話を聞くしかない
大樹の高さは百メートルはあるだろう。幹周りも三十メートル以上だと思う。
あくまで俺の目測だ。
上を見上げれば、蔦や縄が垂れ下がっており、登れるようになっていた。
見張り小屋のような物が、かなり上に見えた。俺の視力は良い方である。
大樹の下には、二階建てのログハウスがあった。
ここが族長とやらの家だろう。とっくに目的地に着いていたらしい。
話を終えた、エイルさんが近寄ってくる。
「海彦さん、すみません。急患が入りましたので、私は診療所に戻ります。夫は中にいますので、遠慮せずにお入りください。あと、お足の汚れはあちらで」
「分かりました」
俺は素足で歩いて来たので、近くにあった水桶で泥を洗い落とす。
エイルさんは足早に去っていった。慌ててるので、重傷患者なのかもしれない。
家の前にはウッドデッキがあり、俺は階段を上がる。
椅子やテーブルがたくさんおいてあり、結構広い。寄り合いなんかで使うのだろう。
歩いて両開きドアの前にくると、俺は緊張する。
何を言われるのか? 何をされるのか? 分からないから恐いのだ。
とはいえ引き返す道はない。勇気を出して、俺はドアを開けた。
「失礼します」
分厚い扉は思ったより軽く、静かに開いていく。
赤い長絨毯が奥まで続いており、大広間になっていた。
木製の調度品がそろえられ、立派である。客間なのであろう。
奥には椅子と円形テーブルがあり、二人が座っていた。
キョロキョロしながら、俺は前に進んでいく。他に人は見当たらない。
俺が近づくと、族長らしい人物が立ち上がった。
「ようきたのう、異界人。儂らエルフはお主を歓迎する。まあ座ってくれ」
「はあ……」
言われるままに、俺は椅子に腰掛けた。
目の前にいる男性は髭を生やしており、特徴がある。
年寄りくさい言い方なので、高齢なのかもしれないが、どう見ても若く見える。
つうか、どいつもこいつも、顔に皺はないし白髪もない。
見分けがつかねーんだよ!
あっ! そう言えば思い出した。エルフは長命種じゃなかったか?
ゲームや映画で見た記憶があった。長耳に高身長で美形。
貧乏人の俺でも中古品を買えば、娯楽品は手に入り、それなりの知識は得られる。
あと、人からもらった物も多い。現代は物が多すぎて余っているからだ。
ただエルフは、架空の世界にいる亜人のはずだ。
どうやら俺は、幻想世界にやって来たらしい。
やはり異世界か……。
「儂の名はロビン、エルフの族長をやっとる」
「幸坂海彦と申します。よろしくお願いします」
「うむ」
俺は名乗って挨拶する。族長の隣にいるのは、穂織に似た暴力女だ。
そっぽを向いて、俺を見ようとはしない。
目を吊り上げて、頬をふくらませて怒っている。
俺としては助けてやったつもりなんだが、何かしでかしたかもしれない。
後で聞いてみよう。憎まれたままでは気分が悪い。
「幸坂殿、まずは娘を救ってくれた礼とお詫びを申し上げる……コラッ! フローラ! 謝らんか!」
「……殴って悪かったわね、フン!」
とても謝ってるようには見えない。嫌々喋ってふんぞり反っていた。
まるで穂織そのものだ。顔だけでなく声もソックリで、俺は錯覚する。
ただ呆れるほかはない。
「すまんのう、はねっ返りな娘で……」
「いえいえ、俺の方こそ、介抱していただき感謝してます。それで……」
「うむ、分かっとる。聞きたいことが一杯あるのじゃろう? 順を追って話すがよいか?」
「はい」
「なかなか肝が据わっとるなお主。知らん場所にきて、わめき出すかと思ったが、感心感心」
族長は褒めてくれたが、俺は単に開き直っていただけだった。
まな板の鯉というやつだ。
「まずここは、ヘスペリスという世界じゃ。儂らが住んでるここら一体は、女神の湖と呼ばれておる。五女神の加護の元、我らは平和に暮らしておる。世界がどれくらい広いかは知らん。外に冒険に出た者は、帰って来ないからのう……」
「やっぱり、日本じゃないんだ……」
「うむ、地球とやらではない」
現実をつきつけられて俺はガッカリしたが、族長の話を聞くことにする。
知りたいことはこれからだ。
日本に帰る方法があれば良いが……。




