでいた。水の流れはゆるやかで、光を反射して水面が煌めいて、美しい。
辺りは鬱蒼とした密林のままで変化はなく、遠くの様子は分からなかった。
この先がどうなっているか見えないので多少不安ではあるが、水路は一本しかないので迷うことはない。
俺達は流れに沿って行くだけだ。
クルーザーが進むにつれ、大型獣の姿は見えなくなり、木々も段々少なくなっていく。
場所が変わりつつあるのだろう。テミス湖は近い。
「きゃははは、なのだ!」
「ほーら、リーフ!」
「キュー、キュー!」
クルーザーの甲板で、アマラとシレーヌがリーフと遊んでいた。
二人は本当に楽しそうに笑っている。
出会った頃は神怪魚のせいで心に余裕がなく、みんなと遊んだりはせずに、ひたすら戦う訓練をしていた。
フタバサウルスを倒すことしか頭になかったのだ。
ニュクス湖の危機が去り、ようやくゆとりがでたのだろう。
リーフの面倒は、みんなが代わる代わる見てくれた……俺が触れあえる時間がない、しくしく。
まあ、リーフがいるおかげで俺達は助けられているところもある。
二人乗員が増えたので、クルーザーは更にやかましくなり、女達の喧嘩は絶えなかった。
狭い船内で毎日顔を合わせているのでしょうがないと思うが、男の俺からすればしょーもないことで言い争うので、女はこらえ性がないように思えてしまう。
もっとも、大声を張り上げることでストレスを解消しているだろう。
側で聞かされる俺は、たまったものではないが……。
それと月に一度、大人しいロリエすらイライラする日が必ずある。
理由は分かっているし、日本で聞いたらセクハラなので、俺は近寄らずに距離を置くことにしていた。
そうした女達の怒りを、リーフが和らげてくれた。
可愛い姿を見れば母性本能を刺激され、愛でたくもなる。
ペットの癒し効果で、アニマルセラピーによってストレスが軽減されるのだ。
あの時、殺さずに飼う決断をして良かったと思う。
もうリーフは家族の一員と言っていい。
ちなみに、ドリスの犬もクルーザーに乗っている。ドワーフ村にいたのだが、ドリスがいなくなってから落ち込んだので、可哀想に思ったチャールズさんが連れてきたのだ。
ヨーゼフとパトラッシュは元気になるが、ドリスがリーフと遊んでいると非常に機嫌が悪い。
動物だって嫉妬するのだ。
見かねた俺が相手をしてやると……ガジガジ。いてーよ! だから噛むんじゃねー!
他にも単調な生活にならないように、俺達は雅や親衛隊と交流する。
交換留学生のように、乗員を交代させるのだ。
女同士なので話は弾み、もう女子会と言ってもいい。
お互いを理解するにはちょうど良くて、親睦も深まる。
俺もプリプリ号に泊まりいくが、男だからといって意識はされない。
……ただ、俺の目の前で服を着替えるのはやめて欲しい。
雅やミシェルは日本の話を聞きたがった。
俺にとっては日常の出来事でも、異国の話は聞いてて面白いのだろう。
「日本には娯楽品が一杯あるのですね? 海彦様」
「ああ、物がありすぎて売れなくなってますよ。まあそのおかげで、古い物なら安く手に入るしタダでもらえたりもしてます。ワゴンセールは狙い目だな」
「なるほどなー、物がたくさんあっても余るのか……処分が大変だな」
二人はしみじみ感じていた。
あと俺は二人に日本語を教えている。雅の記憶力は抜群で、一度覚えたことは忘れない。
天才ではなく、これは超記憶症候群だろう。
外国人には難しいとされる日本語も、雅は読めるようになっていた。
ノートパソコンも使いこなせるようになり、電子書籍を読みあさって記憶している。
パソコンは何台かあるので、一台を雅に貸していた。
「ヘスペリスには辞書がありませんので、こんど作ってみます」
「それはいいですね。みんなの役に立つと思います」
女神の恩恵があるうちは話せるが、女神の力が弱まってると聞いてるので、通訳がなくなる可能性もある。
非常時に備えて、標準語であるエルフ語を俺はフローラから習っていた。
そして、アマラとシレーヌも日本語を覚えるのだが……
「でか○ん、ぜつりん、まぐわい」
「きゃははははは!」
エロ語を話すなー!