責任を持って飼うしかない
「…………」
女達も辛そうな顔のまま、おし黙ったままになる。いつもみたく笑顔ではいられない。
亜人達も狩りはしても、子鹿までは獲ったりはしないと聞いている。
キューキュー鳴いてる神怪魚の子供を前にして、俺達は立ちすくんでしまう。
「ひょひょひょひょ! 大分困っておるようじゃのう、海彦」
「ちっ、婆! また嫌がらせにきたのか!?」
いつのまにか、曲がった杖をもった意地悪魔女が甲板に現れる。
俺は婆を見たとたんに機嫌が悪くなる。
もう脊髄反射してしまい、ムカつく心は抑えられない。
怒り顔の俺に、婆はなだめるように言った。
「そう邪険にするな、まあ話を聞くがよい。お前達、コイツを飼う気はあるかえ? 面倒を見る覚悟はあるかえ?」
「なに! 飼うだと!」
「どういうこと、お婆ちゃん!?」
いつもは控え目なロリエも驚いて、先祖に問いかける。
「このまま育てば、其奴は神怪魚になるじゃろう。それは将来、邪神に支配されるからじゃ。ならば今のうちに、そのつながりを断ってしまえばよい」
「そんなことができるのか?」
「うむ、ちょうど巫女がそろっておるし、他の者たちも魔力がある。力を合わせれば可能じゃ。まだ全員処女で良かったのう、ひょひょひょひょ!」
「……分かりました、お婆様。このまま殺すのは忍びないですから。みんなもいい?」
「ええ!」
「分かったのだ!」
俺達は同時にうなずく。
たとえ偽善と言われようが、あとで罪悪感に悩まされるよりはマシだった。
犬猫を責任を持って飼うつもりで覚悟を決める。
「ならば、コレを使うが良い」
婆は小さな光る石を、フローラに手渡す。
「これは?」
「女神の涙、聖宝石じゃ。これにお前達の魔力をありったけ込めるのじゃ」
「はいです!」
「アマラわかった!」
女達は円陣を組んで、フローラの手に手を重ねていく。
「いくわよ」
「ええ!」
フローラが合図して魔力の放出が始まり、聖宝石が輝きだすと、女達は苦しそうな表情に変わる。
「こ、これは、思ったよりきついわん!」
「くっ! 体中の魔力が吸い取られるようだわさ!」
「しんどいですー!」
「まだまだ、その程度でなくなったりはせんわ! もっと根性をいれんかい!」
婆は意外にスパルタだった。みんな戦いで疲れてるんだけどねー。
しかし聖宝石といい、やはり長生きしてるだけあって物知りだ。
それとまた、気になる単語が出てきたなー……邪神? ああ絶対に関わりたくねえー!
やがて聖宝石への魔力ごめは終わり、フローラ達はヘトヘトになって倒れ込んでしまう。
俺はフローラを抱えながら石を受け取ると、光精霊達は消えて辺りは暗くなる。
雅も力つき、うつぶせになって倒れていた。その代わり、婆が杖の先を鈍く光らせる。
「あとは海彦、そやつに聖宝石を当てながら名前をつけよ。それで儀式は終わりじゃ」
「えー! 名付けかよ! これ重用なんだよな?」
「あたりまえじゃ! 邪神より先に名付けなければならん」
「あーそれで、神怪魚に名前があるわけか? 分かった……」
と言ったものの、これは悩みどころである。
ゲームだったら自分の名前にしてるが、生き物につけたことがないからかなり迷う。
生活がかかってたので、海で獲った物は食うか売り払ってました。
魚は一匹も飼ったことはありません。しゃーない、連想して考えよう。
フタバサウルス――双葉から本葉へ……。
「決めた! お前の名は――」
俺は聖宝石をチビ竜に当てる。
「リーフ」
と言った途端、子供はまぶしく光る。
それは一瞬で終わり、フタバサウルスの子は大きく変化していた。
「ひょひょひょひょ。上手くいったようじゃのう」
「おおっ!」
俺はその姿に驚く。




