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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第四章 湖めぐり旅2
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挟み撃ちされるしかない

「前進してから散開だー! バラバラになって逃げろー! 攻撃はするなー!」


 俺の声はみんなに届いているが、船が密集していては自由には動けず、退避行動は遅れる。

 それと、戦いを止めない者もいた。


「よくも仲間をやってくれたな! 絶対やっつけてやる!」


「ああそうだ! そうだ! やってやる!」


 数艘の小舟が残り、反転してフタバ竜に向かっていった。


 怒りのあまり頭に血が上ってるから、俺の命令は無視されてしまう。


 いくら銅鑼を鳴らしても無駄だった。もう止めようもない。


 ただ短気は損気、小舟は不用意に近づいた途端、奴の尻尾で叩き壊されてしまった。


「うわあー!」


 ただ湖に落ちた者は無視され、フタバ竜は俺達本隊を追ってくる。


 やはり巫女狙いか? こっちが危険だと判断したのだろう。


「いわんこっちゃない! 雅さん、伝令隊も救助へ向かわせてください!」


「分かりました、海彦様!」


 命令違反にはムカついてるが、仲間を見捨てるつもりはない。


 俺まで怒って、判断を誤らせるわけにはいかなかった。


 それに立ち向かってくれたから、味方が退却する時間を少しは稼げたので、あとは小島から離れればフタバ竜は追ってこなくなるはずだ。


 それにしても、なんで奴は無傷なんだろ? ……その答えはすぐに分かった。



「なんだー!?」


 今度は前方で大波が立ち、船が揺れる。


 俺達は前進して逃げていたが、船足は遅くなりまともに進めなくなる


「プオオオオーン!」


「おい! おい! おい――――!」


「嘘でしょ――――!」


 俺達は大声を上げて、大混乱し錯乱する他はなかった。


 なにせ、前方にもう一頭のフタバ竜が現れたのだから。


 もっとも、これで全ての謎は解ける。


 フタバは双葉で一葉いちようにあらず、フタバ竜は始めから二頭いたのだ。


 その証拠に前方のフタバ竜は傷だらけである。コイツがさっきまで戦っていた奴だ。


 その傷も赤い精霊が矢を抜いて、塗り薬を塗ってやしている。


 多分、もう一頭が精霊を召喚して治してるのだろう。すでに大部分の傷が塞がっていた。


「そんな、神怪魚が樹精霊(ドリア―ド)を使うだなんて!」


 ロリエにとってはショックだったようだ。


 治療師ヒーラーとしては、お株を奪われたようなものだから。


 今回は盾精霊じゃなかっただけで、その代わりに治療魔法を使ってきやがった。


 二頭いたのも想定外、ホントにどうしようもない。



「パオオオーン!」


「プオオオーン!」


 もっとも驚いてる暇はなく、俺達は挟み撃ちにされていた。これは大ピンチ!


 逃げ場はなく、このままでは全滅だ。そこに声が聞こえてくる。


「くそ! どうすれば――!?」


「勇者殿ー! 我らが囮になるでござるー! その間にお逃げくだされー!」


「アタワルパさん!」


「皆の者、いくでござるよ!」


「オオオー! おさに続けー!」


「アマラもいく!」 


 かぎ爪をつけた獣人達が、フタバ竜に果敢かかんに襲いかかる。


 湖面を見れば人魚達が樽を運んできており、ピョンピョン攻撃は可能だった。


 とはいえ二頭が相手だと、頭数が足りなくて獣人達でもきつくて苦戦している。


「儂らもいくぞー!」


「おお――!」


 そこにエリックさんと騎士達が参戦し、次々と樽を飛び移っていく。


 獣人には及ばないが、素早い身のこなしと見事なバランス感覚がある。


 流石は元勇者、騎士とひそかに特訓をしていたのだろう。


 船上で華麗かれいに戦う、海賊を思わせる。


「チェストー!」


 掛け声とともに振り下ろされたのは日本刀、フタバ竜の皮膚がスパッと斬られた。


 百科事典を見せた時、エリックさんが気に入って作らせていたものだ。


 アルザスの西洋剣は叩いて相手にダメージを与える物で、日本刀は鋼鉄と軟鉄を合わせて、「斬る」ために作られている。


 刀を使いこなすには技能はいるのだが、王様達は余裕で振り回していた。


 切れ味から察すると、かなりの名剣を作ったようだ。


 獣人達と抜刀隊の活躍で、艦隊は態勢を立て直すことができた。


 今が逃げるチャンス!

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